表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/48

第八話 初めての贈り物

第八話 初めての贈り物


 朝食を終えた頃だった。


 レオンは机の上に積まれた依頼書へ目を通していた。


「今日は町の薬屋まで薬を届けてくる。」


「はい。」


「昼頃には戻る予定だ。」


 最近は、出掛ける前に必ず予定を教えてくれる。


 私も自然と、


「気を付けてくださいね。」


 と言うようになっていた。


「……ああ。」


 短く頷くレオンを見送る。


 玄関の扉が閉まる音がすると、家の中は急に静かになった。


(今日は何をしようかな。)


 掃除は終わっている。


 洗濯も昨日済ませた。


 薬草も干してある。


 少しだけ庭を歩いていると、先日植えた花の近くに、小さな白い花が咲いていることに気付いた。


「かわいい……。」


 しゃがみ込んで眺めていると、ふと良いことを思いつく。


(レオンさん、いつも私にいろいろしてくれるから……。)


 今日は私がお礼をしたい。


 花を摘み、小さく束ねる。


 庭に咲いていた青い花も一本。


 黄色い花も一本。


 誰かに花束を作るなんて初めてだった。


◇◇◇


 その頃。


 町では。


「先生。」


 薬屋の主人が荷物を受け取りながら笑った。


「最近、雰囲気が柔らかくなりましたね。」


「そうだろうか。」


「ええ。」


「何か良いことでも?」


 レオンは少し考える。


「……家が少し賑やかになった。」


「ほう。」


「それだけだ。」


 本人は本当に、それだけだと思っている。


 主人はにやりと笑ったが、それ以上は何も言わなかった。


◇◇◇


 昼過ぎ。


 レオンが帰宅すると、玄関には誰もいなかった。


「……?」


 いつもなら、


『おかえりなさい。』


 と迎えてくれる。


 少しだけ寂しく思いながら家へ入ると、


「あっ!」


 奥から慌てた声が聞こえた。


「レオンさん、おかえりなさい!」


 ぱたぱたと走ってくる。


 両手を後ろに隠したまま。


「どうした。」


「えっと……。」


 少し恥ずかしそうに俯いてから。


「いつもありがとうございます。」


 そう言って、小さな花束を差し出した。


「これ……庭のお花です。」


 レオンは動かなかった。


 花束と彼女を交互に見つめる。


「私が作りました。」


 返事がない。


(やっぱり変だったかな……。)


 不安になりかけた、その時。


「……私に?」


「はい。」


 ようやく受け取った花束を、レオンはまるで壊れ物のように大切に持った。


「ありがとう。」


 いつもより少しだけ優しい声。


 私はほっと笑う。


「喜んでもらえてよかった。」


◇◇◇


 その日の夕方。


 私は台所で夕食の準備をしていた。


 一方レオンは。


 研究室で花瓶を探していた。


「……。」


 棚を開ける。


 ない。


 戸棚を開ける。


 ない。


「花瓶がない……。」


 薬品の瓶なら何百本もある。


 試験管もある。


 保存容器もある。


 でも花を飾るための花瓶だけは、一つも持っていなかった。


 しばらく悩んだ末。


 透明な薬液瓶を丁寧に洗い、花を生ける。


「これでいいか。」


 少し不格好だけれど。


 花は嬉しそうに揺れていた。


◇◇◇


 夕食のあと。


 私は研究室へ呼ばれた。


「何かありましたか?」


「……これを。」


 机の上を見る。


「あっ!」


 昼間渡した花束だった。


「飾ってくれたんですね!」


「ああ。」


 嬉しくて思わず笑顔になる。


「ありがとうございます。」


 その笑顔を見て。


 レオンはふと尋ねた。


「花は好きか。」


「はい。」


「見ると落ち着くので。」


 静かな返事だった。


 レオンは頷く。


「……分かった。」


 それだけ言う。


 彼女は気付かなかった。


 その日の夜。


 研究予定を書き込む手帳の片隅に、新しく一行増えていたことを。


 『庭に四季を通して花が咲くよう植え替えを検討する。』


 万能薬の研究計画。


 薬草の収穫時期。


 希少植物の栽培記録。


 それらが並ぶページの、一番下。


 その予定だけが。


 研究ではなく、一人の少女の笑顔のために書かれた初めての計画だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ