35話 ヴィオと魔乳
「止まれ!!」
「“氷針散弾銃”」
ヴィオの魔法が、前方一帯へと効果を及ぼす。
右に2匹、中央と左に1匹、柘榴猿が一瞬動きを止めた気配を、俺は見逃さなかった。
ヴィオは俺が柘榴猿の位置を把握出来ないと踏んだのだろう。
絨毯爆撃の如く魔法の範囲すべてに攻撃を仕掛けろと言ったが、位置さえわかるならそれはただの魔力の無駄遣いだ。
無数の氷の針が、一瞬固まった4匹の柘榴猿を襲う。
「おっ! 命中だな。やるじゃねぇか!」
ヴィオは感心しているが、動きの止まった柘榴猿など、ただの置物にしか過ぎないからな。
魔法が当たらない方がどうかしている。
「んじゃ、回収だな。蜘蛛の巣!」
ヴィオは俺から降りると、蜘蛛の巣を投網のようにして柘榴猿を回収しだした。
……漁師かよ。
「早く魔素を吸い取らないと、拡散しちまうぜ!」
はいはい。
ヴィオの店に帰れば酒盛りに付き合わされるはずだ。
別にこの魔素を吸い取らなくても、何の問題もないのだが……
俺は言われるままに柘榴猿の魔素を吸い取る。
思いのほか良質の魔素だな、案外魔力が高いのだろう。
「4体か。ザンバにでも解体させるか」
解体と言っても、額の魔石以外、金になるのは魔臓くらいのようだが、いつものように魔法で異次元に収納する。
「どうする……もっと探すのか? オレはかまねぇぜ」
「いや、今日はこんなもんでいいだろう」
森までの移動だけでも結構魔力は使っている。
ヴィオも魔標門を作り、ザンバたちを転移させるのに魔力を消費しただろう。
お互いに余力は充分だろうが、深入りし過ぎは禁物だ。
いざとなったら俺は魔素水があるし、ヴィオだって回復薬ぐらいは常備しているだろうが、それはそれ、これはこれだ。
別に休みたいわけではないぞ。
「そうだな。そろそろ戻って休みたいしな!」
いや、だから休みたいとは言ってないんだが……
ヴィオは当然のように、俺の背中に乗り込む。
爆乳に負けず劣らずのお尻の感触が、相も変わらず伝わって来る。
この世界では紐パンの魔道士というのはスタンダードなんだろうか?
そんな訳ないよな。
来たときと同様に、ヴィオの魔法で木々は道を開け、楽々と空地へと戻ってきた。
しかしこいつ、なんだかんだ言って相当魔力を使ってるよな。
かなりの魔力保有量だぞ。
やっぱり、この爆乳には魔力が詰まっているのかもしれないぞ。
まあ実際は、店に置いてきた召喚魔をうまく使って、魔力を補充しているのだろう。
どういうシステムは理解できんがな。
「お帰りなのです♪」
危ない、危ない……
ルーナの声で現実に戻された。
どうもヴィオの爆乳は妄想を引き立てるな。
もしかして、これが魔乳というやつか?
「クロムがいないと、ちょっと寂しいのです」
「おっ、おお! それはすまなかったな」
やばい、やばい……
また妄想モードに突入しかけたな。
しかしよく考えたら、この世界に来てからルーナの傍を離れたのは、これが初めてだな。
ルーナの召喚魔になって数日しか経っていないが、すでに依存状態のようだ。
実際のところ、ルーナは村から出てきて一人ぼっちなのだから、本当に頼れるのは俺くらいだろう。
元々召喚魔という存在自体が“共依存”の関係だから、当たり前と言えばそれまでだがな。
とにかく、契約者に寂しい思いをさせるのは止めるべきだな。
便宜性を考えてルーナをここに置いておいたが、明日以降は考え直そう。
「でも、またまた鱗を見つけたのです♪」
ルーナは小さい玉虫色の竜鱗を、4枚出して俺に見せた。
先程の鱗はルーナの手のひらより大きかったが、今度のはその半分ほどの大きさだ。
「たぶん尻尾の方の鱗だろ。ジュエルドラゴンの鱗なら小さくても充分な値がつくぜ!」
俺の背中から降りて隣にいたヴィオがそう言ってきた。
これで今日の収穫は、ジェルドラゴンの鱗が、大5枚、小4枚、柘榴猿が4体。
五人で分けても充分な金額になる。
この依頼が終わるころには、ジャコモへの借金を全額返せるだろう。
売れればだが。
これを全てズッカのギルドに持って行っても、買取を拒否されるだろうな。
ズッカは所詮、田舎の大きな町程度しかない。
そこにある冒険者ギルドの資金力にも、おのずと限界があるのはしかたあるまい。
いっそのこと、すべてジャコモに売ってもいいのだが、そのジャコモにも資金力の限界があるだろう。
それに柘榴猿の魔石は買い取ると言っていたが、ジュエルドラゴンの鱗まで買い取るかどうかは分からんな。
「終わってからの話だが、どこで売るかが問題だな」
つい考えを口に出してしまった。
「ジャコモさんが買うんじゃないのですか?」
ルーナが俺の独り言に反応する。
さらに、ルーナのその言葉にヴィオが反応してきた。
「何だお前ら、あのクソ高利貸しを知ってるのかよ」
「ああ。ルーナの父親がジャコモに借金している」
「そうなのか……まあ、あいつは小物だが、バックはルグーザの大商人だからな」
ルグーザと言えば、ズッカから一番近い中核都市だ。
そこで大商人と呼ばれているなら、そこそこの資金力は持ち合わせていそうだな。
とにかく、売り先を考えるのは後でいい。
それよりも今は柘榴猿の解体だな。
「おい、ザンバ。これを解体してくれ」
ザンバの前に柘榴猿の死骸を出す。
「解体ね……なるほど、そういう事か」
「そういう事とは何の事だ?」
「こういう事さ」
ザンバは自分の刀を俺に見せた。
この森に転移してきたときは、大型のククリのようなナイフだったが、今は小型のナイフに変化している。
「ルフォールが勝手に変化したと思ったら、これが理由だったって事だ」
ザンバの召喚魔はルフォールという名の刀剣型の召喚魔だ。
良いのか悪いのか、ザンバの意志とは関係なく、状況を読んで勝手にその姿を変えるという不思議な奴だ。
俺の考えでは、実は相当優れた召喚魔なのではないかと思っている。
少なくとも契約者よりはな。
「それより解体ったって、魔臓ぐらいしか取れねぇぞ! 魔石は魔法で外したほうがいいしな」
何だそうなのか。
では魔石はヴィオに任せるか。
「魔石なら俺が外そう」
そうか、ドーリもいたな。ドーリに任せるとするか。
「それならザンバと二人でよろしく頼むぞ」
柘榴猿の処理はザンバとドーリに任せるとして、あとは何かあったか?
「それが終わったら、今日は何もないんだろ?」
「そうだな」
ヴィオの言う通り、何もないな。
「じゃあザンバ、早く終われ!」
「うるせぇよ! 今始めたばかりじゃねぇか!!」
……やれやれだな。
タイトルは、「美女と野獣」より拝借




