新たな出会い
「いってぇ……」
「マスターがあんな時間にフラフラしてるからおじさんに怒られるのよ」
夜が明けてもまだいてぇって、おっさんどんだけ攻撃特化なんだよ。
「ほらぁやっぱりたんこぶになってるよぉ!」
「情けないこと言ってないの、今日は9時に集まりがあるんでしょ?」
「うん、さっき話したタケルさんと合流する予定」
半熟の目玉焼きとカリカリに焼けたベーコンを口に放り込む。
本当だったら泊まることすら出来なかったのに、おじさんとおばさんのご好意で朝食まで頂けることになったのだ。
さすがに申し訳ないからと断ったものの、おじさんの例の威圧感に気圧されて、今こうして頂いている。
「うめぇ!おばさんどれも美味しいです!」
「あら、ありがとう♪男の子なんだから朝はたくさん食べなきゃダメよ」
おばさんが追加のソーセージをこれでもかとお皿にのせてくれる。
客室数が少ないのと時間が少し早いのもあって、食堂には俺以外に一人しかいなかった。
如月は……まだ寝てんのかな。
壁時計の針は7時30分をさしている。
結局布団に入ったのは3時過ぎだったけど、なんとなく気分が高揚してしまって朝早くに目が覚めてしまった。
現実だったら授業中に寝て睡眠不足を補うところだが、ここじゃそうもいかない。
大事な時に睡魔が襲ってこないことを祈るのみだ。
おばさんにご馳走様を言って部屋に戻ると、手持ち無沙汰になってしまったので特に意味も無くステータス画面を開く。
Lv 7
職業 旅人
HP 30
MP 18
SP 27
物攻 7
魔攻 1
物防 6
魔防 2
技術 1
素早さ 6
運 2
閃き 4
相変わらず頼りねぇなぁ。
思わず笑いが込み上げてくるわ。
でももし戦うことになったら……
こんなんでもやらなきゃいけねぇんだよな。
「あぁ〜〜〜なんとか無駄な争いをしなくて済みますように!」
「結局神頼みかよ」
「神頼みで悪いかよ……って誰ぇぇぇぇぇぇ!」
ベッドから跳ね起きると、窓際に誰かが立っている。
逆光で顔がよく見えない。
…………!?
「朝からうるせぇなぁ。ちったぁ落ち着けよ」
紅目!!!!
「お前なんでここに……」
「窓。開いてた」
「それは理由になんねぇよ!つかここ二階だぞ!」
「だからなんだよ。せっかく来てやったんだからもっと嬉しそうにしろよ」
紅目はベッドに飛び乗ると、その上で跳びはねる。
「嬉しくねぇよ!跳ねんなよ!降りろよ!てめぇのせいで大変なことになったんだぞ」
そうだ、そもそもコイツが俺を森に連れてかなきゃこんな事態になってない。
「そりゃ楽しそうでなによりだぜ虫けらちゃん。生還祝いにいいこと教えといてやるよ」
200%断言してもいい。
コイツのいいことなんてロクなことじゃない。
「考えろ、馬鹿なりにな」
は?
意味わかんねぇ、何が言いてぇんだ。
「なんなん……
部屋全体を光が包むと、次の瞬間例の醜悪な笑い声と共に紅目は消えていた。
いなくなった。何事もなく。
あぁもう忘れよう。
アイツに関わっても百害あって一利なしに決まってる。
今はそれどころじゃない。
朝風呂に入って着替えを済ませると、時刻は8時20分をまわっていた。
「よし、そろそろ行くか!」
少し早いかもしれないが遅刻するより全然いいだろう。
部屋を出ると、ワンテンポ遅れて隣の部屋のドアも開く。
「「あ…………」」
如月!
紅目といい、今日はそういう日なのか。
「お、おっす」
ぷいっ
おい!
ぷいっって……ぷいっはないだろうが!
如月は足早に俺の前を通って階段を降りていった。
ここまで嫌われてるといっそ清々しいな。
嬉しくはないが。
フロントにおじさんがいたので改めて感謝の気持ちを伝えると、なにやらニヤニヤしている。
「俺なんか変なことしました?」
「この野郎すみにおけねぇなぁ。いい女捕まえやがって」
いい女?誰のことだ?
「人違いじゃないですか?俺彼女なんていないし」
「彼女にすりゃいいじゃねぇか!お似合いだと思うけどな」
もしかして……
「如月のこと言ってます?」
思わず声が裏返る。
どこをどう見たらあいつがいい女に見えて俺とお似合いになるんだろうか。
「もちのろんよ。う〜む……あの子は絶対言うなって言ってたんだけどな。このままじゃどうせくだらねぇ誤解が解けねぇだろうから言っちまうわ!」
おじさんはもったいぶるように一呼吸おく。
「お前の分の宿泊代な、あの子が払ってくれたんだよ」
は?
絶対に有り得ない。
「俺はいらねぇって言ったんだけどよ、払うっつって聞かねぇんだ。俺も筋金入りの頑固だが、あの子はそれ以上だな」
おじさんは俺の肩をバシバシと叩く。
「というわけだ、あの子を泣かすような真似したらタダじゃおかねぇぞ」
「冗談じゃねぇ……」
「ん、なんて言ったんだ?」
「お世話になりました!おばさんによろしくお伝えください!」
外に出て、見渡しても如月はいなかった。
ふざけんな、勝手なことして、勝手にいなくなりやがって。
広場の方に向かう1つ目の角を曲がった時、如月の姿が遠くに見えた。
人混みをかき分けて走る。
「はぁ……はぁ……やっと追いついた」
「なにしてんのよ、あんた」
「ちょっとは歩調合わせろよ、お前歩くのはえぇんだよ」
「なんであんたに合わせる必要があるの?ていうかなんの用?用がないなら……」
「ありがとな」
「えっ……?」
「もう言わねぇぞ、お前への借りは必ず返すから覚えとけ」
如月が見たことのない表情になる。
「は……はぁ?なに言ってんの?アンタに貸した覚えなんてないし、あったとしてもあんたごときから返してもらう必要ないし」
「へいへい、じゃぁまたな。元気でやれよ」
「うるさいバカ」
▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「で?なんでお前俺のあとついてくるわけ?」
「はぁ?アンタがあたしの後ついてきてんでしょ?変態!ストーカー!」
道行く人が一斉に俺を見る。
「ばっ、やめろって!シャレになんねぇだろうが!」
「アンタがついてくるからいけないんでしょ」
「ちげぇよ、本当にこっちに用があんだよ!」
「ふん、どうだか?どうでもいいからあたしの500m後方を歩いてくれない?」
それもう街出るだろ。
「なんでそんなめんどくせぇことしなきゃいけねぇんだよ、お前が後ろに行けばいいだろ?」
どちらからともなく歩幅が大きくなり、次第にスピードが上がっていく。
「おぉ君達早いね。もうちょっとゆっくりしてても良かったのに」
「「タケルさん!!!」」
「「なんでコイツがいるんですか??」」
タケルさんは大笑いしながら答える。
「ははは、紹介の必要はなさそうだね」
どういうことだ。
なんで関係のない如月がここにいる?
「タケルさん!まさかこのバカをあたし達のギルドに入れるつもりなんですか?」
如月が凄まじい剣幕で食ってかかる。
ギルド?
まさか…………
「タケルさん、もしかしてギルドのメンバーって……」
「トータ君ご名答。確かにナツ君は僕のギルドの一員だ。もちろん他にもメンバーはいるが、まだ来てないみたいだね」
「あたしは絶対に反対です!」
どうやら如月の中では俺がギルド入隊希望していることになっているらしい。
タケルさんを見ると、任せろというニュアンスであろう目配せをしてきた。
「まぁまぁ、ナツ君落ち着こう。彼は別に僕達のギルドに入隊希望しているわけではないんだよ」
「それじゃぁなんで」
まだ納得していないのが顔にありありと出ている。
「色々とあったんだが……トータ君、言っても大丈夫かな?」
俺は黙って頷いた。
もしここで言わなくても、如月だったら力ずくでも聞き出そうとするだろう。
「『密談結界』」
タケルさんが詠唱すると、一瞬で直径2〜3mほどの小さな円が描かれ、球体状に白い膜を張ると、すぐに透明になる。
そこにタケルさんと如月が入ると、2人の話し声が全く聞こえなくなった。
5分くらいたっただろうか。
最初はしかめっ面だった如月の表情も幾分和らいだような気がしたかと思うと、2人が外に出てきた。
「昨日君が僕に伝えてくれたことを全て彼女に話したよ。どうだろう?今は一時休戦ということで手を打たないか?」
「俺は構わないです、そもそも今はそれどころじゃないので」
「あたしはマルスタットの皆を守るためなら協力します」
「よし!じゃぁ決まりだ。まずは例の2人組を探そう。ナツ君は先に行っててくれ、トータ君は他のギルメンとの挨拶があるからね」
はい、と言って如月は人混みに消えていった。
「タケルさんすいません」
「いいじゃないか、元気な事はいいことだよ。ナツ君とは知り合いなの?」
「はい、一応」
タケルさんはどうりで、と言って笑う。
「あんなに感情を表に出すナツ君を初めて見たよ」
そういえば俺も久しぶりに見た。
如月の怒った顔を。
だからなんだって話だが。
「ただ俺が嫌われてるってだけなんですけどね」
「まぁケンカするほどなんとやらっていうし」
「いやいや断じてそんなんじゃないですから!」
タケルさんは何も言わずにニヤニヤとしている。
やりずらいなぁ、この人。
「そろそろ残りのメンバーが来るはずだ」
タケルさんは腕時計をチラッと見る。
「あと何人くらいいるんですか?」
「3人だよ、皆いい子達ばかりだ」
いい子ってことはタケルさんよりも年下なんだろうか?
「おぉ〜噂をすれば」
タケルさんの指す方を見ると、男女が並んで(正確に言えば女の子が2歩くらい後ろにいるが)こちらに向かって歩いて来る。
男の子の方は眼鏡を掛けていて、身長はそれほど高くもなく、佇まいからどこか神経質な感じが見受けられた。
女の子は男の子よりさらに身長が低く、俯いているので顔はいまいち分からないが、お下げ髪とちょこちょことした歩き方のせいか、少し内向的に見える。
「やぁ!おはよう!」
遠目からのタケルさんの挨拶に2人は首をわずかに動かしただけだ。
「なんとなく分かったかい?」
タケルさんが声を潜めて呟く。
「遅れて申し訳ありません」
機械的な抑揚のない声で男の子が謝る。
それにつられるように女の子も急いで頭を深く下げた。
「いやまだ10分前なんだけどね」
「15分前集合が常ですので」
タケルさんは少し困ったように苦笑いを浮かべる。
「トータ君、こちらジン君とユウ君だ」
「あっ、初めまして!トータです。今日はわざわざすいません」
何を隠そう俺は人見知りだ。
年上ならまだマシだが、同年代には免疫があまりなく、さっきから心臓の鼓動は時間の経過に比例して速まっていた。
「ジンです。よろしく」
わざわざすいませんという箇所には一切触れずに必要最低限の言葉を並べて、ジンという男の子は俺を一瞥した。
「あっ、あの!私……ユウです。足手まといにならないように頑張りますので……」
声のアクセントとリズムが著しく一定していない。
この女の子もしかして俺以上の人見知りか。
「そういえばジン君、ヤマトは?」
ジンの鉄仮面のように全く変化しなかった表情が少し強張る。
「彼ならまだ寝てるかと」
「その様子だと試みはしたようだね」
ジンは答えずに眼鏡をクイッとあげる。
「まぁしょうがない、あと10分期待せずに待つことにしよう」
それで、とタケルさんが切り出す。
「昨日送信しておいたメッセージは読んでくれたかい?」
さすがタケルさんだ。
もう手回ししといてくれたらしい。
「読みましたがにわかには信じ難いですね」
「あの……本当に狼さん達はそんなに悪いことをするんでしょうか?私もまだ信じられなくて……」
「残念だけど本当みたいだ。僕にはトータ君がそんな嘘をつくような人間には思えない」
目の前でこういう風に言われるとこそばゆくなる。
その後タケルさんに促されて俺が大まかに説明すると、2人はなんとか納得してくれたようだった。
「よし、まずは各自例の2人組について情報収集を頼む。ジン君は北、トータ君は東、ユウ君は南、僕が西を担当しよう。もし何か情報が得られたらすぐに連絡をしてくれ」
広場にある大時計が9時の合図に鐘を打ち鳴らす。
期限まであと15時間。
もし今日が無事に終わったら、自分から2人に話しかけよう。
なんとなくそう決めた。




