33話 森に眠る宝
「こりゃあ、たぶんドラゴンの営巣跡だぜ」
「ドラゴン♪ ドラゴン♪」
ヴィオは来て早々、空き地を見るなりそう答えた。
いろいろ聞きたいことが山ほどあるが、今は置いておこう。
「ドラゴンの営巣跡、だと?」
「ああ、ドラゴンが卵を産んで孵化させるまでの巣の跡だ」
「ドラゴン♪ ドラゴン♪」
「では危険なのか?」
「いや、この分だとだいぶ経ってるな。もう戻ってこないだろうから大丈夫だろ」
「ではここを拠点にしても……」
「問題ないな。しかしドラゴンの巣跡なんて珍しいな。オレも本でしか見たことないぜ」
大型のドラゴンは、せいぜい百年に一度ほどしか卵を産まないらしい。
つまり、このように巣跡を見つけることも稀なのだそうだ。
「ドラゴン♪ ドラゴン♪」
俺が感じた気配の残り香は、ドラゴンのものなのだろう。
さすがにそんなものは分かる訳ないな。
どうでもいいがルーナ、ドラゴン、ドラゴンと言いながらうろうろするな。
「ルーナ、あまり離れるなよ。危険だぞ」
いくら護りの腕輪があっても、用心するのに越したことはない。
「ああ、それなら大丈夫だろう。ドラゴンの巣には、魔物が近寄れないような魔法が掛かっている。その効力は完全じゃないが、まだ残っているな」
なんだその美味しい設定は。
「ということは……」
「ここで問題ないと言うより、ここが拠点に一番適してるな」
だろうな。
どう考えても、この森でここ以上に拠点にベストな場所はないだろう。
「さてと、オレはここに魔標門を作るから、クロムとルーナは……」
ヴィオは何かを思い出したように、にやりと笑った。
「この空地をくまなく探してみろよ。面白いものがあるかもしれないぜ」
「面白いもの……だと?」
「お宝と言った方がいいかもな」
ヴィオはそう言うと、今度はルーナに声を掛けた。
「ルーナ、この空地にお宝があるかもしれないから探してみな」
「お宝? 了解なのです!」
ルーナは楽しそうに辺りの草むらを探し始めた。
「お宝♪ お宝♪」
「ドラゴン♪」から「お宝♪」になったな。
「クロムも暇だろ。一緒に探せよ」
「それよりもヴィオ、お前さっきどうやってここに来たんだ?」
正確には、どうやって俺の位置を把握し、瞬時に目の前に現れたのか、だな。
「ああ、それか。ルーナとの念話を伝って来たんだよ。お前くらいなら多分出来るぜ」
ヴィオの説明によると、ある程度の魔力があれば、念話が届く範囲でなら召喚魔と契約者は互いの居場所へ転移できるのだそうだ。
俺くらいの魔力なら問題なく出来るようだ。
無知は無力という事か。
「それにオレの念話を同調させて、ルーナと一緒に転移してきただけだ」
簡単そうに言うが、それはちょっと難しいんじゃないのか?
本当に一介の魔道士なのか?
「もういいか? さっさと魔標門を作らないと日が暮れちまうぜ」
「済まん。邪魔したな」
「今回はしっかりと作ったほうがいいからな! まあ、その話は後で詳しく教えてやるよ」
そう言って、ヴィオは魔標門の準備を始めた。
仕方ないな。
魔標門が出来上がるまで、ルーナに付き合ってお宝探しでもするか。
「ルーナ、何かあったか?」
草の中を探しているルーナに声を掛けた。
「ねぇクロム、お宝ってこれの事なのかなぁ?」
ルーナは手にしていたものを俺に見せた。
それは、ルーナの手のひらより大きな、玉虫色に輝いた鱗だった。
「ドラゴンの鱗……だろうな」
ヴィオが言っていたのは、この竜鱗のことだろう。
たしかにドラゴンの鱗は高値で取引されるはずだ、お宝と言ってもいいだろう。
しかし、玉虫色のドラゴンとはな。
「あ、また有ったのです♪」
これで二枚か、いったい幾らになるのだろう。
「クロムも探すのです!」
「あ……ああ、分かったよ」
幾らかは分からんが、小遣い稼ぎ程度にはなるだろう。
「おい、魔標門の方はもういいぞ」
結局、魔標門が出来上がるまでに、俺とルーナで五枚の竜鱗を見つけることが出来た。
「ヴィオ、お前の言ってたのは竜鱗の事なんだろ?」
「おっ、五枚もあったのか、って……おい! これ、ジュエルドラゴンの鱗じゃねぇか!」
「じゅえるドラゴン……ってなに?」
ルーナが聞いたこともないのは無理もないだろう。
俺も知らないからな。
「ジュエルドラゴンってのはな、宝石のように美しい鱗のドラゴンのことだ。結構な希少種だぞ!」
名前通りと言ってしまえばそれまでだな。
「で、この鱗はいったい幾らになるんだ?」
「相場は知らんけど、普通のドラゴンの倍はするな。ひとつで1万レオネくらいはするんじゃないか?」
小遣いどころか、小金持ちレベルだな。
「まさか、ここの巣の主がジュエルドラゴンだったとは驚きだぜ」
しかし、これまたズッカじゃ売れないんじゃないのか?
少なくともギルドには予算がなさそうだが……
その時は獅子王蟻のように取っておくしかあるまい。
いやまてよ、ジャコモなら買うかもしれないな。
まあ、今考えても仕方ない事だ。
それより、あいつらを転移させないとな。
「鱗の話はあとでするとして、魔標門が出来たならザンバたちを呼ぼうか」
「ああそうだな、んじゃお呼びしますか!」
相変わらず軽いな……
タイトルは、森に眠る魚/角田光代 より拝借




