20話 酒あらば IT'S ALL NIGHT?
俺たちは今、ギルドの裏手にある倉庫に来ている。
エフィルとギルド長のジェイクの見守る中、俺は蟻の腹部を異空間から取り出した。
「いったい、幾らあるんだ」
ジェイクが呆れ顔で聞いて来た。
「普通のが155体にプラス、クイーンの分だな」
「クロムさんの異空間は数を正確に把握出来るので、間違いないですよ」
「そうか。しかし確かめた方がお互いの為だ。今日中に確認しておくから、支払いは明日でいいかな?」
昨日とは違い金はある。何の問題もないので、黙って頷いた。
しかしジェイクはもっと適当な奴かと思っていたが、意外ときちんとしているようだな。
「言い忘れたが、このままでは魔臓と毒針の取り出しに1匹あたり10レオネ掛かるが、それでもいいか?」
「まあ仕方ないだろう」
1匹10レオネと言えども、156匹となるとそれなりの金額になる。
かといって自分でやるのも面倒だから、ギルドに頼むとしよう。
というか、ジェイクは全て俺に聞かずにルーナにも聞けよ!
肝心のルーナは椅子に座って船を漕いでるから、聞いても意味はないがな。
いや、起きていたとしても変わらないか……
そんなことより、ジェイクに“あれ”を見せてみるか。
「ところで見せたいものがあるのだが、少し大きいがいいかな?」
俺は少々勿体付けたように言ってみる。
「何だ、ここに入るのなら問題はないぞ、見せてくれ!」
案の定ジェイクが食いついてきた。
俺は異空間から“例の物”をこの場に出した。
「こ、これは……」
「えっ、何なのこれ……」
ジェイクとエフィルは言葉を失い、目を丸くして驚いている。
よし! 勿体付けた甲斐があったな。
「何なのって、もちろん獅子王蟻だろう」
「そんなことは見ればわかるわ!」
いやいや、逆切れされても困るぞ。
「なんでクロムがこんなものを持っているのかって聞いてるのよ!」
いやだから、聞いてもいないし……
そんな俺とエフィルのやり取りを、無視するかのように獅子王蟻を見つめていたジェイクが、突然口を開いた。
「つまり、こいつがジャイアントアントの巣に居たという事か…… 蟻の凶暴化の理由はこれか。しかし……傷一つないがどうやって倒した?」
「どうやっても何も、勝手に死んだだけだ」
「勝手に死んだ、だと?」
俺はジェイクに獅子王蟻が死ぬまでの経緯を説明し、俺の考えた死因の話をした。
「そう考えるのが妥当だろうが、正直俺に分かるわけもないな」
実際、死因なんて俺にはどうでもいい。
問題は獅子王蟻がいくらになるか、だ。
「で、獅子王蟻は買い取ってもらえるのか?」
「いや、ここでは無理だ」
俺の予想に反して、ジェイクは即答した。
「まず、珍しすぎて相場がわからん。5万レオネ以上はすると思うが、正直なところ何とも言えん」
なるほど、相場が分からないなら値段のつけようもないな。
「それに、買い取る金がない」
明日、俺に蟻の分を払うとギルドの残りの金がかなり厳しくなるらしい。
確かに昨日のスライムの分といい、高額な魔物があまりいない、ここのギルドで通常支払う金額ではないようだ。
「高値で売りたいなら、他をあたったほうが無難だろう。これだけのものなら欲しがる奴は必ずいるさ」
ジェイクがそう言うなら、そうする他あるまい。
それに、早急に売り飛ばさなければならない理由もないしな。
「分かった。まあ、どこかでは売れるだろうからな」
結局、獅子王蟻は他で買い手を探すことになったので異空間に戻し、船漕ぐルーナを叩き起こして倉庫を後にした。
「しかしおかげで珍しいものが見れたよ。クロム様様だな!」
ギルド長のジェイクがそう言うほどなのだ、ザンバたちに見せなくてよかったかも知れない。
そのザンバたちが俺たちが倉庫から戻るのをギルドの中で待っていた。
「お、やっと戻ったな!」
ザンバは待ってましたとばかりに声を掛けてきた。
「残念だが金は明日だ」
「そうか……あの数だしな、仕方ねえな」
露骨に残念そうな顔をするなよ。
お前ら他にも魔物を狩りに行ってたんだろ。
「今日の魔物討伐はあまり成果が無かったんですよ」
グラシアが残念そうにしている。
昨日は俺のせいで成果ゼロだったから二日連続はさすがに凹むだろうが、所詮冒険者はそんなものだろう。
「しかたがねえ、今夜はおとなしく飯だけにしておくか。クロムにルーナ、今日は一緒に食わないか?」
そういえばグラシアだけでなく、ザンバとドーリも大鍋亭に部屋を借りているんだったな。
「どうだルーナ、一緒に食うか?」
「一緒の方が楽しいのです♪」
そうだな、飯は大勢の方が楽しいよな。
前世ではぼっち飯だったが……
「よし、じゃあ皆で楽しく食べるとしようか。ついでだ、酒を奢るぞ」
俺の一言でザンバは目を輝かせる。
「やっほう! クロム様ごちそう様です!」
「もう、クロムさん。甘やかさないでください」
「……」
いや、ドーリは笑顔でこっちを見ながら親指立ててないで、何か言えよ。
「小さな“大”召喚魔、クロムとその契約者ルーナの活躍を祝して……かんぱーい!」
ザンバの変な乾杯の挨拶で、大鍋亭の一画での宴が始まった。
メンバーは俺とルーナ、グラシアとザンバにドーリ、エフィルとラエルだ。
そしてレネットは、俺が奢った酒を飲みながら給仕をしている。
客に奢られるのも仕事の一環なのだろう。
「今日はクロムのすごい魔法を見せてもらったぜ!」
「ザンバさん。その魔法ってどんな魔法なの?!」
「クロムさん! モフモフしてもいいかしら?」
「この料理美味しいのです♪」
「獅子王蟻なんて初めて見ました!」
「……」
酒が進むと会話も進む。約一名無口だが。
「クロムも何か飲んだら?」
レネットが俺に酒を勧めてくるが、猫にアルコールは厳禁なはずだぞ。
いや厳密には猫じゃなくて召喚魔だから大丈夫なのか。
そもそも召喚魔が酒を飲んだらどうなるんだ?
「俺が酒を飲んだらどうなるんだ?」
「どうもならないわよ」
俺の質問にレネットはそう答えたが、全く意味が分からん。
「どうにもならないなら飲むだけ無駄だろう」
「酔いはしないけど、美味しいみたいよ」
いや、最初からそう言えよ。
そう言おうとした時、ラエルが話に入ってきた。
「召喚魔にとってお酒は魔素水に近いみたいですよ。普通の食べ物より魔力に変換しやすい、という研究結果が出ています」
魔素水ほどではないが、アルコールは魔力への変換率が高いという事だな。
しかも酔っぱらわないのなら、召喚魔にとってアルコールは百利あって一害もなしと言うことになるな。
前世じゃ酒に弱くて遠慮していたが、それなら大丈夫そうだ。
「じゃあ飲んでみるか。レネット、適当によろしく!」
「はいよ! おまかせっ!」
レネットは軽快な足取りで厨房に戻り、すぐにガラスの皿に入った酒を持ってきた。
「はい! 林檎酒よ。 あたいのお気に入りの酒さ♪」
レネットが好きな酒か。どれどれ……おっ! りんごの甘い香りがして美味いな。
「これはいいな! レネットにもご馳走するぞ」
それを聞いたルーナとラエルが、自分たちの分も催促してきた。
「クロム何飲んでるのです? わたしにもなのです!」
「レネットさんだけずるいですよ」
「あー、はいはい。君たちにはキツ過ぎるから水割りだな。いいかいクロム?」
そう言われたので、俺は無言でウインクを返した。
今夜の宴会はまだまだ続きそうだ。
タイトルは、モーニング娘。「愛あらば IT'S ALL RIGHT」から拝借




