賑やかな晩餐
ジリリリリリリリリリリリリ!!
けたたましい音がが鳴り響く。
何事かと飛び起きると、耳元でここ最近最も聞き慣れた声が囁かれる。
「おはようマスター。気分はいかがかしら?」
最高ですナツさん。
俺は一瞥のかわりに眉間にシワをよせると、まぁまぁだね、とだけ答えた。
「そういえば、マスターの大好きなエリスから、そろそろ晩御飯の準備が出来るから、もし目が覚めたら1階に降りてくるようにと、伝言を頼まれているわ」
「ありがとう。でも俺の大好きなは余計じゃないのか?」
「あらそう?鼻の下伸ばしてるマスターのでれでれ顔はなかなか見物だったわよ」
「な!でれでれなんかしてねぇ!」
「ふ〜ん……じゃぁそういうことにしといてあげる。あ、それと大事なこと言い忘れてたわ。マスターが倒したサーベルタイガー3匹の経験値で、レベルが上がってるわ。おめでとう♪」
ん?今さらっと俺が倒したって言わなかったか?
「倒したのは俺じゃないよ。情けないけど、誰かが助けに来てくれたんだ。俺はその横でなんにも出来ずに泡吹いてぶっ倒れてただけだし……」
「いいえ、確かにあのモンスターを倒したのはマスターと表記されてるわ」
「単独で?」
「ええ、私も戦った様子を記録出来ればよかったんだけど、なぜか通信がさっきまで遮断されていたの」
これだけ実感のない初勝利も珍しい。喜んでいいのかも分からない複雑な気持ちだ。
「マスター、それじゃお待ちかねのPP振り分けでもしましょうか?」
おお!一気にテンションが上がる!
なぜか新規プレイヤー作成が自動で済まされていた俺にとって、初めての振り分けだ!
下で待っているエリスには申し訳ないが、その魅力には抗えそうもない。
「ああ、頼む!」
「了解マスター」
眼前にモニターが現われる。
しかしそこに映し出されたのは、鼻の下を伸ばし過ぎたこれ以上ないほどでれでれ顏の俺だった。
「やめぇぇぇぇぇい!!!!!」
「あら間違えた。ごめんねマスター」
すると、タイミング良く(?)ドアからエリスが顔を覗かせる。
「あの、夕飯の準備が出来たのですが……召し上がられますか?」
「も、も、も、もちろん!今行きます!」
「ではお待ちしてますね」
天使のような微笑みを残して、エリスは階段を降りていった。
「ちゃんと直前で消しておいたから問題ないわマスター。振り分けはそれなりに時間を使うでしょうから、先に夕飯を食べない?」
HSOの他プレイヤーの皆さん、うちのナビはやたら自我が強い気がするのですが、皆さんのナビもこんな感じなのでしょうか?
1階に降りる途中の階段から、美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。
テーブルには、ところせましと料理が並べられていて、豪華とまでは言い難いが、贅をつくしてくれたのがよく分かる。なにより今朝からなにも食べていないせいか、料理一品一品がレアアイテムよりも価値があるように思えた。
「おう、起きたか!洞窟で見かけた時は死んでるかと思ったぜ!」
「ちょっとお父さん!」
エリスが父親を睨みつける。
「がははは、すまんすまん!たいしたもんは用意出来なかったが、たらふく食ってくれ!」
「ありがとうございます。自分、トータっていいます。助けて頂いて本当にありがとうございました。」
「がはは、気にすんな!俺はブロンコってんだ!見ての通りエリスの父親だ!」
筋骨隆々というのがこんなに似合う人を初めて見た。背はそこまで高くないが、それを補って余りあるパワーを持っていることが容易に想像出来る。
そこらへんのモンスターが束になっても敵わないだろう。
「まぁ細けぇ話は飯食いながらでもしようや!せっかくの料理が冷めちまうからよ!」
温かいシチューや、チーズを乗せて焼いたパン、それに分厚くカットされたローストビーフ、現実では見たことのないフルーツが入ったサラダなど、そのどれもが本当に美味しくて、積もる話は尽きることがなかった。
このHSOの世界では、NPC、要はプレイヤー以外のキャラクターも人工知能を搭載していて、現実の人間と同じように生活を営んでいる。
WHE社も、「人間よりも人間らしく」をテーマに、かなり力を注ぎ込んだと聞いたことがある。
だからこそ、会話が一方通行にならないし、まるで本当の人間と話しているかのような感覚がある。
俺自身、こんなにも会話したのは久しぶりだったかもしれない。
ブロンコさんが酔い潰れて寝てしまい、エリスと夕飯の後片付けをしている最中だった。
「あの、トータさん……おりいってご相談があります」
エリスが初めて見せた真剣な表情だった。




