41話 ヴィオのふくろうは日暮れじゃなくても飛び立つ
昼休みを終え、空き地から毒吐猿を倒した場所に転移し、さらにしばらく奥に進むと、ヴィオが大猩猩の気配を察知した。
それも、かなりの数の大猩猩の気配を……
「おいクロム。やはり原因は大猩猩のようだぜ」
「群れ、か?」
「ああ、そうだ。数までは分からねぇが、この先に相当いるぜ」
「どうにかして確認したいところだな。……俺が一人で行くか」
想像通りに白銀大猩猩がいるかどうかの確認もしたい。
進むにしても、一旦戻るにしても、極力状況を把握しておきたいところだ。
「いや、そういうのはこっちに任せろ! 出てこい、トリヴィア」
ヴィオが腕輪に向かって声を掛けると、ヴィオの召喚魔の黒フクロウが現れた。
「ホッー、ホッ! …………」
店の中じゃなければ話せないんだったな。
トリヴィアを飛ばして、斥候代わりにしようって魂胆か。
そういえば、トリヴィアの能力を聞いてないな。
「トリヴィアは何か特殊能力でも持ってるのか?」
「言ってなかったな。コイツの能力は、言うとすれば“目と脳”だな」
「目と脳、だと?」
意味がわからんな。
「……説明が面倒だ。トリヴィア、行って来い」
「ホーッ!」
ヴィオの命令でトリヴィアが飛んでいく。
「いや、説明はしろよ!」
「しかたねぇな。簡単に言うと、トリヴィアが見たのものは全てコイツの脳内に保存される。そして、それを映像化出来るんだ」
えーっと、早い話がビデオカメラってことかな?
斥候代わりというより、斥候そのものじゃないか。
ドローンだな、ビデオカメラ付きのドローンだ。
「他にももっといろいろ出来るぜ。例えば、本なら開かなくても中身が分かるし、人や魔物の能力も見ただけである程度は分かるな」
マジかよ、便利だな。
……ん?
それなら当然、本の中身も脳内に保存されるのか? ってことは……
「さっき言ってた“脳内図書”ってのは――」
「あ? ああ、それもトリヴィアの能力だ。今まで見た本は全て保存されているし、中身も簡単に検索できるぞ」
訂正だな。
ドローンじゃなくコンピューターだ。
そっち系の能力てんこ盛りじゃないか!
便利すぎるにも程があるぞ。
攻撃特化の俺が霞んで見えるな。
「おっ! そろそろ帰って来るぞ」
ヴィオの言う通り、少し経つとトリヴィアが戻ってきた。
「ホーッホッ!」
「お疲れ、トリヴィア。 早速だが映してくれ」
トリヴィアが目から光を発すると、目の前の空間に映像が映し出される。
まるでプロジェクターだ。
「想像通り、だったな」
「いやクロム、想像以上、だぜ」
俺たちの想像通り、森の奥には大猩猩の群れがいた。
そして俺たちの想像以上に、その群れの数は多かった。
その群れの中に、一際目立つ大猩猩が一匹いた。
一回り大きい体躯とその色で、この群れのボスと分かる。
「こちらも想定通りだが、これが白銀なのか?」
映像のせいかもしれないが、若干金色に見える。
個人的にはシルバーと言うより、ホワイトゴールドと言った方がいいような気がする。
「……不味いな」
「何がだ?」
「こいつ、金色大猩猩になりかけてるぞ」
なんだ、白銀大猩猩だけじゃなく金色大猩猩まであるのか。
まるで冒険者のランクだな。
「金色大猩猩だとどうなんだ?」
「白銀大猩猩の影響力は、同じ大猩猩だけだが……」
だけだが?
「金色大猩猩になると、周辺の猿すべてが支配下になるな」
「すべて……だと?」
おいおい、この森に猿系の魔物が一体幾らいると思ってんだ?
すべてと言ったら、相当な数だぞ。
「それは不味いな」
「だろ!」
そいつらが一斉に襲ってきたら、いくら俺でも結構ヤバいぞ。
殺られはしないけど。
「だがまだ“なりかけ”だ。数日は大丈夫そうだ」
「ちなみにこいつの能力は分かるのか?」
「そうだな、トリヴィアの“目”の情報だと、衝撃波とそれを応用した魔法、あとはいろいろそれなりだ」
なんだよその“いろいろそれなり”ってのは。
もう少しちゃんと説明しろよ!
だが“それを応用した魔法”とやらは気になるが、衝撃波は最低でも獅子王蟻級はあると思った方がいいな。
さすがに今までのようにはいかないかもな。
「とりあえず、いったん帰るか」
「そうだな。そろそろ夕暮れ時になるし、戦うのは明日の方がいいだろ」
「賛成なのです!」
そういえば、ルーナもいたんだったな。
守りの腕輪のせいなのか、あいかわらず存在感が薄いな。
しかしこいつらが言うと、ヴィオは早く帰って飲みたいだけ、ルーナは早く飯が食いたいだけにしか聞こえんな。
理由はともかく、夕暮れ迫るこの時間に、戦いを始めるのは得策ではないのは確かだ。
戦いは、明日だな!
タイトルは、ミネルヴァのふくろうは日暮れて飛び立つ/ジョナサン・ラブ より拝借




