44話 昼のピクニック
結局、大猩猩討伐は昼前に終わってしまった。
魔標門のあるドラゴンの巣跡に戻り、とりあえず一息ついた。
大量の猿の死骸が、俺の異次元空間に貯まっている。
このままここで、ザンバたちに解体させるか?
「おいザンバ。猿どもの死骸を、ここで解体するか?」
「解体って、いったい何が何匹あるんだよ! 相当な数じゃないのか?」
そうだな、相当な数だ。
カーバンクルは全部解体してもらったが、残りは手付かずだからな。
「灰色大猿が5匹、毒吐猿が55匹、大猩猩が86匹だな」
「な……何だよその数は! 無理に決まってるだろ」
何だよって、大猩猩はお前も見ただろう。
「数はともかく、そいつらはギルドに頼んだ方がいいぞ」
ヴィオがそう言うのには何か理由があるのだろう。
「どういう意味だ?」
「灰色大猿は毛皮が固くて解体には特殊なナイフが必要だし、毒吐猿は毒袋の処理が厄介だ」
ふむふむ、なるほどな。
「で、大猩猩の毛皮は高級品だから、上手く剥がないと値が極端に下がるぞ」
それは問題だな。
「その前に、この数じゃ日が暮れちまうしな」
結局はそこだな。
「それならギルドに頼む事にするか」
「ああ。金はかかるが、そうした方が無難だな」
ザンバがほっとした顔をしてるのが気に入らないが、仕方あるまい。
では、特にもうここには用はない。
帰るとするか。
「ルーナ。街へ帰るぞ! ……ん? どうかしたのか?」
ルーナは何か言いたげな顔をしている。
「お腹が空いたのです!」
いや、俺はさっき魔素をたっぷり吸いこんだから腹は減ってないぞ。
お前はいつも腹が減ってるんじゃないのか?
今日一番何もしていないはずなのに、なぜおまえが言い出すんだ?
と言うより、帰ってからでもいいんじゃないのか?
「ここも今日で最後です。せっかくですから、戻るよりここでお弁当にしましょう」
グラシアがそう言うので、ここで昼食をとることにした。
みんなそろって楽しいお弁当タイム。
今日のメニューは、おかみさん特製のシチュー入りパン。
もちろん魔法で温かいままだ。
「美味しいね♪」
「おう! そうだな」
魔素をたらふく喰ったが、これはこれ。
甘い物ならぬ“美味い物”は別腹だな。
みんなも、のんびりとシチューパンをほおばっている。
って……どっからみても、まんま遠足のお弁当タイムじゃねぇか!
「しかし驚いたぜ!」
昼食を取り終わったザンバが、思い出したようにそう言った。
何だ?
金色大猩猩のことか?
それとも俺のかっこいいスーパー魔法、 “悪魔の贈り物”のことか?
「ルフォールがバスターソードに変化するなんて、初めてだったからな」
なんだ、自分の事か。
「それにルフォールの奴、『バスターソードになるぞ』って念話を送ってきやがった」
「「「「ええーっ!!!!!」」」」
俺を含めたルーナ以外は、一斉に驚きの声を出した。
ルーナ?
俺の隣で、まだパンを食ってるよ。
美味そうにな。
「今のは本当ですか?」
「まさか、この時が来るとは……」
グラシアとドーリは、信じられないといった表情ながらも、嬉しそうだ。
「これは今回一番の大事件だな」
ヴィオのは半分馬鹿にしてる台詞だな。
しかし最後の最後に、ザンバに美味しいところを持って行かれたようだ。
俺のスーパーかっこいい魔法での活躍も、ザンバの発言で霞んでしまった。
一応、ザンバも活躍したしな。
米粒ほどだが……
「その話は酒の肴に取っておいて、そろそろ帰ろうぜ!」
うーむ……ヴィオは今日も飲む気満々だな。
肝臓がフォワグラ化しないのだろうか?
それとも、すべて爆乳の栄養になっているのか?
「どうしたのクロム? 疲れたですか?」
「……い、いや、何ともないぞ!」
危ない危ない。
またヴィオの“爆乳の狂気”に“憑かれる”ところだった。
「何やってんだクロム。帰るぞ!」
何って、お前の狂気に抗ってるんだよ。
「おお、今行く! …………ん?」
気のせいか?
何かの気配がしたような……
「クロム? 早く行こう!」
「ん?……ああ、そうだな」
気のせいだな。やはり少々疲れているかもしれん。
いや“憑かれている”のか?
「みんないいか、帰るぞ。門よ、開け!」
ヴィオの呪文とともに俺たちは光に包まれ、森を後にした。
クロムたちが消え去ったドラゴンの巣跡に、一人の男が突如現れた。
「魔標門でお帰りとは、贅沢な奴らだな」
男はヴィオの魔標門に向かい手をかざしたが、思い直したように手を降ろす。
「壊すと、不味いな……」
男は魔標門を破壊することで、ここに自分の存在を残す事を嫌ったようだ。
「空間魔法をやすやすと使うって事は、大猩猩の群れを瞬殺したのもあいつ等だろうな」
どうやらこの男は、大猩猩の群れの気配が消えたために、森へ来たようだ。
「今までの件も、あいつ等か? ……だろうな」
誰に言うともなく、男は独り言を続ける。
「クソッ! 人の仕事をぶち壊しやがって!」
荒げた声を聞くものはいない。
聞こえたとしても、それは意味の分からぬ魔物どもでしかない。
「すこし、探ってみるか……」
そう言うと男は、現れた時と同じように一瞬で姿を消し去った。
男が消え去ったあと、辺りは静まり返り、遠くで猿の鳴き声が響くだけだった。
タイトルは、夜のピクニック/恩田陸 より拝借
ってか、ピクニックが昼なのは普通だよな。




