32話 Yeah! めっちゃ森でぇ
「森だな……」
「森だねぇ」
「森なのです」
予定より大幅に早く着いたセンテラの森は……予想以上に“森”だった。
いかにも“THE・森”である。
これが熱帯地方なら密林と言ってもいいだろう。
「森、森、言ってても仕方あるまい。入るか」
入り口と呼べそうな雰囲気の場所から奥への入る道を見つけ、そこから森へと足を踏み入れる。
俺は虎ほどの大きさから、中型犬ほどの大きさへと体を小さくした。
森の中では二人を背に乗せている訳にもいかない。
このくらいに体が無難なところだろう。
「あっ、そうだ。忘れてたぜ! ルーナ、これを飲んどけ」
ヴィオはどこからか小瓶を出してルーナに渡した。
「酒じゃないだろうな」
黒くはないので黒炎酒ではないようだが。
「酒じゃねえよ! 効果抜群のオレ様特製虫除けだ、1週間は持つぜ」
虫除けか、忘れていたな。
なかなか準備がいいな! 爆乳紐パン魔道士のくせに……
「この辺りはまだ人の出入りがあるようだな」
少し奥に入ってきたが、この辺までは人の出入りがあるようだ。
草のあまり生えていない道が続き、所々に切り株があり、強い魔物の気配も感じられない。
「この辺まではそこいらの森と変わらんな」
「角うさぎがいるですね」
「さすがにまだこの辺では、柘榴猿は出てこねぇだろ」
時折、角うさぎをはじめとした小型の魔物の姿はある。
しかしヴィオの言う通り、柘榴猿の類いの気配は感じられない。
「もう少し奥か。ルーナ、大丈夫か?」
「ぜんぜん問題ないのです」
そういえば、田舎育ちだったな。
山や森などお手の物のようで、鼻歌交じりのピクニック気分だ。
「おい、クロム。この辺でもうよくないか?」
よほどヴィオの方がへたり気味だ。
ここいらがいいところか。あまり奥でも危険だろうしな。
「ヴィオ、ルーナ、そこで休んでろ。俺が周辺を探ってくる」
ちょうど座れるような倒木があり、木漏れ日の差す場所があったので、そこで休ませることにした。
護りの腕輪もあるし、ヴィオならルーナを任せても大丈夫だろう。
「ちょっと待てよ! クロムお前、ルーナとどれくらいの距離まで念話できるんだ?」
えっ? 念話の距離?
ルーナから離れたこともないし、そもそも念話なんて、ほぼ使ってないし。
「ほとんど使わんから、知らんな」
「だと思ったぜ。一応、ルーナに念話増幅の魔法を掛けとくよ」
すまんな、何せ生まれたばかりなんで。
「あと、知ってるとは思うが、あまりルーナから離れると魔素の消費が激しくなるから気を付けろよ」
すまんな、知らなかったよ。何せ(以下略)
契約者から離れると魔素の消費が激しくなるとは知らなかったな。
ヴィオの忠告を頭に入れ、森の奥へと探索を進める。
すでに道と呼べるものはもう無い。
所々に木漏れ日が差し込むものの、鬱蒼と生い茂る木々のせいで視界は暗い。
俺には見えるから何の問題もないがな。
時々大したことのない魔物に出会うが、攻撃的ではないものばかりで何事も起こらない。
しかし、肝心の野営や魔標門の設置に向いた場所もなかなか見つからない。
だいたい森の中にそんな、ぽっかり空いたところが…………あったな。
少し向こうに明るく見える場所が見える。
明るいという事は空が見える、つまり木々がない場所だろう。
ここが“当たり”じゃなければ、他に見つけるのは難しいぞ。
最悪、無理やり作るか?
そう考えながら、明るく見える場所に向かう。
着いたその場所は――
「何だこりゃ」
まさにぽっかりと、森の中に空き地が広がってる。
短い草花が生えたこの場所は、住宅地の児童公園程度の広さはある。
ここなら問題ないだろう。
何もなければな。
いや、何もないのだが、何かありそうな不自然さだ。
どう考えても、こんな森のこんな場所にこんな空き地があるわけがない。
それに何かの気配が残っている。
「どうしたもんかな」
とりあえず連絡してみるか。
『おい、ルーナ。聞こえるか』
『はいはい、こちらルーナ。聞こえるのです』
『近くにヴィオはいるか?』
『いるであります!』
ヴィオに直接念話出来ればいいんだが、さすがに遠すぎて無理だろう。
ルーナを介して説明するのも面倒だが仕方あるまい。
『ルーナ、今からいう事をヴィオに伝えてくれ』
『――はぃ……わ…今……ちょ……――――』
ん? どうした、離れ過ぎたか?
それとも、ルーナたちに何かあったか……
どうする、戻るべきか?
『おーい、聞こえるか! オレだ、ヴィオだ』
なにっ、ヴィオだと?
なぜこの距離でヴィオと念話が出来るんだ?
『ヴィオ。どうやって俺と念話してるんだ?』
『うーん……ルーナを中継して念話してるようなもんだ。まあ、気にするな』
気にするなと言われてもなぁ。
やることがいろいろとハイレベル過ぎないか?
『で、何だ。オレに用があるんだろ』
『ああ。ちょうどいい空き地があるんだが、何かの気配も残ってるし、変に不自然なような気がしてな』
『そうか、じゃあ行ってみるわ。ちょっと待ってろ』
『待ってろって、おい――――』
切りやがった。
いったいどうやってここに来る気だ。場所が分かるのか?
いや、ヴィオなら来れそうだな、ヴィオなら。
タイトルは、松浦亜弥「Yeah! めっちゃホリディ」より拝借




