本邸の光
重厚な天蓋つきの寝室に、赤ん坊の産声が響き渡ったのは底冷えのする冬の日のことだった。
いつもは青白く儚げな美しさをまとっていたエリザベスが、汗に濡れた銀髪を乱しながら腕の中の小さな包みを見つめている。
産まれたばかりの赤ん坊は、ひどく小さいけれど確かな生命力を宿して泣いていた。
女の子だった。
夫であるロバートが望んだ跡継ぎの男児ではなく女児。
この伯爵家の中で何を意味するのかを、エリザベスは痛いほどよく分かっていた。
窓の外では、冷たい雪が音もなく窓ガラスを叩いている。
「おめでとうございます、奥様。気高きお嬢様のご誕生でございます」
侍女長のエミリアをはじめとする使用人たちが、うやうやしく頭を垂れる。
だが、その声音や伏せた瞳の奥に宿る冷ややかな光を、エリザベスは見逃さなかった。
彼らにとって自分も、この赤ん坊はフェルデンツ伯爵家の血筋を繋ぐための道具でしかない。
あの忌むべき四歳のお嬢様を容赦なく切り捨てたのと同じ歯車が、今度は自分とこの子に向いている。
かつて四歳の誕生日を盛大に祝われ、この屋敷のお嬢様として愛されていた少女エレナの存在は、本邸の誰も口にする者いない影として完全に塗りつぶされている。
あの忌むべき四歳のお嬢様を容赦なく切り捨てたのと同じ歯車が、今度は自分とこの子に向いている。
私たちは、本当に守られていくのだろうか。
エリザベスの腕の中の我が子が小さな手をぎゅっと握りしめる。
温もりを感じながら、胸の奥が締め付けられるような恐怖を覚えていた。
その温もりに胸を締め付けられながら、エリザベスは背筋を伸ばした。
病弱だった自分が、ようやく生んだ子。
伯爵家の後継者の席は絢爛な装飾が施されただけの、逃げ場のない檻にすぎない。
自分が愛せば愛するほど、冷酷な貴族社会の政略や使用人たちの陰謀に巻き込まれていく。
かつてのエレナのように、ある日突然すべてを剥ぎ取られる日が来るかもしれない。
この子を、あの冷酷な運命の歯車には絶対に渡さない。
母であることが、これほどまでに恐ろしいものだとは知らなかった。
伯爵家で生きるために、母親となった自分がさらに強く賢くならなければならない。
美しくはかない貴婦人の仮面の下で彼女の胸の奥には、とがった母としての決意と、底知れない孤独の炎が静かに灯り始めていた。
本邸の産声の裏で、新しいお姫様の誕生は屋敷の権力構造を決定的なものへと変えていくのだ。
誰もが秘密を抱え、誰もが互いを警戒し合うフェルデンツ伯爵家。
華やかな本邸の光と、薄暗い納屋の影。その両方で、冷たい風が静かに吹き抜けていた




