憤怒のミニトロール
今俺の頭の中は、面目躍如したい、もといエリスの前でカッコいいところを見せたいという煩悩で埋め尽くされている。
そう振り分けだ。
まだエリスにはこの無様な葛藤は気付かれていない。
迅速に決定しなければ。
即効性を求めるならば、物理攻撃に全振りするのがベストだろう。
しかしどうだ、1が5に変わったところで大差ないのではないか?
第一、武器がそこらへんに落ちてた木の棒の時点で俺が攻撃に賭けるやる気のほとんどが削がれているといっても過言ではない。
ならばいっそのこと姫を護る騎士の如く物理防御かHPに振るのもありか。違う、騎士は盾と鎧あってこそだ。今の装備で敵の前に仁王立ちしたところで、酔狂な自殺志願者にしか見えない。
俺の唯一の2ステの素早さはどうだ?
有り得ない、さっきまざまざとエリスの俊敏性を目の当たりにしたばかりじゃないか。
スキルを……いや、悠長に選んでいる時間などあるはずがない。もし適当に選んでそれが『ナビのコスチューム変化』とかだったら目も当てられない。
考えろ、考えるんだ俺。
塵みたいな攻撃力、紙みたいな防御力、嘘みたいな糞ステ。
「SPに全振りで頼む」
「え、本当に?」
本当に?ってなんだ。ナビのいうことじゃないだろ。
小声で早く、早くとせっつく。
「了解マスター。らしいといえばらしいわね」
「トータさんどうかしましたか?」
なにも知らないエリスは無邪気に微笑んでいる。
「なんでもないよ。暗くなる前に先を急ごう!」
どう転んでも、俺の唯一にして最大の武器はアレしかないだろう。
もし予想が正しければ、『隔世』は消費SPになんらかの倍率をかけたダメージを敵全体に与えるはずだ。最初に使えた時でさえ、SPは5しかなかったのに、サーベルタイガー3匹を仕留めた。
SPが17の今ならきっとかなりのダメージが期待出来るはずだ。
ただ、チャンスは1回しかない、臥薪嘗胆の精神で、その時がくるのを待とうじゃないか。
運よくモンスターは単体でしか現れず、それをエリスが一撃で仕留めつつ、俺が必要のまるでないオーバーキルで面目を保ちながらしばらく道なりに進むと、小さな湖畔がみえた。
「あ、わたしここ覚えています!
小さい頃よく父と母が連れてきてくれて、ここでお弁当を食べたり、湖で遊んだりしていました!」
エリスは湖に駆け寄っていく。
ザパァァァン!!!!!
その機を見計らっていたかのように水中から身の丈2m以上はありそうな小太りのモンスターが現れた!!
「ふぅぅぅ、どうも森の中が騒がしかったからここに潜んでいればぁ。がはは、とんだ馳走が舞い込んできたもんだぁ」
モンスターの頭上にはミニトロールと表示されている。
これでミニかよ!とか言ってる場合じゃない。
エリスの足が動いていなかった。
俺はあらん限りの脚力で駆けた。
ミニトロールが腕を振り上げる。
間に合ええぇぇぇぇ!!!!!
間一髪でエリスを抱えてミニトロールの攻撃を避けた。
もたもたしていたらすぐに二撃目がくるだろう。
考えろ!こいつは見た目からして絶対にHPも物防も高いはず。
だが逆にそういう輩は一点攻撃に弱いのがセオリーだ。
「エリス!俺が合図するまで後方で待機していてくれ!」
エリスは黙って頷いた。
「かぁぁ美しいねぇ絆だねぇ。でも俺はぁそういうのぉ嫌いなんだよねぇ」
ミニトロールは、手に唾を吐きつけ背中から棍棒を取り出すと、俺達に向かって横に薙いだ!
咄嗟にしゃがみ込んでこれを回避する。
凄まじい風圧が恐怖心を煽っていく。
間違いなく当たったら即死だろう。
エリスは?
エリスは無事か?
なるべく前方への警戒を保ちつつ背後を確認すると、エリスもどうやら無傷らしかった。
怖い……怖い……怖い……
えもいわれぬ恐怖が身体を蝕み、硬直させようとする。
ここで死んだらあの時と何も変わらない。
やるしかない、やるしかないんだよ!!!
地面に落ちていた木の棒を拾い上げ、ミニトロールの背後に回る。
「うらぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「なんだぁ、その虫みたいな攻撃はぁ。痛くも痒くもないぞぉ」
んなこと百も承知なんだよ!
構わず叩き続ける。
「ちょこちょこ邪魔くせぇなぁ、とっとと大人しく喰われろよぉ」
ミニトロールの棍棒攻撃が飛んでくるが、目が慣れたのと、接近しているおかげで軌道がなんとか読めている。
あと半分だ!
正面に回った時、ミニトロールの空いた左手が腹部に直撃した。
「ごふっ……」
痛ぇ痛ぇ痛ぇ!!!!
吐瀉物が口から漏れ出す。
死んで……ねぇ!!!!!
まだいける!まだやれる!!!
接近していた分、ダメージが抑えられたようだった。
残りHPを確認している余裕はない。
もう一度ミニトロールに飛び掛かる。
「これで終わりだぁぁぁぁぁ!!!!!」
もはや打撃音すらしない。握力もなくなっている。
「ぶははは、なにが終わりなんだぁ?こんなんじゃ虫一匹殺せやしねえぞぉ?」
「ナツさん!各部位の打撃反応を確認してくれ!」
「了解。少しだけ時間を稼いでマスター」
んなこと言われてももう力なんて残ってないんだよナツさん。
「なぁに小賢しいことやってんだぁ?死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
ミニトロールが振りかぶった棍棒が、凄まじい速度で振り下ろされる。
キィィィィン
甲高い金属音が響く。
棍棒は軌道をずらされて地面にめり込んでいる。
「あなた一人に戦わせはしない!!!」
エリスが俺の前に立っていた。
「マスター!解析完了したわ!やつの弱点部位はここよ!」
赤いターゲットマークがミニトロールの喉元を捉える。
エリスはこちらを見て頷いた。
2人で膝を曲げ、タメをつくる。
「お前の敗けだぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
最後の力を振り絞って喉元を突き上げる。
確かな手応えと共に、ミニトロールは呻き声をあげて倒れた。
「勝った……のか?」
これで立ち上がったらどうしようもない。
もうこちとら立つ気力すらねぇんだよ。
倒れたミニトロールの身体が徐々に消えていく。
「2人ともお疲れ様♪いい戦いだったわよ」
勝った……勝ったんだ…………
「「やっっったぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」」
パチバチパチパチ
渇いた拍手が鳴り響く。
まさか…………
「諸君には実に面白いショーを見せてもらったよ」
悪夢はまだ終わらない。




