22話 私は存在が食う気
昨夜の雨も上がり、窓の外は青空が広がっている。
寝坊するにはもったいない朝だ、いいかげんルーナにも起きてもらおうか。
「おい起きろ」
「ムニャムニャ……がおー!“ギルド・デ・コロン”」
……“獅子の咆哮”の事だろうな。
だから冒険者ギルドでコロンと転ぶのは、お前だけだと言ってるだろう。
「“コロン”とかいいから、起きろ!」
「ふぇ? ココハドコ? ……あ、クロム……夢じゃなかったんだ」
既視感だ、きっとそうだ。
ルーナの召喚魔になって二回目の朝だが、二回とも同じ台詞とか有りえん。
既視感でなければ気のせいだ。
いや、気にするのは止めよう。
俺の契約者はこういうやつだと諦めるしかないな。
「ねえクロム、今日は何するのですか?」
既視感だ、きっとそうだ。(以下略)
「そうだな……今日はのんびりと街の散策でもするか」
毎日魔物狩りでは、俺はともかくルーナが大変だろう。
今日はギルドで金を受け取って、夕方ジャコモの所に行って金を返すくらいにしておこう。
「屋台の食べ歩きとかしたいのです♪」
ルーナは食う事しか頭にないのか?
実際、食うか寝るかしかしていない気もするな。
「買い食いはいいが、朝飯が先だ」
せっかく準備してあるのだから、無駄にしては申し訳ない。
いや、大飯喰らいのルーナなら心配無用だな。
大鍋亭の美味い朝食を食べ、街へと繰り出す。
とは言っても最初の行き先は、もはや見慣れたギルドの建物だ。
「お待ちしてましたよ。ゆっくりですね」
エフィルが受付で笑顔で迎える。
「相変わらず暇そうなギルドだな」
冒険者もいないのに冒険者ギルドとはこれいかに。
「来るのが遅すぎなんですよ。ザンバ達は朝早く来ましたよ」
あれだけ飲んで早起きとは、なかなか強者だな。
「それはそうと、昨日のジャイアントアントの分の清算が出来ますよ」
いや、そもそもそれを貰いに来てるんだ。
「クロムの言う通り、蟻155体と女王蟻で間違いありません。魔臓と毒針に巣の破壊分で、合わせて17,500レオネですね」
ふむ、予定通りだな。
「本来は蟻の解体費が1,560レオネですが、1,500レオネにしておきますので、差し引き16,000レオネです。白金貨16枚でお渡ししますか?」
「いや、白金貨は10枚で、金貨を58枚、銀貨を20枚で貰いたい」
屋台で買い食いするなら銀貨のある方が便利だろうからな。
エフィルから金を貰い、俺たちはギルドを後にする。
「屋台の食べ歩きはどうするですか?」
夕方にジャコモの事務所に行く以外、特に予定はないが金はある。
ルーナの希望通り、のんびり屋台巡りと決め込むか。
「屋台巡りでも何でもいいぞ。今日はのんびりしよう!」
「やったー!」
冒険者ギルドから大鍋亭へ続く裏通りは通称“冒険者通り”というらしいが、それとは別に“屋台通り”という名もあるのだそうだ。
このズッカでは大通りに屋台を置くことを禁止しているらしく、大通りの一本裏手になる冒険者通りやアムール通りに屋台が並ぶ。
アムール通りは夜の繁華街なので、昼間はあまり人通りがないので、結果的に昼間の屋台は、この冒険者通りに集中する。
しかし、昼には少し早い時間なので、今はそれほど多くはないようだ。
「ねえ、クロム! あれ美味しそうですぅ」
「何かケーキみたいなのあるですよー♪」
「こっちのも美味しそうなのです!」
ちょっとした広場のような場所に来ると、少ないとはいえ屋台が点在していた。
その屋台を覗くたび、ルーナは楽しそうに俺に話しかける。
『どれでも好きな物を、好きなだけ食べたらよかろう』
こんな所で普通に言葉を発すれば驚かれて騒ぎになりかねない。
せっかくのんびり楽しんでいるのだから、ここでは無難に念話で会話するほうがいいだろう。
「やった! クロムは優しいのです♪」
現金な奴だな。
この金は俺の金という訳ではない。本来ならルーナが自由に使っても構わない金なのだ。
ルーナが持っていると落としかねないから俺が管理しているだけで、そもそも俺はルーナの召喚魔に過ぎない。
実情は、ルーナが俺の契約者というより、俺がルーナの保護者のようなものだな。
銀貨を数枚渡すと、ルーナは屋台から次々と食べ物を買って来る。
俺は広場のベンチでそれを呆れ顔で眺める。
ピザ、ライスコロッケ、フライドポテト、チュロスにクレープ、ポップコーン……
お前は大食い女王か何かなのか?
「ふりょみゅはいらふぁいのれすふぁ?」
なんとなく「クロムはいらないのですか」と言っている気がする。多分、合っているだろう。
『一口ずつもらおうか』
とりあえず味見程度でいい。
はっきり言って、ルーナを見ているだけでお腹がいっぱいだ。
昨夜の雨が嘘のように、青空が広がっている。
路地でのんびり屋台の食べ物を味わうには、うってつけの日だ。
昼も近くなり、屋台も人も増えた出してきた。
ルーナも流石に満腹なのか、今はオレンジジュースを飲みながら辺りを眺めている。
「あっ! 今来た屋台がなにか作ってる♪ 見てくるですね!」
訂正しよう……まだまだ満腹ではないようだ。
タイトルは、私は存在が空気/中田永一 より拝借




