↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェルデンツ伯爵家の檻~エレナとシャルロットの解放~  作者: 春告草


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/25

消された炎と初めての会話

「お前は、一体何者だ」


かすかに震える女性の声が途切れるよりも早く、銀髪の女性は凄まじい勢いで床を立ちエレナのすぐ傍へと飛び込んでくる。

彼女の顔には、これまでに見たこともないほどの激しい焦りと恐怖に似た戦慄が顔に出ている。


「馬鹿な真似をするな」

女性は荒々しくエレナの手首をつかみ、その指先で揺らめいている青白い光のを無理やり握りつぶした。

冷たい闇が再び納屋を支配する。

エレナは驚いて目を見開き息をのむ。


「痛い」


「黙れ」


女性の低い声が、納屋の隙間風を切り裂くように響く。

彼女は肩で息をしながら、窓の外遠くできらめく本邸の灯りを一瞥しそれから血の気のない顔でエレナの小さな体を鋭く睨みつけた。


「あの男に、本邸の連中にその気配を感づかれたらどうするつもりだ。お前のその魔法の光ひとつで、私たちは今夜にも処刑台送りだ。いや、それ以上に」


女性の言葉はそこで途切れたが、身体の微かな震えが彼女の抱える恐怖の深さをあらわしていた。

冷酷な同居人ではない。

この女性も、かつてこの屋敷の魔法や醜悪な権力闘争の理不尽さを骨の髄まで知っている者なのだと幼いエレナにも痛いほど伝わってきた。


「ごめんなさい」


エレナが小さくうつむき、震える唇を噛み締めると耳元で妖精たちが優しく羽音を立てた。


「泣かないで、エレナ。ぼくたちは味方だよ」


その様子を見つめていた女性はふっと息を吐き出す。

乱れた銀髪を荒っぽくかき上げる。

彼女の顔から恐怖の色が引き、底知れない覚悟と自嘲的な冷たさが戻ってくる。


「どうしてもその力を隠しきれないというなら、覚えろ」


「え、いいのですか」


「魔法を使いたいなら、力に酔うことをやめろ。誰にも見つからずに気配すら完全に断つ方法を身につけろ。納屋の泥のなかで生き延びたいなら、牙を隠して地を這うすべを学べ」


優しい言葉ではなかった。けれど、初めて自分に向けられた生き残るための教えだった。


翌日から、二人の関係は静かに変わり始めた。

無愛想で沈黙に満ちていた納屋の中で、夜の闇に紛れ女性はエレナに古い魔法の隠蔽術や、貴族社会の裏側に潜む残酷な真実を、不器用にしかし確実に教え込み始めた。


蔵書の知識を糧に知性を尖らせるエレナと、その背後で過酷な術を叩き込む銀髪の女性。

冷たい納屋の底で、二人の影は、いつか訪れる理不尽な運命に立ち向かうための「鋭い牙」を静かに研ぎ澄ませていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。