23話 路地裏の散歩者
屋台での買い食いで満腹になったルーナと街を散策していたら、いつの間にか大通りの向こう側のアムール通りに来てしまった。
ついでなのでジャコモの事務所によってみると、カウンターに足を乗せていびきをかいている。
「おい、客だ。起きろ!」
「誰だ! 人が気持ちよく昼寝してるときに……ヒエッ! ク、クロムさんとルーナさんじゃないですか」
態度急変だな、おい!
「お早い出勤のようだな」
早いと言っても、もう昼はとっくに過ぎているが、ジャコモは夕方にしか事務所を開けないという話だから、間違いではない。
「え……ええ、まあ。今日はチョット野暮用で……」
ジャコモは何故かしどろもどろだ。
お前の用事など聞いていない。ただの嫌味だ。
「金を持ってきた。1万レオネだ、受け取れ!」
白金貨を10枚、異空間から取り出しカウンターに乗せた。
「また…1万レオネ……?! ク、クロムさん、また何か魔物をお倒しで?」
「ああ、蟻を150匹程だな」
「ひゃくごじゅうぅ? あ、あの、蟻とはジャイアントアントの事ですよね」
「当たり前だ。他に何がいるんだ?」
「ルーナさんとお二人で、ですか?」
「まあそうだな」
ルーナは何もしてないけどな。
というか“二人”というのはどうなのかな。
「まさか……幾らなんでも……150匹だと……」
ジャコモが何やら滝のように汗をかきながら、独り言を言っている。
今日はそれほど暑くはないぞ。
「たまたま美味しい依頼があったからいいが、今度はしばらくかかるかも知れんぞ」
「はい……あっ! ……い、いえ、またお願いします」
なんだか歯切れが悪いな。
「何か言いたそうだな」
「えーっと……実はですね、知り合いの冒険者が、センテラの森で紅榴猿を数匹見たと言ってるんですよ」
紅榴猿とは、額に紅榴石の魔石を持つ魔物のことだ。
どこかのRPGのように可愛い訳ではなく、猿とも狐とも言えない姿をしていて、動きが素早くて攻撃的らしい。
額の紅榴石は幸運を招く魔力があるそうだが、森の奥深くに住み、その素早さと凶暴さのために狩ることどころか見つけることも難しいため、その魔石は高値で取引されている。
「だからどうしたというのだ」
「いや、旦那はかなりの実力をお持ちのようなので、紅榴猿くらい簡単に狩れるのではないかと……」
「なるほどな」
美味しい話を聞いたはいいが、紅榴猿はジャコモが簡単に捕まえれる程度の魔物ではない。
俺がうまく話に乗ってくれれば一儲け出来そうだ、といったところか。
「まあ、他にいい依頼が無かったら考えてみよう」
「その時は魔石はうちで買い取りますんで!」
そう来ると思ったよ。
「ギルドより高く買い取るんならな!」
「そりゃ、もちろんです」
こういう仕事をしているだけあって、どこかに伝手でもあるのだろう。
いけ好かない奴だが、借金をさっさと返すにはそんなこと言ってはいられまい。
しかし思いがけないところにも色々な情報があるものだ。
ギルドだけが情報源ではない、ということだな。
肝に銘じておこう。
何をびびっているのかよく分からないジャコモの笑顔に見送られ、事務所を後にした。
さて、何をしよう……いや、散策だったな。
ルーナとのんびりズッカの街を散策を再開する。
ズッカは決して大きいとは言えないが、この地方では中心となる町だ。
ルーナが住むロココ村から見れば都会と言えるのかもしれない。
俺にとっても異国情緒……もとい、異世界情緒溢れる街並みは見ていて飽きない。
俺とルーナは街を縫うように散歩する。
あちらの路地、こちらの小道、大通りを横切り広場を抜ける。
気が付くとまた冒険者通りに戻っていた。
まだ宿に戻るには少し早い。
せっかく金も入ったことだし、あの店に寄ってみるか。
また屋台で何か買い食いしているルーナに呼び、ワルフラン武装店へ向かうことにした。
「おっ! 一昨日の猫とお嬢ちゃんじゃないか。……そうそう、ルーナとクロムだったな」
店に入ると店主のワルフランがすぐ声を掛けてきた。
「どうした。あれだけ買って、また何か必要なものでも出来たのか?」
確かに一昨日はかなりの物を買ったが、その言い方は客商売としてはどうかと思うぞ。
「実は野営の予定が入りそうだ。何か良さそうなものはないかと思ってな」
「おお! それならいいところに来た」
ワルフランは、待ってましたとばかりに奥から何やら持ってきた。
「これは、仕入れたばかりの最新の野営セットだ。テントは特殊な魔法で防水防寒もばっちりだし、毒虫なんかに対しても防御魔法が施されている。あと寝袋は――」
「わかったわかった。もういい、それにしてくれ」
フルセット全ての説明をされては敵わん。
俺の予想だが、フルセットのせいで多すぎて買う奴がいないんだろう。
俺にはほぼ無限大の異空間にぶち込む魔法があるから問題ないが、普通のマジックバッグなら容量にも限界があるからな。
「350レオネにしておくよ」
何やら在庫処分のいいカモにされているような気もするが、まあいいとしよう。
「他に入り用な物はあるかい?」
「そうだな、魔法薬や魔道具はないのか?」
「魔道関係の物か……」
なんだ、冒険者御用達とか言いながら置いてないのか?
「ない事もないが、せいぜい魔素水や回復薬、あとはちょっとした魔道具と魔法付加の武器くらいだぞ」
専門的なものは置いてないようだ。
やはりそういうものは魔道具店に行くしかないようだな。
「どこかおすすめの店はないのか?」
「そうだな。ヴィオの店がいいと思うが、場所が分かりにくいうえにいつ開いてるかもわからん店だからな……ちょっと待ってろ」
ワルフランはそう言って何やら紙に書き始めた。
「地図を書いてやったから、これを見て行けば迷わんだろ。空いてるかは分からねえがな!」
「わざわざすまんな」
「なあに、お安い御用さ」
まあ、大金を落として不良在庫を買ってくれる上客だ。それくらいで済むなら安いもんだろうな。
こうして俺たちはワルフラン武装店を出て、その魔道具店へと向かうことにした。
タイトルは、屋根裏の散歩者/江戸川乱歩 より拝借




