第十六話 大切な家族
第十六話 大切な家族
ある朝。
朝食の片付けを終えた頃、玄関から勢いよく声が響いた。
「レオン! いるか!」
低くよく通る声。
レオンは本を閉じ、ふっと笑う。
「兄上か。」
「お兄さんですか?」
「ああ。」
扉を開けると、大柄な青年が立っていた。
日に焼けた肌に短い黒髪。
騎士らしい堂々とした体格。
笑うと少しだけ少年のような表情になる。
「久しぶりだな!」
レオンの肩を軽く叩く。
「相変わらず細いな、お前は!」
「兄上が力加減を覚えるべきだ。」
そんなやり取りに、りつかは思わず笑ってしまう。
(なんだか、似てる。)
雰囲気は全然違うのに。
どちらも相手を大切に思っているのが伝わってくる。
「おや?」
兄はりつかに気付き、目を丸くした。
「君が例の異世界の子か。」
「は、はじめまして!」
慌てて頭を下げる。
「りつかです。」
「俺はガイだ。」
にっと笑う。
「レオンの兄。」
その笑顔は、人懐っこくて温かかった。
◇◇◇
昼食は久しぶりに賑やかだった。
「そうかそうか!」
ガイは豪快に笑う。
「レオンが料理を褒めるなんてな!」
「兄上。」
「昔は『食べられればいい』しか言わなかったぞ!」
りつかは驚いてレオンを見る。
「そうだったんですか?」
「……否定はしない。」
「でも最近は『おいしい』って言ってくれますよ?」
「ほら見ろ!」
ガイは机を叩いて笑った。
「変わったじゃないか!」
レオンは少しだけ困ったような顔をする。
「兄上は騒がしい。」
「ははは!」
その様子がおかしくて、りつかも笑う。
食卓は笑い声でいっぱいになった。
◇◇◇
食後。
ガイは庭を歩きながら、レオンへ小さな声で言う。
「いい子だな。」
「ああ。」
「守ってやりたくなる。」
「……ああ。」
レオンは迷わず頷いた。
「そうだろう?」
兄は横目で弟を見る。
「お前、昔からそんな顔しなかったぞ。」
「どんな顔だ。」
「幸せそうな顔。」
レオンは少しだけ目を伏せる。
自分では分からない。
でも兄がそう言うなら、そうなのかもしれない。
◇◇◇
一方。
りつかは庭で洗濯物を取り込んでいた。
「手伝おうか?」
ガイが声を掛ける。
「あ、ありがとうございます。」
二人で洗濯物を畳み始める。
「レオンは元気か?」
「はい!」
りつかは嬉しそうに頷いた。
「毎日お仕事を頑張ってます。」
「そうか。」
「でも、無理しすぎる時もあります。」
「研究に夢中になると、ご飯を忘れちゃうこともあって。」
ガイは吹き出した。
「あいつらしい。」
「だから最近は、お茶を持っていくようにしてるんです。」
「そうするとちゃんと休憩してくれるので。」
その話を聞いて。
ガイは胸がじんわり温かくなった。
(母上。)
もしあなたが生きていたら。
きっとこんな子を好きになっていただろう。
◇◇◇
帰る時間になった。
「また来る。」
ガイは馬へ乗りながら笑う。
「今度は父上も連れてくるぞ。」
「はい!」
りつかは大きく手を振った。
「ぜひ来てください!」
「父上も喜ぶ。」
ガイはそう言ってから、少しだけ真面目な顔になる。
「レオン。」
「何だ。」
「ちゃんと幸せになれ。」
「……。」
短い沈黙。
「努力する。」
その返事を聞いて、ガイは満足そうに笑った。
馬がゆっくり走り出す。
遠ざかる背中へ、りつかはいつまでも手を振っていた。
◇◇◇
家へ戻ると、りつかがぽつりと言った。
「素敵なお兄さんですね。」
「ああ。」
「レオンさんのお父さんにも、いつか会ってみたいです。」
その一言に、レオンは少しだけ目を細める。
「父上も君に会えば喜ぶ。」
「そうでしょうか?」
「きっとな。」
それは社交辞令ではなかった。
父も兄も、きっとりつかを温かく迎える。
レオンには、その確信があった。
家族とは、血のつながりだけではない。
心から迎え入れたいと思える相手なら、自然と輪の中へ入ってくる。
そんな家で育ったからこそ。
レオンもまた、りつかに「帰る場所」を与えたいと願うようになったのだった。




