38話 猿ヶ森
ルーナとヴィオの準備はOK。
遠話装置兼簡易魔標門も持った。
昼の弁当も、もちろん持った。
「さあ行こうぜ」
「しゅっぱーつ! なのです」
「では、留守を頼むぞ」
いつものように大きくなり、ルーナとヴィオを乗せて森の奥へと向かう。
今日もヴィオは紐パンなのか、昨日と同じ感触が俺の背中に伝わってくる。
「ヴィオの胸が当たるのです。むにゅむにゅなのです」
上は上で、ルーナが何か言ってるが、気にしたら負けな気がする。
聞かなかったことにしよう。
「木よ避けろ!」
昨日も聞いたヴィオの呪文で、木々が道を開ける。
「わぁ! 木のトンネルぅ♪」
ルーナ……それ、どっかで聞いたことがある台詞だぞ。
木のトンネルを森の奥へと緩やかなスピードで進む。
所々に魔物の姿や気配を感じるが、攻撃してくる様子はないようだ。
あちらから攻撃してくる気配がないものを、こちらから攻撃する必要はない。
金になる魔物は別だがな。
猿の森と言われるだけあって、森林緑猿や悪魔猿のような小型の猿をちらほら見かける。
ちなみに悪魔猿という大層な名前がつているが、見た目が悪魔のようだというだけで、大したことのない魔物だ。
厄介なのは毒吐猿と灰色大猿、大猩猩といったところか。
毒吐猿はその名の通り、毒を吐く猿で、群れを成しているのでかなり厄介らしい。
灰色大猿は固い鱗のような毛に覆われた大型の猿で、普通の剣では傷つけることも難しいようだ。
そして、大猩猩。
森の王者と言われるこの魔物は、猿としては大型で、2mはあるらしい。
岩をも砕く怪力と、獅子王蟻のように衝撃波の咆哮を使い、知能もそこそこ高いらしい。
なかなか厄介な魔物だが、単独行動の性質なのが唯一の救いと言える。
「おいクロム、少し先に灰色大猿がいるぞ」
灰色大猿は大猩猩と違って、数匹の群れで動く魔物だ。
攻撃性もあるし、何よりその固い毛皮は金になる。
ここは先制攻撃しかないな。
「五匹、といったところか。殺るぞ!」
「はいよ、守りは任せとけ!」
ヴィオは攻撃より、防御や補助系が得意なのだろう。
というより、まだ一度も攻撃魔法は見ていないな。
灰色大猿どもに見つかる前に、スピードを上げて近づき魔法を放つ。
「“荒れ狂う雷”!」
呪文とともに稲妻が次々と灰色大猿を襲う。
五匹の灰色大猿は、こちらに気付く暇もなく息絶えた。
「……えげつないな」
ヴィオに言われると、なんだが腹が立つのは気のせいか?
「守りも何も、一瞬じゃねぇか」
いや、撃ち漏らす可能性もあるだろ。
「楽でいいだろ」
それより魔素だ、魔素。
お約束の、魔物の死骸から放出される魔素を吸い込む。
使った魔力の分よりは少ないが、多少の回復にはなる。
「金になるのは、毛皮と魔臓か」
灰色大猿をいつも通り異次元に放り込む。
あとでまた、ザンバたちに解体させるか。
「しかし何だな、灰色大猿ももう少し奥に住んでるはずだぜ」
柘榴猿のように、灰色大猿も奥から逃げてきたという事か。
「やはり、森の奥に何かあるな」
「だろうな」
問題は、その“何か”が、何なのかだが……
まあ、考えても仕方ないな。
実際に森の奥へ行ってみるしかあるまい。
「ところでクロム、あの辺に柘榴猿がいる。止めるぞ!」
ヴィオは突然そう言うと、間髪入れずに呪文を唱えた。
「止まれ!!」
マジか、早ぇよ!
「“氷針散弾銃”」
三匹なので、何とか場所を把握できた。
放った無数の氷の針は、どうにか柘榴猿に命中したようだ。
「ヴィオ、お前。早過ぎなんだよ!」
「いいじゃねぇか! 命中しただろ」
命中したからいいとか、そういう問題じゃないだろ。
阿吽の呼吸で動けるほどコンビ組んでないって!
動いたけど。
その頃……
「暇だな」
ザンバは魔標門の前で座り込んでいる。
「暇、暇って言ってないで、何かしたらどうなの?」
グラシアはひたすら剣を振っていたようだ。
ドーリは魔道書を読んでいる。
「何か、と言われてもな……」
「せっかく時間があるのだから、自分の召喚魔と対話出来るように努力してみろ」
ドーリが魔道書を閉じ、ザンバに忠告する。
「はいはい。 ドーリはいつもそれだな」
ドーリはいつも忠告しているようだが、どうやらザンバには真剣味が足りない様子だ。
「まあ、暇だしやってみるか」
これではザンバがルフォールと対話が出来るのは、まだまだのようだ。
タイトルは、猿ケ島/太宰治 より拝借




