31話 紐○○の魔道士
「遅かったな。準備は出来てるぜ!」
店の扉を開けると、ヴィオが待ちかねたように言ってきた。
二度寝していた奴に言われるとはな……
「一応、みんなに説明しておく」
ザンバたちは真剣な顔になった。
ヴィオとルーナ? ……知らん。
「俺たちはこれから、ここにはいないことになる。 つまりヴィオの魔法で帰ってきても、この店からは一歩も出られん」
これを言っておかないと、不味いことになる。
一応俺たちは、これからセンテラの森へ出かけ、森の中で五日間過ごすというのが建前だからだ。
もしギルド長にでもばれたら、下手をすれば契約違反ということで報酬が貰えん。
7000レオネ、70万円は大きいぞ。
「食事や何か必要なものは、レネットとラエルが持ってきてくれる」
エフィルも手伝うと言ってきたが、さすがにギルド職員に片棒を担がせるわけにはいかないので、丁重にお断りした。
もしばれたらエフィルも充分にやばいだろう。
「それと、二階に客間が二つあって、ベッドもそれぞれに二つあるそうだ。手前にルーナとグラシア、奥はザンバとドーリの仮眠用にしてくれ」
森の中では選りの間、眠れる保証はない。
もし夜眠るのが難しければ、昼の間にはここに帰して仮眠を取らせる必要もあるだろう。
その場合、この二人は昼間は使い物ならないかもしれない。
あとは……
「店の物にむやみやたらと触るんじゃねぇぞ、ザンバ!」
ヴィオがザンバにだけ、そう言った。
確かに店の中には様々な魔道具が、所狭しと置かれている。
「何だよ、俺だけかよ!」
お前以外に誰がするんだ。
一番危ないのがお前なんだよ!
「いらねぇことをしたら痛い目に合うぜ! なあ、トリヴィア」
ヴィオはそう言って、自分の召喚魔である黒フクロウに目で合図をした。
「ホーホッ。覚悟してね♪」
「「「えっ! 喋った?」」」
そういえばこの三人は、トリヴィアが話すのを知らなかったな。
「言ってなかったな、トリヴィアは店の中でだけだが話せるんだぜ」
「それでもすげえな。ルフォールなんて意思の疎通もままならねぇのに」
「私のジュレも話せるようにならないかしら」
「なるほど、店全体に仕掛けをしているのか……勉強になるな」
三者三様の反応だが、ザンバはルフォールに舐められてるだけかもしれんぞ。
「ではそろそろ出発しようか?」
いくら俺でも、のんびりしていては森の着くまでに日が暮れてしまう。
ザンバたちを店に残し、俺とルーナ、そしてヴィオは森へと向かうことにした。
「さて、この辺でいいだろう」
街を出て森へと向かう街道で、俺は虎ほどの大きさへと変化する。
今日はルーナとヴィオ、二人を乗せるのでいつもよりは少し大きめにしておいた。
「おおっ、すげぇな! しかし、オレも乗って大丈夫なのか?」
問題ないだろう、ヴィオは細身だ。
ルーナと合わせても大した重さではないだろう。
たとえ爆乳でもな。
「お前を乗せたところで、どうという事はない。それよりこれを着けてみろ」
先程買ったばかりのゴーグルを二人に出した。
「風よけの魔法効果もあるそうだぞ」
「なんだ、そんなもんオレの魔法でどうとでもなるぜ」
まあ、言うと思ったよ。
「せっかく買ったんだ、そう言わずに着けろよ」
「ねぇクロム、似合う? 似合う?」
「なんだかドラゴン乗りの気分だな♪」
ルーナは何でも嬉しそうだ。
しかし、それ以上にヴィオはノリノリじゃねえか。
さっきの文句は何だったんだ?
「よし、二人とも背中に乗れ。飛ばすから気を付けろよ!」
二人を乗せ、徐々にスピードを上げ、鳥馬並みの速度で森へと向かう。
「さすがに飛べはしないんだな」
しばらく走るとヴィオが何やら戯言を呟いた。
……ヴィオお前、本当にドラゴン乗りにでもなったつもりか?
さすがの俺でも空は飛べない。
そのうち飛べるようになるかもしれないがな。
「景色が流れるようなのです♪」
今回はゴーグルの魔法効果のせいか、ルーナも周りの景色を楽しんでいる。
ルーナが楽しんでいるだけでも、ゴーグルを買った甲斐があったというものだ。
これならもう少しスピードを上げてもよさそうだな。
俺はさらに加速して、スピードを上げる。
この分なら予定より早くセンテラの森に着きそうだ。
しかしなんだな、ヴィオは胸もでかいが、尻もでかいな。
というか、もしかしてこいつ……
俺は一抹の不安を感じつつ、森へと急ぐ。
「おいクロム、そろそろ休憩しようぜ」
背中からヴィオがそう声を掛けてきた。
風よけの効果があるとはいえ、同じ姿勢ではさすがに疲れたのだろう。
さすがに俺も一休みしたいところだったので、減速をはじめた。
「あの辺がいい感じなのです」
しばらく進むと、小川が流れる休憩に持って来いの場所を発見した。
「ちょうどいいな、ここらで食事も取りながら休憩するか」
昼にはまだ早かったが、そう何度も休憩していては時間の無駄だ。
木陰もあるこの場所ならちょうどいいだろう。
大鍋亭で作ってもらったサンドイッチを食べながら、しばしの休息を取る。
ヴィオは何やら小瓶を取り出し飲み始めた。
「お前も飲むか?」
中身は例の黒い酒、黒炎酒のようだ。
昼間っから酒かよ、と思ったが俺には魔素水代わりになるな。
「もらおうか」
俺には魔素水代わりだが、ヴィオにとってはただの酒だ。
大丈夫かこいつは。
しかし、それよりずっと気になっていることがある。
「聞きたいことがあるんだが……」
「なんだ、大事な事か?」
「いや、そうではないんだが……」
「なんだよ、歯切れが悪いな。いいから言えよ」
「そうか…じゃあ聞くが、ヴィオお前………… 下着履いてないのか?」
そう、俺の背中に当たるヴィオのお尻の感触は、下着を履いているように思えない。
薄手の黒のワンピース越しの感触は、生尻のような気がしてならないのだ。
ブオッ…!!
ヴィオは俺の質問に黒炎酒を噴き出した。
「何かと思えば…… お前、オレを何だと思ってんだ? いくらなんでも下着ぐらい履いてるさ」
そうなのか、俺の勘違いか。
「紐パンだけどな」
………………そう来たか。
「何だよ、気になんのかよ。召喚魔だろ、お前! 変な奴だな」
ああ、そうですよ。召喚魔ですよ。
……元は人間の男性だけどな!
タイトルは、紐結びの魔道師/乾石智子 より拝借




