第十八話 新しい家族
第十八話 新しい家族
ある日の午後。
レオンは森へ薬草を採りに出掛けていた。
りつかは庭で花の手入れをしている。
すると。
「……?」
花壇の向こうから、小さな鳴き声が聞こえた。
「にゃあ。」
「猫さん?」
そっと覗くと、一匹の白い長毛の子猫が草むらの中で震えていた。
まだ幼い。
雨に濡れたのか、毛並みは少し乱れている。
「大丈夫?」
ゆっくり近付く。
子猫は逃げなかった。
それどころか、小さく鳴きながらりつかの足元へ寄ってくる。
「わぁ……。」
思わず抱き上げると、子猫は安心したように喉を鳴らした。
「一人だったの?」
辺りを見回す。
親猫の姿はない。
しばらく待ってみても現れなかった。
◇◇◇
夕方。
レオンが帰ってくる。
「ただいま。」
「おかえりなさい!」
いつものように迎えに行く。
そして、その腕の中には。
「にゃ。」
白い子猫。
レオンは足を止めた。
「……猫。」
「森の近くで見つけたんです。」
りつかは心配そうに子猫を見下ろす。
「親がいなくて……。」
「ずっと一人だったみたいで。」
「……。」
レオンは静かに子猫を見つめる。
子猫もレオンを見る。
そして。
ぴん、と耳を立てた。
以前なら。
動物はみんなレオンを見るなり逃げ出していた。
しかし今回は違う。
子猫はじっと見つめたあと。
なんと。
りつかの腕から降りて、レオンの足元へ近付いた。
「……?」
レオンも驚く。
子猫は恐る恐る彼の靴へ鼻を寄せる。
くんくん、と匂いを嗅ぐ。
それから。
すり、と足へ身体を寄せた。
「えっ!」
りつかが目を丸くする。
「甘えてます!」
レオン本人も信じられない。
「逃げない……。」
しゃがみ込み、ゆっくり手を伸ばく。
子猫は少しだけ迷ってから。
その手へ自分の頭を擦りつけた。
「……。」
長い沈黙。
「レオンさん。」
「……ああ。」
その声は少し震えていた。
「初めてだ。」
動物に自分から触れてもらえたのは。
◇◇◇
その夜。
子猫は温かい布に包まれ、暖炉の前で眠っていた。
「この子、どうしましょう。」
りつかが尋ねる。
「親が見つかるまでは預かる。」
「はい!」
嬉しそうな返事。
その様子を見ながら、レオンは子猫へ視線を向ける。
「君も居場所を失ったのか。」
小さく呟く。
りつかは、その言葉に優しく微笑んだ。
「私と同じですね。」
「……。」
レオンは頷く。
「ああ。」
「なら。」
りつかは子猫をそっと撫でる。
「一緒ですね。」
「ここが、この子のおうちです。」
その言葉に。
子猫は安心したように、くるりと丸くなる。
◇◇◇
翌朝。
目を覚ましたりつかが居間へ行くと。
そこには思わず笑ってしまう光景があった。
椅子へ座って本を読んでいるレオン。
その膝の上で、丸くなって眠る白い子猫。
「……。」
レオンはページをめくる手を止めない。
けれど、子猫を起こさないよう、もう片方の手でそっと支えている。
その姿はあまりにも自然だった。
「ふふっ。」
りつかは思わず笑う。
「仲良しですね。」
「……そうだろうか。」
「はい。」
レオンは少し照れたように視線を逸らす。
「この子、レオンさんのこと大好きみたいです。」
その言葉に。
膝の上の子猫が、満足そうに喉を鳴らした。
暖炉の火がぱちりと音を立てる。
家の中には、新しい命の寝息が静かに響いていた。
また一つ。
この家に、守りたい存在が増えたのだった。




