25話 そして猫は途方に暮れる
「ホホホッー、何を驚いているのかしらね」
話せる獣型の召喚魔は珍しいと言われていた俺は、只今困惑中である。
珍しいというくらいなのだから、少なくともこのズッカにはいないと思っていた。
しかし今、俺の目の前には喋るフクロウの召喚魔がいらっしゃる。
しかも俺の中でフクロウから連想されるキャラは、老人男性だ。
だが目の前のフクロウは、話し方からしてあきらかに女性、しかも若い女性のそれだ。
フクロウ=老人のイメージが拭えない俺には、違和感ありありで困惑に拍車がかかる。
「お前と違ってトリヴィアが話せるのは、この店の中だけだぞ! 話せるのを知ってるのはレネットくらいだけどな」
……なるほど。やはり俺は珍しいのだな。
思い出してみると、レネットは俺が話すのを軽くスルーしていたな。
特に驚かなかったのは、こいつが理由か。
続けてヴィオが種明かしを話し始めた。
「ここの店内は、光球と同じような効果があるように細工していて、特にトリヴィアに最適になるようしてあるわけよ。その副産物なのか、ここでだけトリヴィアは普通に会話できるんだ」
「ほう、どうりでこの店は居心地がいいわけだ」
「だろ! トリヴィア用にしてあるから相性もあるが、他の召喚魔でも魔素の消費は最低限に抑えられるはずだぜ」
確かに魔素の消費はしていない。それどころか癒されている気がする。
この店は俺と相性がいいようだ。
「しかもこの店全体を収納具化して別の収納具と連結させてるんだぜ!」
そう言ってヴィオは腕輪を得意げに見せた。
つまりトリヴィアがこの店にいれば、どこにいてもその腕輪で召喚出来るという事だろう。
このヴィオって女魔道士は、相当の知識と技術を持ってるんじゃないのか?
こんな片田舎より、王都イリオンか魔道都市イルミンスールの方がお似合いだと思うのだが……
「ヴィオお前、“魔導師”になれそうだな」
「えっ? いや……うーん…………」
「ホーホッ! 無理無理、ヴィオにそんなのは無理よ」
ああ、あれだ。こいつは自分の好きな事だけするタイプだ。
責任とか義務とかが嫌いな奴だ。きっとそうだ。
「そんなことよりお前、面白そうなものって言ったよな」
「面白いというか、珍しくて便利なものと言った方がいいかもな」
「よし、これならどうだ?」
ヴィオが出したものは、黒水晶が埋め込まれた細めの銀の腕輪だ。
どうだと言われても、何なのかさっぱりわからん。
「たぶんお前が一番欲しいものだ! その娘を魔物から護る腕輪さ」
ヴィオの説明では、この腕輪を装着すると魔物が気配を感じ取れなくなり、見えていても敵と認識できない、その辺の草木と同様に感じるらしい。
魔物は目だけではなく魔力も使って感知しているから、魔法で誤認させる仕組みなのだそうだ。
「素敵なのです♪」
ルーナは早速、腕輪を装着してみた。
効果が素敵なのか、見た目が素敵なのか分からないが、ルーナの事だから後者だろう。
そもそもここには魔物もいないから、魔法の効果なんて分からないしな。
「しかしそれだけでは意味が無くないか?」
いくら認識されなくても、側杖を喰らう可能性はゼロではないし、無差別攻撃されたら何の意味もなくなる。
「まあ、待て。こっちこそ本当の意味で、その娘を魔物から“護る”腕輪だ」
そう言って、ヴィオはもう一つ腕輪を出してきた。
それは先程と同じような腕輪で、黒水晶の代わりに月長石が埋め込まれていた。
「こっちの腕輪は、防御壁が自動かつ、瞬時に発動する優れモノだぞ!」
いやいや優れモノって、勝手に防御するとか、優れ過ぎだろ!
あれ? でも、これがあったら、さっきの黒水晶の腕輪は必要なくね?
もちろん聞いたみた。
「ああ、これは黒水晶の腕輪とセットじゃないと駄目なんだ」
理由はわからないが、相乗効果的な何かだろう。
しかし、それよりもっと意味不明な事がある。
「それならそうと最初から2つ出せばいいだろう」
「いや、護りの腕輪の方は、なかなか面倒なんだよ」
そういってヴィオは何個か腕輪を見せた。
「守護石じゃないと駄目なんだ。」
埋め込まれた石は、紅玉、黒曜石、翡翠など様々だ。
持ち主と波長の合う石、守護石でなければ護りの効果がないのだろう。
「ルーナは月長石が守護石だ。覚えておいたほうがいいぜ」
まあ、そうだろう。月なんだからな。
これで守護石が日長石だったら、かなり残念な感じになるぞ。
「ちなみにオレの守護石は紫蘇輝石だ」
紫蘇輝石とはまさにヴィオの髪の色のような紫の輝きを持つ黒い石だ。
……誰も教えてくれと言ってないんだがな。
ヴィオが紫蘇輝石なら、レネットはさしずめ紅玉か紅榴石のなのかね、髪の色的に。
紅榴石といえば……
「おい、ヴィオ。紅榴猿って知ってるよな」
「急になんだよ。当たり前だろ、魔道士だぞ」
「紅榴猿の魔石は幾らぐらいするんだ?」
「買取価格のことか? んー……、大きさでかなり違うぜ。だが、どんなに小さくても1000、そこそこなら3000レオネ以上だな」
ふむ、数匹でも1万レオネになりそうだな。
「それがどうしたんだ?」
「センテラの森で、紅榴猿を数匹見た奴がいるらしい」
「ああ、センテラの森になら住んでるな。だが、かなり森の奥じゃないといないはずだぜ! ガゼじゃねえのか?」
ヴィオの話だと、センテラの森はかなり広く、紅榴猿は冒険者でもめったに入らない、森の奥深くに生息しているそうだ。
さらに、俊敏なせいもあって、魔石どころか普通なら見つけることさえ困難らしい。
「まあ、ガセならガセでしかたあるまい」
しかしあの状況でジャコモが、わざわざ俺にガセネタを掴ませる理由はない。
ジャコモ自身がガセネタを掴まされた可能性は否定できないが、センテラの森に紅榴猿がいること自体は事実のようだ。
「それより、この腕輪は幾らするんだ?」
取らぬ紅榴猿の皮算用をしていても仕方ない。
それより目の前の話だ。
「1万レオネだな」
……え?
「ひとつ5000レオネ、セットで1万レオネだ」
高い。高すぎだ!
借金まみれの俺、いやルーナには少々お高い商品だったようだ。
まさかジャコモに、さっきの1万レオネを返せとはさすがに言えん。
森での魔物退治にぴったりの物だったが……まいったな。
今回は諦めるか……
タイトルは、大澤誉志幸の曲「そして僕は途方に暮れる」より拝借




