24話 髪とボイン
「地図だと、このあたりっぽいのですぅ……」
正直、ルーナに任せたのは失敗だ。
地図があるから大丈夫かと思ったが、方向音痴にましていわゆる“地図が読めない女”だった。
「おっ、あれじゃないか?」
路地裏を歩きまわり、ようやく目当ての魔道具店らしき建物を見つけ出した。
「一時はどうなることかと思ったぞ」
危うく街なかで遭難しかけるところだった。
実際、店は迷路のような路地裏の奥にあり、地図がなければ彷徨いかねない場所だ。
こんな所で商売が成り立つのだろうか。
正直なところ、とても売る気があるとは思えない。
間口が2間ほどしかない店先には、窓と入口の扉があり、扉には“ヴィオの魔道具店”と書かれた木製の看板がかかっている。
確かにここで間違いなさそうだ。
「開いてるのかなぁ…… うわっ#$%――」
扉を開けようとした瞬間、扉が開きルーナの顔面を襲った。
「あっ、ごめんごめん……って、あれ? ルーナとクロムじゃん! こんな所で何やってんの?」
ルーナへ扉攻撃を行った人物は、赤毛の隠れ巨乳美人、大鍋亭の給仕のレネットだった。
これがグラシアやエフィルあたりならまだしも、給仕のレネットが出てくるとは想定外の何物でもない。
俺はレネットの質問をそのまま返した。
「レネットこそ、何故ここにいるんだ?」
「え? 何故って、魔素水の買い出しと、客に頼まれた魔法薬を買いに来ただけだよ」
なるほど。
俺の飲んでる魔素水もここから買っていたのか。
「それにヴィオはあたいの友達だし、大鍋亭の客だよ」
そうだったのか、それなら初めからレネットに聞けばよかったな。
「まあ、こんなところに突っ立ってても仕方ないから中に入ったら?」
いや、レネットがそこにいるから入れないんだよ!
「おーい、ヴィオ! お客だぞ」
「うっせーな、何だよ! 店開けてなかっただろ」
店の奥から、いかにも魔女っぽい飾り気のない黒のワンピースを着た巨乳の……いや“爆乳”の女性が出てきた。
ワンピースの胸元が広めなので胸の谷間が……
うん、何というか、お見せできないのが残念だ。
ちなみに俺は、巨乳好きという訳ではないぞ。
嫌いではないがな。
というより、“ヴィオ”って女の名前だったのかよ!
「彼女がここの店主のヴィオレッタ。ヴィオって呼んでいいよ」
「呼んでいいよって、勝手に言うなよ」
「いやそもそも、店に“ヴィオの”って書いてあるじゃん」
「それは“ヴィオレッタの”より語呂がいいからだよ!」
「それに、みんなヴィオって呼んでるじゃん」
「うっ!…………そ、それより何勝手に店開けてんだよ」
「面倒だって、鍵よこしたのはヴィオじゃん」
「オレが? お前がよこせって言ったんだろ!」
うーん……そろそろ買い物したいから、いい加減に終わってくれないだろうか。
「ねえクロム。あのヴィオって女の人、髪の色が綺麗なのです」
まったく空気を読んでいないルーナの発言だが、確かに綺麗な髪の色をしている。
日本人でもいないような長い黒髪が、紫色に光っている。
例えるなら“漆黒を通り越した紫”と言えばいいのだろうか?
日本では、濡烏とか濡羽色という髪色の表現があった気がする。
しかし綺麗なのは髪の色だけだ。
いや、顔が綺麗ではないという意味ではない。髪の“色”だけ綺麗なのだ。
長さだけでいえば、某“沖縄出身のコメディドラマが得意な長い黒髪が美しい顔立ちが整った美人女優”ばりの長さだが、某“沖縄出身の(中略)美人女優”の髪のようには手入れをされてはいない。
ヴィオの濡羽色の髪は残念なことに、ただの寝起きのそれである。
よく見ると魔女風の黒いワンピースは、寝間着のような気もする。
「髪の色も綺麗だけど、胸も大きいのです」
ルーナの銀髪も綺麗だし、胸もほどよい大きさで充分魅力的だと思うぞ。
いや、見たことないけどね。
そういえば某“沖縄(中略)女優”は某劇中で貧乳設定だったな。
貧乳設定といえば、前世では何故かエルフはそういう設定だったが、そう考えるとエフィルもラエルも胸が寂しいな。
この世界のエルフはそういう仕様なのだろうか?
それともあの姉妹のDNAの成せる業なのだろうか。
「おーい、クロム。どうした?」
レネットに声を掛けられ我に返った。
どうやら凶器は狂気を誘うようだ。
いつの間にか、レネットとヴィオの言い争いが終わっていた。
「あたいはもう帰るからな! ヴィオ、ちゃんと商売しろよ」
「へいへい、かしこまりました」
「じゃあルーナ、クロム。宿でな!」
「おお」「はーい」
……
…………
レネットが爽快に帰った後、店内に微妙な空気が漂っている。
気のせいだろうか。
「で、何が欲しいんだ」
どうしようかと思っていたが、ヴィオが口火を切ってくれた。
レネットに釘を刺されたせいもあるのだろう。
「とりあえず魔素水と回復薬と、あとはそうだな、何か面白そうなものはないか?」
「面白そうなものねぇ……オレにはお前の方が面白そうだけどな!」
そう言ってヴィオは長い髪をかき上げ、俺を見つめてきた。
瞳を覗かせたヴィオは、残念でもなんでもなく普通に美人だった。
普通に美人という言い方もおかしい話だが、何故かヴィオにはその表現がぴったりくる。
「話せる猫の召喚魔なんて、面白すぎるだろ! なあ、トリヴィア」
ヴィオは店の隅にある黒梟の剥製に声を掛けた。
とはいっても、俺にはずっとその気配を感じていた。
実は剥製ではなく、きっとヴィオの召喚魔だろう。
「ホー、ホッホッ! そうね、ヴィオ」
おいおい、話せるのかよ。
誰だよ、話せる獣型の召喚魔は珍しいとか言ったのは。
ここにいるじゃねえか!
それともあれか。
話せる獣型は珍しいが、話せる鳥型は珍しくはない、とかなのか……な?
タイトルは、ユニコーンの「ヒゲとボイン」から拝借です




