探索×交渉×一抹の不安
始まりの街と言われるだけあってマルスタットは広い。
東西南北に4分割したとしても、俺が最初に辿り着いたエリスの村よりも大きいだろう。
「よし!」
気合を入れるために頬を両手で強めに叩く。
あの2人組が行きそうな場所。
マップを開くと、街全体が上から見た図面のように記された。
分かりやすいっちゃ分かりやすいけど、広過ぎてどこに行けばいいか分からないな。
「ナツさん、これって詳細表示みたいなこと出来るのかな?街の東部だけ見たいんだけど」
返事がない。
あぁそういえば……
「ナビさん(仮)、分かりますか?」
「えぇ、詳細表示はもちろん3D表示もね。詳細表示はピンチアウト、つまり指を広げる動作で出来ます。3D表示は2Dの図面をおこすように上に向かってスワイプすればいいの」
とりあえずマスターの呼び掛けに応じないってのはナビとしてどうかと思うよ。
まぁ試しにやってみよう。
マップを言われた通りに操作すると、簡単に詳細表示も3D表示も出来た。
おおすげぇ!
なんか無駄にテンションあがるわ!
マルスタットの東部は武器屋、防具屋、道具屋、鍛冶屋、魔法屋、技匠屋、食材屋、素材屋、土産屋などの商店が軒を連ねていて、一際大きい建物には商工業組合ギルドと表示されている。
となるとまずは地道に店の人達に聞き込みするのが1番かな。
広場を抜けて東部に向かって歩いて行くと、だんだんと道端に露店が増えてきた。
玉石混淆のアクセサリーや食べ物の量り売り、さらにはよく分からない骨董品のようなものまで売っていて、さながら雑貨市だ。
暇さえあれば足を止めたくなるような魅力に溢れている。
とりあえずあそこの優しそうなおばさんに聞いてみようか。
「すいません」
「いらっしゃい、何の用かね」
なんかどっかで見たような受け答えだな。
「ちょっとお訊きしたいんですが、大丈夫ですか?」
「今日のオススメかい?そうさね、タマガエルの丸焼きなんてどうかね?」
あぁ間違いない、NPCだ。
「人を捜していて、それについてお訊きしたいんですが……」
「なんだい!冷やかしかい!出て行っとくれ!」
真顔で捨てゼリフを吐くおばさんはある意味シュールで見ていて飽きなそうだったが、残念ながら今はそんなことしてる場合じゃない。
ていうかNPCの個体値に差があり過ぎだろう。
まぁしがらみが少なくて楽っちゃ楽だけど。
それから手当たり次第に露店ラッシュを敢行したが、どれも芳しい成果は得られなかった。
そして気付いた。
まず一文無しってのが痛すぎる。
何か少しでも商品を買えば向こうの態度も軟化するだろうが、ほとんど話すら聞いてもらえないという惨状だったし。
一瞬如月の顔がよぎったが、すぐに振り払う。
あいつに借りるとか有り得ん。
多分利子とか闇金も真っ青な率でとりそうだ。
気を取り直して聞き込みを再開するが、大した情報も得られずにただ時間だけが過ぎていく。
確かに難しいとは思っていたが、ここまで手応えがないものなのか?
別に暑いわけでもないのに変な汗が滲んでくる。
ピコン!
!?
何の音だ?
「マスター、メッセージが届いているわ」
メッセージ?
「開いてくれる?」
ナビさんの了解という声と共に文面が目の前に表示される。
差出人:タケル
宛先:トータ
件名:緊急
ナツ君から例の2人組を見つけたとの報告を受けた。
至急南部にある酒場「シャングリラ」に来てくれ。
マジか!!
如月に先を越されたのはなんとなく複雑な気分だが、現状を鑑みるとそうも言っていられない。
分かりました、と返信をしようとしたところで気付く。
これどうやってメッセージを送るんだろうか?
「ナビさん、返信の仕方教えてくれる?」
「いいけどギルドメンバーかフレンド以外へのメッセージの返信には専用のアイテムが必要よ」
な……
「それって無……
「もちろん有料よ♪」
ですよね。
ん?
ということは俺タケルさんとフレンド登録していなかったのか?
勝手に仲良くなっていたと勘違いしてたのが恥ずかしくなる。
多分タケルさんならシステムも理解しているだろうし。
若干気分がブルーになるが、タケルさんがうっかり忘れていたってことにして「シャングリラ」を目指すことにした。
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高性能なマップのおかげで特に迷うこともなく「シャングリラ」に着くと、軒先には俺以外が全員揃って待っていた。
如月にいたっては仁王立ちに腕組みというスタイルで、私怒ってます感がビシビシ伝わってくる。
「遅れてすいません」
「いや全然。僕らもつい今しがた来たばかりだよ」
タケルさん、あなたは優し過ぎる。
「おっ!君が噂のトータか!俺ヤマトってんだ、よろしくな!」
いきなり手を握られてぶるんぶるんされた。
助けを求めてタケルさんを見る。
「紹介が遅れたね。彼はヤマト、僕のギルド最後の1人だ」
まだニコニコしながら手をぶるんぶるんしているヤマトは……でかい。
いや身長が。
これ190近くあるんじゃないか?ガタイもよく、現にこのまま手を振られ続けたら肩が抜けそうなほど力が強い。
色黒で精悍な顔立ちは、ある意味日本人離れしていた。
もしゲームのキャラクターで味方にするならファーストチョイスは間違いない。
「初めまして、トータです。今回は手伝ってくれてありがとうございます」
ヤマトはきょとんとした表情になる。
「おいおい、見た感じ俺達は同年代だ。堅苦しい敬語なんて抜きだぜ」
嘘だろ!?
こんな高校生周りにいなかったぞ。
俺が呆気にとられていると、ジンが口を開く。
「ヤマト、まずは遅刻したことを詫びるのが先だろ」
ブレないジンさんぱねぇっす。
「がはは、そりゃそうだな!すまねぇ、昨日は食い過ぎて寝坊しちまった」
こんなに堂々と言われたら責める気にもなれない。
元々責める気もないけど。
「よし!じゃぁ中に入ろう。彼らがお待ちかねだ」
店に入る前に一瞬如月と目が合ったが、またぷいっとされた。
知ってるよ、お前にとってさっきの休戦協定なんて建前なんだよな。俺もだ。
店に入ると、時間帯のせいか昨晩ほどどぎつい酒の匂いはしない。
むしろ若い女の子達がガールズトークに花を咲かせているあたり、昼間はカフェとして営業しているのかもしれない。
そんな中、明らかに場違いな出で立ちの2人組が隅の方に陣取っている。
「彼らみたいだね」
さすがのタケルさんの声にも、緊張感がにじむ。
カウンターでタケルさんがまとめて皆の分の飲み物をオーダーして各々が受け取ると、2人組の横の席に座る。
「初めまして。君達に訊きたいことがあるんだけどちょっといいかな?」
2人は虚をつかれたようにこちらを向くと、あ?と言いながら眉間にシワをよせた。
並の一般人ならビビってしまうだろうが(現に俺はビビっている)タケルさんは一歩もひかない。
「これは君達の利益にもつながる。話だけでも聞いてくれないか?」
それでもなお2人組は訝しげな表情だったが、タケルさんの横に座ったヤマトをチラリと見やると小さく頷いた。
「トータ君、僕から話していいかな?」
もちろん、と返す。
間違いなく俺以上に分かりやすくかつ的確に、タケルさんは事の次第を2人組に説明した。
沈黙がしばらく続いた後、2人組のうち髭を生やした男が口を開いた。
「ちなみにお前ら何を根拠に俺達が犯人だと言ってるんだ?」
それに賛同するようにもう1人のニット帽をかぶった男がガンを飛ばす。
「もちろん無責任に君達を疑ったりはしないよ。ちゃんと裏はとってある」
そう言うと、タケルさんはテーブルの上に毛皮のコートを現出させた。
2人組は動揺することもなくニヤッと笑う。
「タケルさんこれは……」
如月が皆が思っていることを口にする。
「彼らの商品だ。知り合いに君達からこれを買った男がいてね。事情を説明したら快く貸してくれたよ」
2人組は毛皮のコートを手に取ると、品質を確かめるように触っていく。
「確かに、これは俺達の商品だ」
!!!
認めたということはこいつらが犯人だ。
俺達の間に一瞬だけ安堵感が広がる。
「で、俺達にどうしろと?ここは架空世界だ。モンスターを狩ってその素材で作った品物を売って何が悪い?」
確かにこいつらのやっている事は違法じゃない。
「別にあんたらがやってることが間違ってるとは言わんさ、やり方は違えど皆遅かれ早かれやることだ。でもよぉ、あんた達を見逃すってことはこの街の人達を見捨てるってことになる。俺達はそんなこと出来ねぇ、分かるだろ?」
ヤマトが立ち上がり、熱を帯びた口調でまくし立てる。
「落ち着けヤマト」
ジンの一声で、ヤマトはやり切れない表情で腰を下ろす。
考えろ、こいつらが望むことを。
何をされるのが1番堪えるのかを。
「商工業組合ギルド」
呟くと反射的に2人がピクッと反応する。
特にニット帽の方は、明らかに動揺が見て取れた。
「商工業組合ギルドの許可はとってるんですか?」
こいつらが突かれて最も嫌な部分。
俺は畳み掛けるように続ける。
「おそらくあなた達は許可をとっていない。タケルさん、知り合いの方はこの人達から個人的に購入したんですよね?」
タケルさんは黙って頷く。
その目は応援してくれているようにうつった。
2人組を何も言わずに見据える。
「だからなんだよ!!!」
沈黙に耐えかねるように、ニット帽が叫ぶ。
かかった。
ここからはハッタリの時間だ。
「認めましたね。この世界では商工業組合ギルドの許可を得ずに無断で物を売買することは禁じられている。あなた達だってそれくらい知っているでしょう?」
「ふ、ふざけんな!それくらい知ってる!」
もはやニット帽はボロを出す装置と化している。
「もしこれが知られたらあなた達は少なからず、いやかなりの損害を被る。最悪の場合裁判にかけられ、破産してさらには刑務所行きだ」
「彼の言っていることは本当だ。僕らがこれを密告すれば、君達は終わりだね」
タケルさんが援護射撃を見舞うと、輪を掛けて2人組の表情が沈む。
「もし君達が僕らと共に狼の元へ来てくれるなら、身の安全は保証しよう」
ヤマトがここぞとばかりに太い二の腕を見せつける。
ちょっと馬鹿っぽいが、今はこんなのでも奴らには効く。
しばらく皆が押し黙ったまま、時が過ぎる。
やれることはやった。
さぁどっちに転ぶ?
「分かった」
髭男が重苦しく口を開く。
「ただし!条件が2つある」
「聞こうか」
間髪入れずにタケルさんが促す。
「まずこの事はくれぐれも口外するな、商工業組合ギルドなんてもってのほかだ。それから狼どもが俺達を襲って来たら、全力で俺達を守れ。この2つの条件を飲むなら、お前達についていってやる」
タケルさんが俺達を見回し、最後に俺を見る。
俺は了承の意味を込めて頷く。
「分かった、君達の出した条件を飲もう。交渉成立だ」
2人組はタケルさんと形式上の握手を交わすと、連絡先を伝え、足早に去ろうとする。
「ちょっと待ってください」
もしかしたらそのまま逃げるかもしれない。
連絡先を知ってるとはいえ、俺達の目の届く場所にいてもらうほうがいいんじゃないか?
「みくびるな、そこまで卑劣じゃねぇよ」
髭男は扉に手を掛けたまま呟き、店を出て行った。
「よぉぉぉぉし!!!!!」
ヤマトが何かに解放されたかのように雄叫びをあげる。
店の中の客の視線が一斉に俺達に集まった。
「うるさい落ち着け」
ジンの冷静な指摘に店内は笑いに包まれる。
ただ1人如月を除いて。
読んでくださってありがとうございました。
ご意見ご感想お待ちしております。




