42話 相当な悪魔
一夜明けて……
「今日は全員で行くぞ!」
「マジかよ! 今日も留守番かと思ったぜ」
「足手まといにならないように頑張りましょう!」
「……そうだな」
ザンバ、グラシア、ドーリ、三人とも嬉しそうだ。
いや……ドーリはよく分からないな。
今日中に終わらせる気満々なので、魔標門を守る必要は、はっきり言って無い。
それに、ザンバたちは何の活躍もしていないからな。
さすがに留守番だけでは可哀想だ。
昨日と同じように、ヴィオに先に転移してもらい、そのあと全員で遠話装置兼簡易転移門で呼んでもらう。
「この先に大猩猩の群れがいるって訳か。腕が鳴るぜ!」
ザンバは無駄に張り切っている。
一番要らない子なのだがな……
「ザンバ! 無理は禁物よ」
「クロムの邪魔だけはするなよ!」
グラシアはともかく、ドーリの言い方はさすがにどうかな?
正しいけど。
「わたしはどうすればいいのなのですか?」
そうだな……いくら護りの腕輪があるからといって、戦地でひとりぽつんと立たせている訳にも行くまい。
「ルーナ、お前はヴィオの傍にいろ! ヴィオはルーナを頼む」
「わかった。オレに任せとけ! って言っても、オレが作った腕輪があるから何の問題もないはずだぜ」
「万が一ってこともあるだろう」
自分の魔道具に余程の自信があるのだろうが、何事にも100%はない。
「そりゃそうだな。何があってもルーナは守ってやるから、クロムは安心して大猩猩を倒してくれ」
ヴィオは俺にひたすら働かせて、高みの見物をする気だな。
まあ、仕方あるまい。
ルーナを守ってもらえるなら、俺が全滅させてやろう!
ああ、そうだ。
ザンバたちの分は残さないとな。
「それで、どういった作戦で群れを倒すんです?」
グラシアが真面目顔で聞いて来た
ん? ああ……作戦ね。
「そうだな……俺が、“がばーっ”と群れを倒すから、撃ち漏らした奴らをザンバとグラシア、ドーリで倒してくれ」
「え? ……が、がばーっ…と?」
「何だ、グラシア。 “がばーっ”が駄目なら、“どばーっ”でもいいぞ! ヴィオはルーナを守りつつ、みんなをサポートしてくれ」
「はいよ!」
「そしてボスキャラは俺が“ちゃちゃっ”と倒す! 以上だ」
「“ちゃちゃっ”と…って……」
グラシアがまだ何か言いたそうだが、放っておこう。
「異論はないな! では……行くぞ!」
俺たちは大猩猩の群れを倒すべく、森のさらに奥へと足を踏み入れた。
「おいおい、これ全部倒すのかよ」
「これを“がばーっ”っと倒す? ……」
「普通は……無理だな」
ザンバたちが群れを見て、小声で何か言っている。
無視しよう。
群れがいた場所は幸いにも、俺たちがいた空き地とまでは行かないが木々のあまり生えていない、森としては見通しの良い場所だ。
「たぶんここも、元々はドラゴンの巣跡だったんじゃないかな」
ヴィオが言うには、森にあるこのような場所は、ほとんどがドラゴンの巣跡らしい。
ドラゴンの結界も、数か月もあれば消えてなくなり、魔物もやって来る。
数年、数十年後には、こうした中途半端な空間が出来るのだそうだ。
「戦うには好都合だな」
俺には森だろうが木があろうが何の障害にもならないが、ザンバたちではそうもいかないからな。
「さて……戦う準備は出来たか?」
「お、おう!」
「だ、大丈夫です」
「……ああ」
若干、心の準備が微妙なようだが、まあ問題ないだろ。
ヴィオとルーナは……
「任せとけ!」
「全然大丈夫なのです」
ルーナは別に何もしないけどな。
「では、始めるぞ!」
昨日寝る前に考えた必殺技をご披露しよう。
「“喫煙の悪魔”!!」
呪文とともに、大猩猩の群れの上に煙が立ち込め、巨大な“俺”の姿を形どる。
技を考えていた時間より、技名を考えていた時間の方が長かった気がする。
呪文なんて必要ないのに……
こういうのは“形”が大事だからな!
「なんだありゃ?!」
「ク、クロム……?」
「……だな」
よし、いいぞ!
ザンバたちは驚きの眼差しで煙を凝視している。
自画自賛だが、我ながらド派手な魔法だと思う。
「“吸え(フマール)”」
声を合図に、上空の“俺”は大猩猩どもの魔素を強制的に吸い取る。
魔素を吸い取られた大猩猩たちは、次々と崩れるように倒れていく。
「反則技だな。……まさに“悪魔”だぜ」
いやいや、ヴィオが工夫しろと言ったんだろ!
「これじゃ、並みの魔物は防ぎようがないな。全滅か?」
「いや」
意図的に、前方の大猩猩は残しておいた。
もちろんその理由は、ザンバたちに活躍の場を与えるためだ。
しかし、それ以外にも生き残っている奴がいる。
ボスキャラ、金色大猩猩になりかけの白銀大猩猩と、その周辺の雑魚たちだ。
結界魔法で防いだか……
「そうでなけりゃつまらん! ザンバ、グラシア、ドーリ、前方の雑魚を頼む」
「おう!」
「了解です」
「……わかった」
三人は口々にそう言うと、各々剣を構え大猩猩に向かっていった。
いつのまにかザンバの剣はバスターソードのような大剣へと変化している。
相変わらず持ち主無視の変化なのだろうが……
「ヴィオはサポートを頼む。ルーナはヴィオから離れるなよ」
「まかせとけ♪」
「りょーかい! なのです」
「俺は、ボスキャラ退治に行ってくる」
「気を付けていってらっしゃいなのです!」
……出社前の新婚さんじゃないんだがな。
ルーナの気の抜けそうな言葉に見送られ、俺は大猩猩の死骸の中心にいる白銀大猩猩へと向かっていった。
タイトルは、双頭の悪魔/有栖川有栖 より拝借




