第三十六話 頼られる喜び
第三十六話 頼られる喜び
翌朝。
レオンは温室で薬草の葉を一枚ずつ確かめていた。
けれど、手は動いているのに、心は別のことを考えている。
『手伝っていただいても、いいですか?』
昨日のりつかの言葉だった。
あの遠慮がちな声。
少しだけ勇気を振り絞った表情。
思い出すたびに、胸の奥がじんわりと温かくなる。
(頼ってくれた。)
その事実だけで、こんなにも嬉しいとは思わなかった。
◇◇◇
「レオンさん!」
温室の扉が開き、りつかが顔を覗かせる。
「朝ごはんができました!」
「ああ、今行く。」
振り返ると、いつもの笑顔がそこにある。
その笑顔を見ているだけで、不思議と心が穏やかになった。
◇◇◇
朝食のあと。
りつかは庭で洗濯物を干していた。
雪は止んだものの、冷たい風が吹いている。
高い位置にある物干し竿へ手を伸ばす。
「もう少し……。」
背伸びをしても届かない。
そのとき。
「貸して。」
後ろからレオンが自然に受け取る。
「あっ。」
「ありがとうございます。」
「昨日。」
レオンは洗濯物を干しながら静かに言う。
「頼ってくれて嬉しかった。」
りつかは目を丸くする。
「え?」
「君は何でも一人で頑張ろうとするから。」
「少し安心した。」
それだけ言うと、いつもの穏やかな表情へ戻る。
けれど。
りつかの胸には、その言葉が優しく残った。
◇◇◇
昼過ぎ。
アルバートが薬草を届けに来た。
「先生。」
「最近、りつかさんの表情が柔らかくなりましたね。」
「そうだろうか。」
「ええ。」
アルバートは頷く。
「最初は、何か失敗しないようにと気を張っているように見えました。」
「でも今は。」
「ちゃんと『ここにいていい』と思えている顔です。」
レオンは窓の外を見る。
ノアと遊びながら笑っているりつか。
その笑顔を見て、小さく微笑んだ。
「ああ。」
「それなら良かった。」
◇◇◇
夕方。
りつかは暖炉へ薪を運ぼうとしていた。
すると。
「それも持とう。」
レオンが当然のように声をかける。
「えっ、大丈夫ですよ!」
「二人で運べば早い。」
昨日と同じ言葉。
りつかは少しだけ笑う。
「そうですね。」
今度は迷わなかった。
「お願いします。」
その返事を聞いたレオンも、自然に笑みを浮かべる。
◇◇◇
夜。
暖炉の前。
ノアは二人の間でお腹を見せて眠っている。
「ノア。」
りつかが小さく笑う。
「この子、安心しきってますね。」
「そうだな。」
レオンもノアを撫でる。
「安心できる場所だからだろう。」
その言葉に、りつかはレオンを見る。
「……はい。」
少し照れながら頷いた。
「私も、そう思います。」
その何気ない一言が。
レオンには、どんな愛の言葉よりも嬉しかった。
彼女はまだ恋を知らない。
でも、この家を「安心できる場所」と思ってくれている。
それだけで十分だった。
今はまだ。
それだけで幸せだった。




