芽生える疑心
目が覚めると、ベッドの上に寝ていた。
ここはどこだ?もしかして現実に強制送還されたのか?いや、少なくともここは俺の家じゃない。
それに、レベルはまだ1だったはずだから、その線はないはずだ。
起き上がろうとすると、全身が筋肉痛であることが容易に分かった。脱力感すら伴う痛みで、全く身体を起こすことが出来ない。
一体何があの時起こったんだろう?
確か隔世が発動しないで、敵が襲って来た時に、誰かの声がして、そこで意識が途切れてしまった。
おそらくその見ず知らずの声の主が助けてくれて、わざわざ運んでくれたんだろう。
なんとかまだ痛みのマシな首を動かして周囲を確認すると、右後方で、自分と同い年くらいの女の子が、椅子に座ってうつらうつらとしている。
見た感じプレイヤーではなさそうだが……
もしかしてこの子が助けてくれたのか?
いや、あの声は男だった。
それに、こんな華奢な子が武器を片手に戦う姿が想像出来ない。
首を動かした時のベッドの軋む音で、女の子は目を覚ましたようだった。
「あ、えっと……お、お身体は大丈夫ですか?」
とても可愛らしい声だった。
女っ気のまるでない俺が本気で油断したら、声だけで惚れる自信がある。
「だ、大丈夫。ありがとう。君が助けてくれたの?」
首しかまともに動かせないやつのなにが大丈夫か分からないが、ここで見栄をはらなきゃ男じゃないだろう。
「いえ、わたしはなにも……父がたまたまあの洞窟を通りかかったらしくて、その時に倒れていたあなたを運んで来たと言っていました」
ということはあの声の主はこの子の父親だったらしい。
ただ、ぼんやりとしか覚えていないが、相棒って単語もあった気もする。もしかしたら、俺を他の誰かと勘違いして助けてくれたのかもしれない。
ふと足元に目を移すと、女の子の傍らに水の入った木製の桶が見えた。きっとこの子も精一杯看病してくれたのだろう。
「わざわざ見ず知らずの俺を看病してくれて本当にありがとう。」
女の子は恥ずかしそうに俯いて、足で桶を隠そうとしている。
今まで打算的に生きてきたと自負している俺だったが、今は素直にこの親子にお礼がしたいと思えていた。
「なにかお礼をしたいんだけど、ごめん。見ての通りお金とか使えるものはなにも持ってないんだ。なにか手伝えることとかないかな?雑用でもなんでもするから」
女の子は両手を顔の前でぶんぶん振る。
「そんなの気にしないでください!父とわたしが好きでしたことなんです。えっと、父が帰ってきたみたいなので報告しにいってきますね」
そう言うと、女の子はドアノブにに手を掛け、こちらを振り向く。
「言い忘れてました!わたし、エリスです。」
「あ、俺はトータ」
エリスはニコッと微笑むと、部屋を出ていった。
しかし、なにかがひっかかる。
こんな時は……
「ナツさんいる?」
返事がない。確かにさっきからナツさんの気配は一度も感じなかった。エリスとの会話に夢中になっていたせいかと思ったが、あながち間違いでもなかったらしい。
最初に俺が死んだ時、もちろん瞬間的な痛みはあったけど、復活した後は痛みや怪我の類はまるで消えていた。VRの世界ではなんら不思議なことでもないし、むしろそれが当たり前だと思う。
しかし、今回は痛みが継続して残っている。ただでさえ、HPが低いのだから回復するのは早いはずなのに。
それともう一つ、さっきエリスは「父親が倒れていた俺を発見した」と言っていた。でもよく考えてみれば、それだと俺が聞いたあの声と時間が合致しない。ということは俺が聞いたあの声は別の誰かということになる。
じゃぁいったい誰が……
考えていると頭がパンクしそうになる。そりゃそうだ、閃きステ1は伊達じゃない。
とりあえずナツさんが戻ってきたら訊いてみよう。
目を瞑ると、睡魔がまた忍び寄ってくる。
今はゆっくり休んでおくことにした。
ピピッ
シークレットクエスト受信中………………




