表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/48

第三十六話 頼られる喜び

第三十六話 頼られる喜び


 翌朝。


 レオンは温室で薬草の葉を一枚ずつ確かめていた。


 けれど、手は動いているのに、心は別のことを考えている。


『手伝っていただいても、いいですか?』


 昨日のりつかの言葉だった。


 あの遠慮がちな声。


 少しだけ勇気を振り絞った表情。


 思い出すたびに、胸の奥がじんわりと温かくなる。


(頼ってくれた。)


 その事実だけで、こんなにも嬉しいとは思わなかった。


◇◇◇


「レオンさん!」


 温室の扉が開き、りつかが顔を覗かせる。


「朝ごはんができました!」


「ああ、今行く。」


 振り返ると、いつもの笑顔がそこにある。


 その笑顔を見ているだけで、不思議と心が穏やかになった。


◇◇◇


 朝食のあと。


 りつかは庭で洗濯物を干していた。


 雪は止んだものの、冷たい風が吹いている。


 高い位置にある物干し竿へ手を伸ばす。


「もう少し……。」


 背伸びをしても届かない。


 そのとき。


「貸して。」


 後ろからレオンが自然に受け取る。


「あっ。」


「ありがとうございます。」


「昨日。」


 レオンは洗濯物を干しながら静かに言う。


「頼ってくれて嬉しかった。」


 りつかは目を丸くする。


「え?」


「君は何でも一人で頑張ろうとするから。」


「少し安心した。」


 それだけ言うと、いつもの穏やかな表情へ戻る。


 けれど。


 りつかの胸には、その言葉が優しく残った。


◇◇◇


 昼過ぎ。


 アルバートが薬草を届けに来た。


「先生。」


「最近、りつかさんの表情が柔らかくなりましたね。」


「そうだろうか。」


「ええ。」


 アルバートは頷く。


「最初は、何か失敗しないようにと気を張っているように見えました。」


「でも今は。」


「ちゃんと『ここにいていい』と思えている顔です。」


 レオンは窓の外を見る。


 ノアと遊びながら笑っているりつか。


 その笑顔を見て、小さく微笑んだ。


「ああ。」


「それなら良かった。」


◇◇◇


 夕方。


 りつかは暖炉へ薪を運ぼうとしていた。


 すると。


「それも持とう。」


 レオンが当然のように声をかける。


「えっ、大丈夫ですよ!」


「二人で運べば早い。」


 昨日と同じ言葉。


 りつかは少しだけ笑う。


「そうですね。」


 今度は迷わなかった。


「お願いします。」


 その返事を聞いたレオンも、自然に笑みを浮かべる。


◇◇◇


 夜。


 暖炉の前。


 ノアは二人の間でお腹を見せて眠っている。


「ノア。」


 りつかが小さく笑う。


「この子、安心しきってますね。」


「そうだな。」


 レオンもノアを撫でる。


「安心できる場所だからだろう。」


 その言葉に、りつかはレオンを見る。


「……はい。」


 少し照れながら頷いた。


「私も、そう思います。」


 その何気ない一言が。


 レオンには、どんな愛の言葉よりも嬉しかった。


 彼女はまだ恋を知らない。


 でも、この家を「安心できる場所」と思ってくれている。


 それだけで十分だった。


 今はまだ。


 それだけで幸せだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ