おやすみマスター
十字架やら聖水に弱く、心臓に杭をうたれると死ぬなんていう、お約束程度の知識しかないような俺に、なぜ吸血鬼が取り憑くんだろうか。
「おそらく、『隔世』を使うことによって吸血鬼がマスターに乗り移ったのは間違いないわ。それなら、あの異常な戦闘力も納得出来る」
「吸血鬼ってそんなに強いの?」
「このHSOの世界に照らすと、ランクはSとなっているわ」
Sって……あまりにも現実離れしていて実感が湧かない。
「ちなみにバロンは?」
「あいつはCってところかしら」
明確な比較対象ができてもなお信じられなかった。
「あー全然分かんねぇ!
なんでそんな強いやつが俺のとこに来たんだろう」
「例えば『隔世』が魔物を強制的に使役し、自らに憑依させるスキルなら、それも説明がつくわ。
でも考えてみて、マスターが狙って発動出来たことなんてないでしょ?」
確かにSPがある状態で特に使用条件があるわけでもないのに、狙って発動出来たことなんてない。
「非現実的だし憶測の域を出ないけど、ある程度の信頼関係がなければ魔物は力を貸してくれないんじゃないかしら」
ナツさんの説は非現実的というか非科学的だ。ゲームの世界でそんな不確定な要素があっちゃたまらない。
でもなぜだろう。
その説が1番しっくりくる。
吸血鬼はずっと俺とバロンの戦いを見ていた気すらする。
俺の実力を測っていた?
いや、だとしたらあんな内容だったんだから見捨てるに違いない。
考えれば考えるほど分かなくなる。
「うーん……まぁいいや!
うだうだ考えてたってしょうがない!
だって分かんないんだから。
いつかまたアイツに会った時に訊こう。それまでにもっと強くなって、胸張って力を借りられるようにすればいい」
「そうですね、わたしもそう思います」
「胸張って力を借りるっておかしいけどね、マスター」
「そこ突っ込まないでよナツさん!」
「ふふ、それじゃぁ帰りましょうか?そろそろ日が暮れちゃいそうです」
エリスの一声で、俺達は帰路につくことにした。
家に着いた時、すっかり辺りは仄暗い闇に包まれていた。
「やはりまだ父は帰ってきてないみたいです」
ブロンコさんが帰ってくるのはだいたい11時過ぎだと言っていたから、まだ3時間近くある。
「わたしは夕飯の支度をするので、トータさんはお部屋でゆっくりなさってください」
部屋に入るとどっと疲れが押し寄せる。
俺は何も考えずにベッドに横になった。
今日は本当にいろいろありすぎた。
ミニトロールやバロンとも戦ったし、挙げ句の果てに吸血鬼まで登場するなんて。
「マスターお疲れ様。Lvが3も上がってるけど、その様子じゃ明日にしたほうがよさそうね」
そういえば最後に対バロン用に『火球』を取得してから、メニュー画面を開いてなかった。
3も上がったのか、そりゃアイツの強さを考えれば妥当かもしれない。
だとすると今のLvは7か……
もう少しで後戻りが出来なくなる10になる。
忘れかけていた嫌な緊張感が、きりりと胸を締めつけた。
「ナツさんも今日はありがとね。ナツさんとエリスがいなかったら…………
「いなかったらなに?
って寝てるじゃない!
まったく、女心をなんだと思ってるのかしら。
まぁいいわ、今日は許してあげる。
おやすみマスター」




