43話 天の煙はすべて猫
「“氷結の盾”!」
「“雪の嵐”!」
「“氷の刃”!」
グラシアは氷の盾で衝撃波を防ぎ、吹雪を目くらましに使い、氷の斬撃を放っている。
見事な三連コンボだ。
「止まれ!!」
「これでも喰らえ!」
ドーリは魔法で足止めをし、戦斧で攻撃を仕掛ける。
魔法と斧を組み合わせた見事な戦い方だな。
「うりゃー!」
「とりゃー!」
……ザンバよ、まずその掛け声はどうにかならないのか?
それに、衝撃波はどうにか防いでいるようだが、その剣さばきでは敵に当たらないぞ。
剣を振っていると言うより、自分の剣に使われているな。
まあ、ルフォールがなんとかするだろ。
ザンバたち三人の戦いぶりを横目で確かめながら進み、白銀大猩猩たちと対峙する。
奴らの真上には、まだ“巨大な煙の俺様”を漂わせたままだ。
「雑魚は先に消えてもらうとするか。“悪魔の閃光”!」
頭上の“俺”から落ちた稲妻が、白銀大猩猩の周りの生き残りどもに降り注ぐ。
威力を高めた魔法は、結界を貫き大猩猩どもを瞬く間に絶命させる。
え、何? “荒れ狂う雷”と何が違うのかって?
名前が違うだろ、名前が!
「これで、ボスキャラだけだな」
さて、少々変わったものをお見せするか。
「受け取れ! “悪魔の贈り物”!!」
上空に漂う“俺”から、黒い光が白銀大猩猩へと放たれる。
「ギャッ? グゥウ?」
黒い光は、強力に張ったであろう白銀大猩猩の結界を、難なく突き抜けていく。
「たーんと召し上がれ! ってね」
黒い光の正体は、先ほど吸った大猩猩どもの大量の魔素だ。
魔素を防ぐ結界を張ったのなら別だが、通常の結界など何の役にも立つはずはない。
結界を素通りした大量の魔素は、白銀大猩猩の体へと次々に入り込む。
「ギャウゥゥ? グルゥウゥ? ギュエッ!」
「どうだ? 濃厚な魔素の光を浴びるのは、いい気分だろ!」
とその時、頭の中にヴィオの声が響いた。
『おいクロム。お前何やってんだ?!』
ルーナとの念話回路を使って遠話をしてきたな。
『何って“レガロ・デル・ディアブロ”、悪魔からの贈り物だよ』
『あれ……魔素だろ?!』
『そうだな、さっき集めたヤツだ』
『おまえ、パンクさせる気だな! 爆発してしまうぞ!!』
違うな。
パンクさせたら体が破損してしまう。
せっかくの高価な毛皮も台無しだろ。
大猩猩の黒い光沢のある毛皮は、貴族に人気で高額で買い取られる素材らしい。
それが珍しい銀色だったら、どうなる?
それがもし、金色の毛皮だったら……どうなる?
『パンクさせる気はない。安心して黙って見ていろ』
「ギュエッ! ギャゥググゥ」
濃厚な魔素が体内へと入り込むほど、白銀大猩猩の体毛は美しいプラチナゴールドへと徐々に変わっていく。
「そろそろ……かな」
さじ加減が難しいな。
魔素が多過ぎれば体ごと破壊されてしまい、せっかくの金毛の毛皮が台無しになる。
少なければ、ただ単に白銀大猩猩の進化を促しただけになる。
そう考えると少ない方がまだマシだ。
別の方法で倒せばいいだけだからな。
「こんなもんか……」
体毛が全てプラチナゴールドに変化して、完全に金色大猩猩へと進化したようだが、顔は苦しげだ。
「“止めろ”」
俺の言葉で魔素の供給は停止された。
あとは、どうなるかだな。
「ギュエッア! ギャゥググゥアァァァ――」
断末魔の叫びか、それとも進化の雄叫びか……どっちだ。
「ァァァ…ァ……ァ………ゲロゥグァ……」
終わったな。
賭けは俺の勝ちのようだ。
白銀いや金色大猩猩は、口から魔素の塊りを吐き出し、そのまま息絶えた。絶命した。
傷一つない見事なまでのプラチナゴールドの毛皮のまま……
「さて、魔素を回収するか」
金色大猩猩の前に行き、放出される大量の魔素を吸い取る。
所詮、魔物は生き物だ。
俺たち召喚魔のような精神生命体ともいえる構造とは訳が違う。
魔素は魔物のエネルギーになるが、急激な過剰摂取は逆に命取りにもなる。
何でも取り過ぎは禁物ってことだな!
あとは……“これ”だな。
目の前に落ちている黒い魔素の塊りを、いつものように結界で包み込み、異次元へしまい込んだ。
前から思っていたのだが、この魔素の塊りは禍々しさが意図的過ぎる。
先程の俺の魔法よりも、こちらのほうが“悪魔の贈り物”と呼ぶに相応しいな。
とりあえず終了だな。
無意味に大きくしていた体を元の大きさに戻し、後ろを振り返る。
どうやらザンバたちの方も片付いたようだな。
「おいお前たち、終わったぞ!」
ザンバたちは俺の声に気付き、大猩猩の死骸を縫うように近づいてきた。
「すげぇな、これ。金ぴかだぞ!」
「こんな大猩猩なんて見たことないわ」
「……だな」
立ち往生した金色大猩猩の姿を見て、ザンバたちは口々に感想を述べる。
いや、ドーリは何も述べてないな。
「相変わらず、えげつない魔法を使う奴だな。どうなるかと思ったぞ」
「えげつないのです!」
遅れてヴィオとルーナもやって来た。
ルーナは“えげつない”の意味を分かって言ってるのか?
「結局、ザンバたちのサポートも必要なかったし、オレは特に何もしてねぇな」
大丈夫だ、ヴィオの仕事は残っている。
「そうだろうと思って、とっおきを残しておいたぞ」
「何っ! ……まさか? ……ああ、わかった、やるよ、やればいいんだろ」
分かってるじゃないか。
「こればっかりじゃねぇか……蜘蛛の巣!」
ヴィオは魔法で地面に蜘蛛の巣を張り、死骸を一気に包み込むようにかき集めた。
そう……
残っている仕事とは、もちろん大猩猩の死骸回収だ。
大事な仕事だぞ。
貴重な資金源だからな!
タイトルは、天の光はすべて星/フレドリック・ブラウン より拝借




