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第四十四話 あなたの夢が叶う日

第四十四話 あなたの夢が叶う日


 翌朝。


 レオンはいつもより早く研究室にこもっていた。


 机の上には何本もの試験管と、昨夜から記録を書き込んだ研究ノートが並んでいる。


 薬液は透明なまま、少しも濁っていない。


 何度確認しても、結果は変わらなかった。


「……成功だ。」


 小さく呟いた声には、抑えきれない喜びが滲んでいた。


◇◇◇


「レオンさん?」


 朝食を運んできたりつかが、そっと扉を開ける。


 振り返ったレオンは、いつになく穏やかな笑顔を浮かべていた。


「りつか。」


「少し、見てもらってもいいか。」


「はい。」


 机の上を覗き込む。


 りつかには薬液の違いまでは分からない。


 けれど、レオンの目が輝いていることだけは分かった。


「基礎薬液が完成した。」


 その一言に、りつかは目を見開く。


「本当ですか……!」


「ああ。」


「万能薬そのものではない。」


「だが、ここまで来られれば、ようやく次の段階へ進める。」


 何年も積み重ねてきた研究。


 何度失敗しても諦めなかった夢。


 その努力が、ようやく一歩前へ進んだ。


◇◇◇


「おめでとうございます!」


 りつかは思わず両手を胸の前で合わせた。


「本当に……本当に良かったです!」


 その笑顔は、自分のことのように嬉しそうだった。


 レオンは少し驚く。


「そんなに喜んでくれるのか。」


「もちろんです!」


 りつかは迷いなく頷いた。


「レオンさんが、ずっと頑張っているのを知っていますから。」


「毎日、遅くまで研究して。」


「失敗しても、また次の日には前を向いて。」


「だから……。」


 少し照れながら笑う。


「夢に近づけたことが、私もすごく嬉しいんです。」


 その言葉に、レオンはしばらく何も言えなかった。


 胸の奥が、温かく満たされていく。


 研究が前進したことも嬉しい。


 けれど、それ以上に。


 この喜びを一緒に喜んでくれる人が隣にいることが、何より幸せだった。


◇◇◇


 昼過ぎ。


 祝いにと、アルバートが小さな焼き菓子を持ってやって来た。


「先生、おめでとうございます。」


「まだ完成ではない。」


 レオンは少し照れたように笑う。


「それでも、大きな一歩です。」


 アルバートは焼き菓子をテーブルへ置いた。


「今日はお祝いしましょう。」


「ノアの分はありませんけどね。」


「にゃあ。」


 まるで文句を言うように鳴いたノアに、三人は思わず笑ってしまう。


◇◇◇


 夕食は、りつかが腕によりをかけて作った。


「今日は少しだけ豪華にしました。」


 温かなスープ。


 焼きたてのパン。


 春野菜を使った料理。


「お祝いですから。」


 レオンは静かに席へ着く。


「ありがとう。」


 その一言だけだった。


 けれど、りつかには十分伝わった。


 食卓には穏やかな笑い声が響く。


 この時間が、何より大切だった。


◇◇◇


 食後。


 りつかは食器を洗いながら、ふと昼間のことを思い出していた。


 夢が叶いかけていると知ったレオンは、本当に嬉しそうだった。


 その笑顔を見た瞬間。


 自分まで幸せな気持ちになった。


(どうして……。)


 前なら、誰かが嬉しそうでも「良かったな」と思うだけだった。


 でも今日は違う。


 胸がいっぱいになるくらい嬉しかった。


 その理由を考えて、ふと気づく。


「私……。」


 小さく笑う。


「レオンさんが笑っていると、嬉しいんだ。」


 それはまだ、恋だとは言えない。


 けれど、もう家族への情とも少し違う。


 大切な人が幸せでいてほしい。


 その願いは、春の花がゆっくりと咲くように、りつかの胸で静かに育ち始めていた。


---


 その夜。


 レオンは研究室の窓から、星空を見上げていた。


「母上。」


 机には完成した基礎薬液。


 そして、暖炉の前ではノアを抱いて眠るりつか。


 研究者としての夢。


 そして、一人の男性として願う未来。


 どちらも今、手を伸ばせば届きそうな場所にあった。


 レオンは静かに微笑み、そっと研究室の灯りを消した。


 明日もまた、新しい一日が始まる。


 その明日を、もう一人ではなく、大切な人と迎えられることが嬉しかった。

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