29話 なんですかソレは
「おい、ザンバ! グラシアとドーリも、明日の話なんだがちょっといいか?」
「何だ、クロム」
「なんでしょう」
「……うむ」
俺は、ザンバたちのテーブルで明日の予定を説明し始めた。
「明日は最初、俺とルーナ、ヴィオだけでセンテアの森に行く」
「なっ――」
ザンバが文句を言いかけたが、グラシアがそれを制して俺に話を続けるよう目で促した。
「そして、森でヴィオが魔標門を作り、お前らを転移させる」
「……なるほどな」
珍しくドーリが先に口を開いた。
「森に魔標門を作り、空間魔法でズッカと簡単に行き来できるようにするつもりだな」
さすが魔道士だけあって、理解が早い。
「その通り。 それでだ、出来たら女性陣は夜には街へ戻したい。 それでだ――」
「構わんよ。俺とザンバは森に残って魔標門を守ってくれ、と言いたいのだろ?」
本当に理解能力の高い奴だな。
相方の方は、まだよくわかってないぞ。
「ザンバ、夜は俺とお前の二人きりだとよ。魔標門を守るのが俺たちの仕事だそうだ」
「へぇ……なんだかわからねぇが、わかったよ」
ザンバは、本当に分かっていないようだ。
「あとでよく説明しておく」
ドーリは小声で俺にそう言うので、任せることにした。
代わってグラシアが遠慮がちに話しかけてくる。
「私も森に泊まってもいいんですよ」
「却下だ。女性を夜の森に泊めることは俺のポリシーに反する」
「えっ! 私は冒険者ですよ。女性とか関係無い――」
「冗談だ」
そんなポリシーなどないが、女性を夜の森に野営させるのは気が引けるのも事実だ。
だがそれよりも、グラシアを街に連れて戻るのには別の理由がある。
魔法による転移は便利だが、失敗するリスクも0ではない。
ヴィオ曰く、関係が深い物や人が転移先にいることで、リスクは極端に下がるらしい。
ズッカの移転先はヴィオの店なので、ヴィオが森にいるときは問題ない。
しかし朝に森へ戻るとき、そして夜に緊急事態で二人を呼び戻すときに、グラシアの存在が必要だという訳だ。
グラシアにそう説明すると、納得してくれたようだ。
あとは……
「三人の能力を教えてくれるか?」
特にザンバとグラシアの召喚魔は、見たことすらないからな。
三人は俺の問いに顔を見合わせると、まず最初にドーリが口を開いた。
「では俺から… 俺はドワーフだから召喚魔はいない。ヴィオから聞いたようだが本職は魔道士で、主に回復、防御、補助魔法を得意としている」
これまた見た目に反して、そっち系の魔法がお得意とはね。
攻撃魔法が出来ない訳でもないようだし、ドワーフなので戦闘能力も高いだろう。
「次は私ね。私の召喚魔は……この子よ」
グラシアの手の中から、蝶の姿をした雪の結晶が舞い出してきた。
見るからに氷雪系の召喚魔だな。
「名前は“ジュレ”。雪や氷の魔法を使うわ」
ジュレが辺りを舞い飛ぶと、ひんやりとした空気に包まれる。
「お戻りなさい」
グラシアの呼びかけで雪の蝶は、彼女の指輪へと戻って行った。
どうやら指輪が彼女の収納具のようだ。
「最後は俺だな! 俺のは、これだ!!」
ザンバが出したのは、蟻の時に見たあの大型のナイフだ。
えーっと……収納具かな?
「これが俺の召喚魔。意思の疎通は出来ねぇが、名前はあるぞ。“ルフォール”だ」
ナイフの召喚魔とはね。
剣の召喚魔なら別だが、あの大型ナイフが召喚魔だとは予想外だな。
大きさはルーナのもの一回り大きい、ククリやマチェットのようなジャングルナイフだ。
しかし、名前が“金の卵”とは……?
「こいつは、契約した時は金色の卵だったんだ」
なるほどな。だから“金の卵”なのか。
しかし何で卵がナイフになるんだ?
というより普通は卵と契約するか?
「よくもまあ、卵なんかと契約したもんだな」
「そうだな、自分でもそう思うぜ! 最初から意思の疎通は出来ねぇもんで、何の卵かも分からなかったのにな……気の迷いか?」
俺に聞かれても分かるわけないだろ!
しかしこいつ、何の卵かも分からんのに契約したのか?
馬鹿なのか、大物なのかどっちなんだ? いや、おそらく両方だろうな。
「しかし意思の疎通も出来なかったって言ったが、どうやって契約したんだ?」
「いや、名前を決めたら光ったんだ」
うーむ……いろいろと突っ込みどころ満載だが、面倒だ、無視しよう。
「で、どういう能力なのだ?」
「能力ねぇ……まいったな、なんて説明すりゃいいんだ?」
お前の召喚魔だろ。説明しろよ!
「私が代わって説明しますね」
結局、グラシアが助け舟を出してきた。
「ザンバの召喚魔は、刀剣の召喚魔なのですが、状況によって形状や大きさが変化します」
何だ、結構優秀なんじゃないのか?
「ただし、ザンバの意志は反映されません。ルフォール自身が勝手に判断して、勝手に変化します」
なにそれ? 優秀なのかどうなのか微妙だな。
「刀剣と言いましたが、槍や斧にも変化しますよ」
刀剣というよりも、刃物全般なのだろう。
しかし、状況によって変化する剣というのは、意外と便利だと思うが……
「それだけか?」
他の付加価値がなければ、ただの重宝する武器に過ぎんな。
それだけなら、冒険者より料理人の方が向いているぞ。一本でたくさんの包丁になるんだからな!
「いえ、形状の変化に伴って、ザンバの身体能力や魔法力も変化します」
なんだか予想外の能力があるな。
「正確には、状況に応じて変化する……と言った方がいいでしょうね」
「状況に応じて、だと?」
「そうです。スピードが必要な場面ではスピードが、パワーが必要なときはパワーが……。魔法も同様ですね」
形状変化より、よほど優れものだな。
しかし、まさかこれも……?
「ただし、これもザンバの意志は反映されません」
……ですよね。
勝手に身体能力や魔法能力が付加されるのも微妙だな。
だが、意思の疎通ができるようになれば、大した能力だぞ。
意思の疎通がままならないのは、召喚魔というよりザンバのレベルが低いせいだろう。
ザンバのレベルが上がれば、その召喚魔であるルフォールのレベルも上がる。
そうなれば必然的に意思の疎通ができるはずだ。
そうなれば高位召喚魔並み、いやそれ以上になるんだが……
……なるほどな。
ヴィオが言う意味も、グラシアとドーリがザンバといる意味も、そういう事か。
三人の能力は分かった。
ザンバは将来有望かもしれんが、今はルーナの護衛でもさせるか。
腕輪があるから、それも必要ないんだがな。
こうして大鍋亭での夜は更けていった。
タイトルは、米米CLUB「なんですかこれは」より拝借




