シャルロットの記憶の覚醒
あの日、王都の使節団を巻き込んだ火災から、フェルデンツ伯爵家の没落は坂道を転がり落ちるように始まった。
アルフレッド公爵による徹底的な査問。
暴かれたのは使節団を危険に晒した過失だけではなかった。
かつて地下牢で使用人をもてあそんで産ませた我が子を代用品として利用し、納屋へ捨てて虐待していたという悪行。
その実母が隣国の名門ヴィクトール侯爵家の令嬢であったという国際的な不祥事。
ロバート伯爵は爵位を剥奪されて死罪となった。
エリザベスは狂乱の果てに自室で命を絶った。
フェルデンツの領地は王家の管理下に置かれ、神童と持てはやされたシャルロットは地に堕ちた罪人の娘として本邸の片隅に放置された。
「違う私は特別なはずよ。私には紅蓮の炎があるのよ」
孤立無援となったシャルロットは、己の存在価値を証明しようと必死だった。
だが、エレナという支えを失った炎は日ごとに歪み、暴走を繰り返すだけのただの火薬と化した。
そしてある夜、苛立ちと恐怖のあまり、無理に魔力を練り上げようとした瞬間に制御を失った深紅の業火が、シャルロット自身の私室を呑み込んだ。
家具が燃え盛り、天井の梁が焼け落ちる。
煙に巻かれ、自らが放った炎の壁に囲まれた瞬間、凄まじい衝撃と死の恐怖がシャルロットの幼い脳裏を激しく揺さぶった。
熱い。息ができない。怖い。誰か、助けて。
極限の恐怖が、四歳のあの日の頑丈に鍵をかけて心の底に沈め込んでいた記憶を無理やりこじ開けた。
巨大な黒い影が視界を覆う。 凶悪な大カラスの瞳、自分を引き裂こうと迫る鋭い爪と巨大な嘴。
鮮烈なフラッシュバックが、シャルロットの脳裏に濁流のように雪崩れ込んだ。
恐怖で腰を抜かしていた自分。血を流しながら身を挺して飛び込んできた小さな背中。
「そこを、退きなさい」
妖精たちを従え、鋭利な風の刃で怪鳥を一瞬にして切り裂いた姿。
そして、涙を流す自分を優しく見つめてくれた澄み渡るような美しいエメラルド色の瞳。
記憶のすべてが、一気に繋がった。
飴と鞭のような愛情しか受けられなかったシャルロットは、私は特別な人間だ、弱気を見せれば虐待がされると信じこんでいた。
シャルロットまた、フェルデンツ伯爵家の檻の中に囚われた犠牲者なのかも知れない。




