少年は誰が為に隔世す
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湖畔を後にし、曲がりくねった小道を抜けると、広野に出た。
風が颯と吹き抜け、ほのかに甘い香りが鼻をかすめていく。
高かった日はすでに傾き始めていた。
「ここだ」
張り詰めた空気が満ち満ちている。
「待っていたよ。焚きつけるような言動をしてしまったが、君達なら逃げずに来ると思っていた」
虚空からバロンが姿を現す。
「君、私の授けた剣はどうした?」
「見ての通りだろ」
「虚勢と慢心は己を滅ぼすぞ?
まぁよい。その棒切れで私に挑むというならばそれもまた一興。
さぁ血湧き肉躍る闘いを愉しもう!
全身全霊を持って私を討ってみせろ!」
「行くぞ!!!!!!」
バロンは即座に詠唱を始めた。
この間にこちらから攻撃を仕掛けるべきか?
距離にして約10m。
いや、間に合わなかった場合のリスクが高すぎる。
攻撃魔法が直撃したら間違いなく即死。運が良くて瀕死だろう。
まだこの距離なら回避出来る可能性がある。
俺とエリスは攻撃に備え、身構える。
3秒……5秒……
心臓の鼓動が比例するように早まっていく。
バロンが意地悪く微笑んだ。
『魔攻強化』
強化!!???
「まさか様子を見ようなどと悠長に構えたのではあるまいな?弱者が戦局を引き延ばすなど愚策の極み。奇襲ならばせめて一太刀浴びせられたかもしれぬのに」
「強化をかけたということは、次に必ず攻撃魔法をもってくるはずだ。
と今思っただろう?」
バロンは手にしていた杖を剣に切り替え、凄まじい速度で斬りかかってきた!
くっ!!
回避が間に合わない!
こんなところで……
キィィィィン!!!!
エリスが斬撃を辛うじて受け流す。
「あなたには絶対に負けない……」
「ほう小娘、無益に抗うか」
「マスター解析完了!バロンの弱点属性は火よ!」
俺は詠唱を終えると、狙い澄まして手をかざす。
「『火球』」
放たれた火球はバロンに直撃した!
黒煙が立ち昇る。
「小賢しいわ!貴様らの全身全霊などこの程度か!!」
「まだ終わっちゃいない!!!」
背後にまわった俺は木の棒を投げ捨て、代わりにバロンが残していった剣を発現させる。
「いっけぇぇぇぇぇ!!!!!」
鋭利な剣先がバロンの胸部を貫いた!
こんなんじゃこいつは死なない。
さらに精神を集中させる……
「『隔世』!!!!!」
バロンが吹き飛ぶ……はずだった。
嘘だ……そんなわけない…………
なんで……
発動しない?
「ぐふっっ!!!まさか火球を囮に使うとは……だが貴様らの悪運もここまで!」
バロンは身を翻すと、持っていた剣を深々と俺の身体に突き刺した。
「い……いやぁぁぁぁ!!!!」
エリスの叫び声が遠くのほうで聞こえる。
俺は死ぬのか。
けっこう頑張ったんだけどな。
ゆっくりと地面が近づいてくる。
人が死ぬ時周りがスローモーションで見えるというのはどうやら本当らしい。
ここで倒れたら楽になるだろうなぁ……もう痛い思いもしなくて済む。
でもエリスを1人にするわけにはいかない。
俺は約束したんだ。
ピピッ
新スキル発動
『騎士の誓い』
右足を踏み出してぎりぎりで持ち耐える。
「ほぅ……まだ見苦しく足掻くか人の子よ。ならばさらなる地獄を味わえ」
バロンは左手に杖を現出させる。
『上出来だぜ相棒』
誰だ?
「無詠唱ではだいぶ威力が落ちるが、今の貴様を仕留めるには充分だ」
『今のお前になら力を貸してやる。深淵から覗いてろ、これがお前の本当の力だ』
なにかに導かれるように無意識に口が開く。
「『隔世』」
「『鎌鼬』」
割れるように頭が痛い。
意識が混濁する。
ドクン
身体の奥から膨大で無秩序な力が溢れてくる。
『相棒、色々聞きたいだろうが御託は後だ。この力は今のお前じゃもって11秒。一気にけりをつけるぜ』
「『始動』」
「フハハ、どうだ人間の娘!眼前で騎士が無様に殺される様は。所詮この程度が諸君の限界なのだよ!」
0:11
「『調子に乗るなよクソ雑魚が』」
右拳をバロンの腹にめり込ませる。
「げふっっっっ!!!!」
何本もの骨を砕いた感触が拳から伝わった。
0:05
冷え切った思考は正確に時を刻む。
これで終わりだ。
「『血色の渇望』」
0:00
血飛沫が鮮やかに舞う中、俺は意識を失った。




