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異世界来たのに狼ってそれはないでしょう!  作者: ナメク
第一章君の名前は

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第三話 狼を助けた青年

 青年の背中を追いながら、俺は自分の足元に目を落とした。

 灰色の毛に覆われた四本の脚。地面を踏みしめるたび、肉球越しに土の感触が伝わってくる。

 時折、傷ついた脚が鈍く疼いた。歩けないほどではない。けれど、ゴブリンから逃げ回っていたときの痛みは、まだ完全には消えていないらしい。

 無理は禁物だ。

 ……もっとも、今の俺に無理をするなと言ったところで、どうすればいいのか分からないのだが。

 つい先ほどまで、俺は四匹のゴブリンに追い回されていた。

 あと少し判断を誤っていれば、今頃どうなっていたか分からない。

 振り下ろされる棍棒。迫りくる醜悪な顔。思うように動かない四本の脚。そして、逃げ場を失った俺の前に割って入った青年。

 思い返すだけで、背筋が冷たくなる。

 ……危なかった。

 本当に、危なかった。

 俺は前を歩く青年を見上げた。

 背中には弓と矢筒。腰には小さな刃物。森を進む足取りには迷いがなく、枝葉を避ける動作にも無駄がない。

 足音さえ、驚くほど静かだった。

 青年は、ただ前だけを見て歩いているわけではなかった。枝を踏む前には足元を確かめ、茂みを抜ける際には周囲へ視線を巡らせる。ときには足を止め、地面に残された痕跡をじっと観察していた。

 ――なるほど。

 さっきの戦い方にも納得がいく。

 力任せに敵へ突っ込むのではなく、相手の位置を把握し、地形を利用し、危険を避けながら戦う。

 俺が四匹のゴブリン相手に必死になっていた間も、彼は冷静に状況を見極めていたのだろう。

 ……同じ人間なのに、こうも違うものか。

 いや、待て。

 今の俺は狼だった。

 比べる相手を間違えている。

「おい、そっちじゃないぞ」

 不意に声をかけられ、俺は顔を上げた。

 青年が足を止め、少し先の地面を指さしている。


「そっちはぬかるんでる。足を取られるから、こっちに来い」


 示された場所に目を向けると、確かに地面が湿っていた。

 うっかり踏み込めば、足を滑らせていたかもしれない。

 俺は青年の顔を見てから、指し示された道へ進んだ。

 ……言葉は分かる。

 意味も理解できる。

 問題は、それをどう伝えるかだ。

 人間だった頃なら、「分かった」と一言返せば済んだ。だが、今の俺にできるのは、せいぜい鳴き声を上げることくらいだろう。

 ……いや、待て。

 そもそも、狼の鳴き声ってどう出すんだ?

 犬みたいに鳴けばいいのか。それとも、遠吠えでもすれば伝わるのか。

 考えれば考えるほど、分からなくなってくる。

 結局、俺は黙って青年の後を追った。


「……素直だな、お前」


 青年が、少し意外そうに呟いた。

 素直というより、言葉が通じないだけです。

 心の中で反論したところで、当然、相手には届かない。

 ……くそっ。

 人間だった頃には当たり前にできていたことが、今では何一つ思いどおりにならない。

 歩くことも、食べることも、誰かと意思を伝え合うことさえも。

 異世界転生なんて、もっとこう、華々しいものだと思っていた。

 目覚めたら強大な力を手に入れていて、困っている人を助けたり、魔物を倒したり。そういう、いかにも英雄らしい展開が待っているものだと。

 少なくとも、森の中で腹を空かせ、ゴブリンに追い回される生活を想像していたわけではない。

 ……いや、そもそも狼に転生する時点で、想像の範囲外なのだが。

 俺は小さく息を吐いた。

 今さら文句を言っても始まらない。

 まずは、生き延びることが先だ。


     ◇


 アルトは、背後をついてくる狼を気にかけていた。

 野生の狼なら、人間を警戒して距離を取るのが普通だ。ましてや、つい先ほどまで危険な目に遭っていたのなら、なおさらだろう。

 ところが、この狼は逃げなかった。

 もちろん、警戒心がないわけではない。アルトが急に振り返れば耳を立て、手を伸ばそうとすれば、すぐに一歩分の距離を取る。

 むしろ、警戒心は強い方だ。

 それなのに、アルトが歩き出せば、少し遅れてついてくる。


「変なやつだな……」


 思わず、そんな言葉が漏れた。

 アルトは先ほどの戦いを思い返す。

 最初、この狼は明らかに怯えていた。足取りは不安定で、逃げる方向すら定まっていなかった。

 しかし、追い詰められてからは、ただ闇雲に逃げ回っていたわけではない。

 棍棒を避けるために木を利用し、ゴブリンの動きを見ながら逃げ道を探していた。少なくとも、アルトにはそう見えた。

 偶然だった可能性もある。

 生き残ろうとする本能が、たまたま都合のいい行動を選ばせただけかもしれない。

 それでも、気になった。

 魔物の生態には、まだ知られていないことが多い。外見や分類だけで判断すれば、思わぬ失敗につながることもある。

 だからこそ、目の前のものをよく見る。

 それは、父から教わったことの一つだった。

『森で生き残りたいなら、目の前のものをよく見ろ。見た目だけで判断するな。分からないものを、分からないまま放っておくな』

 幼い頃、父はそう言っていた。

 当時のアルトは、父の話を聞くたびに、森の外に広がる世界へ思いを馳せたものだった。

 遠くの国。見たこともない街。地図にしか載っていない山や湖。

 父が語る旅の話には、アルトの知らない景色がいくつもあった。

 いつか、自分もそこへ行ってみたい。

 そう願うようになったのは、ずっと昔のことだ。

 けれど、現実は思い描いたほど簡単ではなかった。

 アルトの身体は生まれつき丈夫とは言いがたく、魔力に対する抵抗力も弱い。長旅に出れば、移動するだけで体力を消耗する。魔力の影響が強い土地では、ほかの人間以上に危険が伴うこともあった。

 知識を身につけ、弓の腕を磨いても、身体がついてこなければ旅は難しい。

 それでも、諦めきれなかった。

 せめて、この森のことだけは誰よりも詳しくなろう。

 いつか森の外へ出られる日が来たとき、何も知らないまま立ち尽くすことがないように。

 その思いを胸に、アルトは森を歩き、足跡を調べ、魔物の習性を学んできた。

 そして今、目の前には、これまで見たこともない反応をする狼がいる。


「……考えすぎか」


 アルトは小さく首を振った。

 今は、答えの出ないことを考えていても仕方がない。

 まずは家へ連れて帰り、傷の具合を確かめよう。それから考えても遅くはないはずだ。

 アルトはちらりと後ろを振り返った。

 狼は少し遅れながらも、懸命についてきている。ときおり傷ついた脚をかばうような仕草を見せるのが気になった。

 アルトは歩く速度をわずかに落とした。


「もう少しだ。頑張れよ」


 声をかけると、狼の耳がぴくりと動いた。

 返事はない。

 それでも、こちらの声が届いたことは分かった。

 アルトの口元に、小さな笑みが浮かんだ。

     ◇

 森を歩き始めて、どれほど経っただろうか。

 木々の隙間から差し込む光は、いつの間にか傾き始めていた。風が吹くたび、頭上で葉擦れの音が広がる。遠くから聞こえる鳥の鳴き声も、先ほどより少なくなっていた。

 やがて、目の前を覆っていた木々が途切れた。

 その先に、小さな木造の家が見えた。

 家の周囲には、背丈ほどもない木の柵が巡らされている。壁板はところどころ色褪せていたが、傷んだ箇所は丁寧に補修されていた。

 家の脇には薪が整然と積まれ、その近くには水を汲むための桶が置かれている。柵の内側には小さな畑もあり、土を盛った畝には、何種類かの植物が植えられていた。

 森の中に建つ、質素な一軒家。

 決して立派とは言えない。

 けれど、手入れの行き届いたその場所には、誰かが日々を積み重ねてきた気配があった。

 ……ようやく休める。

 そう思った瞬間。

 ぐうううう。

 腹が鳴った。

 俺は反射的に口を閉じた。

 いや、口を閉じたところで、腹の音が止まるわけではないのだが。


「……腹、減ってるのか?」


 青年が振り返った。

 俺は無言で彼を見上げる。


「そりゃそうか。森を歩き回って、あんな目に遭ったんだ。まともに食べてないんだろ?」

 違う。

 いや、違わない。

 目を覚ましてから、まともな食事には一度もありつけていない。

 ウサギを見つけたときは、ようやく飯にありつけると思った。だが、結果は無様な転倒と獲物の逃走。

 その後はゴブリンに追われ、命からがら逃げ回る羽目になった。

 思い返すだけで情けなくなる。

 俺は力いっぱい頷きたかった。

 だが、ここで人間のように頷いたら、余計に怪しまれるかもしれない。

 そう思い直し、結局、青年を見つめることしかできなかった。


「……とりあえず、中に入るか」


 青年は家の扉へ向かった。

 木の扉には、長年使われてきたような細かな傷がついている。彼が取っ手に手をかけると、蝶番が小さく軋んだ。

 扉を開けたところで、青年はふと思い出したようにこちらを振り返る。

「ただし、家の中を荒らすなよ。食べ物を勝手に持っていくのもなしだ」

 分かってる。

 分かってるから、早く飯をくれ。

 俺は青年の横をすり抜け、家の中へ入ろうとした。

「おい、待て待て! まだいいとは言ってない!」

 慌てた声が飛んできた。

 ……しまった。

 どうやら、少しばかり気が急いていたらしい。

 俺は扉の前で立ち止まり、ゆっくりと青年を振り返った。

 アルトは呆れたように俺を見ていたが、やがて小さく笑った。


「まったく。ずいぶん人間くさい狼だな、お前は」

 その言葉に、俺の耳がぴくりと動いた。

 人間くさい。

 そりゃそうだ。

 中身は元人間なのだから。

 ……いや、そんなことを説明できるはずもないのだが。

「ほら、入れ。まずは傷の手当てだ。そのあと、何か食べさせてやる」

 アルトは扉を大きく開いた。

 俺は彼の顔を見つめた。

 ……本当か?

「なんだ、その目は。別に取って食ったりしないぞ」

 いや、食われる心配をするなら、むしろ俺の方が危険な存在なのではないだろうか。

 そんなことを考えながら、俺はようやく家の中へ足を踏み入れた。

 室内には、乾いた木の匂いが漂っていた。

 足元には板張りの床が広がり、中央には使い込まれた机と椅子が置かれている。壁際の棚には、器や小さな瓶、布に包まれた道具が整然と並んでいた。

 窓辺には乾燥させた薬草が吊るされ、差し込む光を受けて、薄い影を床に落としている。

 部屋は決して広くない。飾り気もほとんどなかった。

 それでも、必要なものが必要な場所に収められた、落ち着いた空間だった。

 ただ、ひとつだけ目を引くものがあった。

 部屋の隅に置かれた、使い込まれた革の鞄。

 その隣には、折り目のついた大きな地図が広げられていた。いくつもの土地に印がつけられ、端の方には、見慣れない文字で細かな書き込みがある。

 俺がそちらを眺めていると、アルトが気づいた。


「ああ、それか。気になるのか?」

 俺は地図から彼へと視線を移した。

「父さんが残したものなんだ」

 アルトは地図の端をそっと持ち上げ、丁寧に折り畳んだ。

「昔、旅をしていた頃のものらしい。俺は話を聞くのが好きでさ。小さい頃から、いろんな場所の話を聞かせてもらっていたんだ」

 そう語る彼の表情は、ほんの少しだけ柔らかくなった。

「いつか、自分の目で見てみたいと思ってる。地図に載っている場所も、載っていない場所も」

 その声には、隠しきれない憧れが滲んでいた。

 けれど、地図をしまう手つきは、どこか慎重だった。

 まるで、大切なものに触れるように。


「……まあ、今は難しいけどな」


 アルトはそう付け加えると、地図を棚へ戻した。

 それ以上、詳しく語ることはなかった。

 俺も、それ以上は聞かなかった。

 ……旅、か。

 この世界には、俺の知らない場所がいくつもあるのだろう。

 見たこともない街。聞いたこともない国。どんな魔物がいて、どんな人々が暮らしているのかも分からない。

 そう考えると、ほんの少しだけ胸が躍った。

 もっとも、今の俺には森から出るどころか、自分の足でまともに歩くことさえ難しいのだが。

 先のことを考えるのは、もう少し生き延びてからにしよう。

 まずは飯だ。

 何よりも飯である。

 ぐうううう。

 再び腹が鳴った。

「……はいはい。分かったよ」

 アルトは苦笑しながら、棚から器を取り出した。

「先に飯にするか」

 その言葉を聞いた瞬間、俺の耳がぴんと立った。

 ようやく。

 ようやく、飯にありつける。


     ◇


 アルトは器を手にしたまま、床に座り込んだ狼を見下ろした。

 腹が鳴るたびに耳を動かし、食べ物の気配を感じ取ると、視線がそちらへ吸い寄せられる。

 その様子は、どう見ても腹を空かせた獣そのものだった。

 ……いや、実際に獣なのだが。

 アルトは小さく笑った。


「そういえば、お前。名前はあるのか?」

 何気なく尋ねてみる。

 当然、返事はない。

 狼は顔を上げ、アルトをじっと見つめた。

 その目には、妙な落ち着きがあった。

 怯えているだけではない。かといって、完全に警戒を解いているわけでもない。

 何かを考えているような、そんな目だった。

 アルトは一瞬、違和感を覚えた。

 しかし、すぐに首を振る。

 まさかな。

 魔物の中には、人間が思う以上に高い知性を持つものもいる。だからといって、目の前の狼が特別だと決まったわけではない。


「……まあ、分かるわけないか」


 そう呟き、アルトは器を床に置いた。

 狼はすぐさま顔を近づけたが、食べ始める前に、ちらりとこちらを見た。

 まるで、食べてもいいのか確認しているようだった。

「いいぞ。食べな」


 その言葉を聞くと、狼は勢いよく肉にかぶりついた。

「うわっ、そんなに急がなくても取らないって!」

 アルトは慌てて器を押さえた。

 狼は夢中で食べている。

 先ほどまでの警戒心はどこへ行ったのかと思うほどだった。

 その姿を見ていると、アルトの胸に、ほんの小さな安堵が広がった。

 助けたからには、せめて傷が癒えるまでは面倒を見てやりたい。

 それだけのことだ。

 特別な理由があるわけではない。

 ただ、目の前で困っている相手を見捨てることが、どうにもできなかった。

 父は、生き残るための知識を教えてくれた。

 森で何を警戒すべきか。どこを歩けば危険を避けられるのか。分からないものに出会ったとき、どう向き合うべきなのか。

 けれど、目の前の相手を助けるかどうかは、知識だけでは決められない。

 最後には、自分で選ぶしかないのだ。

 今日のアルトは、助ける方を選んだ。


「……さて」


 空になった器を片づけながら、アルトは狼へ目を向けた。

「今夜はここで休んでいけ。明日になったら、森に帰すかどうか考えるよ」

 その瞬間、狼の耳がぴんと立った。

 アルトは手を止めた。

 狼は彼を見上げている。

 先ほどまで食事に夢中だったとは思えないほど、真剣な目だった。


「……ん?」


 狼がアルトの服の裾を、前脚でそっと押さえた。

「どうした?」

 返事はない。

 それでも、狼は裾を離そうとしなかった。

 アルトは困ったように笑った。


「なんだよ。そんなにここが気に入ったのか?」


 狼の耳が、わずかに伏せられた。

 その反応を見て、アルトはふと考えた。

 ――この狼は、こちらの言葉を理解しているのではないか。

 もちろん、動物が人間の声色や仕草から感情を読み取ることはある。言葉そのものを理解していなくても、声の調子や態度から、相手の意図を察することはできるだろう。

 だが、それだけでは説明しきれない反応もあった。

 森を歩いているときもそうだ。

 道を教えれば、迷わずついてくる。

 危険な場所を指摘すれば、まるで意味を理解しているかのように行動する。

 そして今も、帰すという話をした途端、裾を押さえて引き留めようとした。

 偶然だと片づけるには、少しばかり出来すぎている。

 アルトはしゃがみ込み、狼の目を覗き込んだ。


「……お前、さっきから妙だな」


 狼の体が、ぴたりと止まった。

 その反応を、アルトは見逃さなかった。


「普通の狼なら、人間の言葉なんて気にしない。なのにお前は、まるで……」


 アルトは言葉を切った。

 考えすぎかもしれない。

 目の前の狼は、ただ賢いだけなのかもしれない。

 それでも、一度気になり始めると、確かめずにはいられなかった。

 アルトは、できるだけ静かな声で問いかけた。


「……まさか、俺の言ってることが分かるのか?」


     ◇


 心臓が跳ねた。

 いや、正確には、心臓が跳ねたような気がした。

 俺はアルトの顔を見つめたまま、完全に固まっていた。

 ……まずい。

 これは、かなりまずい。

 まさか、こんなに早く気づかれるとは思っていなかった。

 いや、考えてみれば当然かもしれない。

 俺は彼の言葉を理解しているし、その指示に従って動いている。人間の常識で考えれば、怪しまれない方がおかしい。

 だが、どうする?

 認めるべきか。

 それとも、知らないふりをするべきか。

 そもそも、狼の知らないふりとは何だ?

 ……いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 アルトは俺を助けてくれた。

 ゴブリンに襲われていた俺を見捨てず、傷を気遣い、家にまで連れてきてくれた。

 食べ物まで与えてくれた。

 少なくとも、今のところ、彼を疑う理由はない。

 けれど――。

 自分が人間だったことまで、簡単に打ち明けていいのだろうか。

 いや、そもそも打ち明けたところで、どうやって信じてもらう?

 もしもこう言えたとしよう

『実は俺、人間だったんです。気づいたら狼になっていました』

 ……駄目だ。

 自分で想像してみても、信じてもらえる気がしない。

 下手をすれば、頭のおかしい魔物だと思われるだけだ。

 俺は息を呑んだ。

 アルトが、もう一度尋ねる。


「……分かるのか?」


 俺は彼の目を見た。

 誤魔化すなら、今しかない。

 目をそらすな。

 鳴き声を上げろ。

 何も分かっていないふりをしろ。

 そう自分に言い聞かせた。

 それなのに。

 アルトの瞳を見つめているうちに、ふと、思った。

 この青年は、俺が何者なのかも知らずに助けてくれた。

 狼だからといって見捨てず、傷ついているからといって放っておかず、こうして食べ物と休む場所まで与えてくれた。

だったら、せめて。

 今くらいは、彼を信じてもいいのではないだろうか。

 気づけば、俺の首はゆっくりと動いていた。

 縦に。

 はっきりと。

 アルトの表情が、凍りついた。


「…………え?」


 沈黙。

 俺もまた、固まっていた。

 ……しまった。

 やらかした。

 信じるのが、少し早すぎたかもしれない。

 やっぱり人は信用しない方がいいのか?

 前世みたいなやらかしはしたくない。

 その思いは聞こえることはない。

 そして異世界生活初日。

 俺はどうやら、ただの狼ではないことがバレかけているらしい。

 

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