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第四章:鋼鉄の守護者

現在――


警視庁本部、三階の休憩室。


自動販売機が並ぶ小さなスペースに、真秀は一人で座っていた。


缶コーヒーを両手で包み込むように持ち、じっと考え込んでいる。


防犯カメラの映像が、頭から離れない。


あの生物。犬から異形へと変化する姿。そして黒装束の人物。


すべてが、常識を超えている。


「よう、真田」


突然、声がかかった。


真秀は顔を上げた。


そこに立っていたのは、大柄な男だった。百八十センチを超える身長に、がっしりとした体格。筋骨隆々とした肉体は、スーツの上からでもはっきりと分かる。短く刈り上げた黒髪に、日焼けした精悍な顔。笑顔を浮かべているが、その目には鋭い光がある。


「桃源……」


桃源信之。機動隊特殊制圧班の係長で、真秀の警察学校時代の同期だった。


「なんだよ、その暗い顔。そんな顔してたら一生嫁の貰い手はないぞ」


信之が軽い調子で言った。


「うるさい」


真秀は睨んだ。


「大きなお世話よ。それより、あんたこそまだ独身でしょう」


「俺は仕事が忙しくてな。モテすぎて困ってるんだよ」


「嘘つけ、同期の麻里ちゃんにフラれてからというもの、フラれ続けの人生、あんたが強くなったのも持て余した性欲を武道に全振りしただけでしょうが。大体あなたの見た目から知性と言うものが感じられないのよ。見ただけで脳筋ってわかるのよ。脳筋の見本よ。キングオブ脳筋よ」


真秀は一気にまくし立てた。


信之の目が、僅かに潤んでいる。


「ひ、酷いじゃないか……」


真秀は小さく笑った。この男との会話は、いつもこうだ。軽口を叩き合い、互いに皮肉を言い合う。


だが同時に、真秀は信之の実力を誰よりも知っていた。


警察学校では、逮捕術も射撃も、常にトップクラス。体力テストでは記録を塗り替え、実戦訓練では教官すら舌を巻いた。明るくのんきな性格だが、いざ現場に出れば、誰よりも冷静で的確な判断を下す。


信之もまた、真秀の能力を認めていた。論理的思考力、観察眼、そして何より、決して諦めない執念。二人は同期の中でも、特に互いを認め合う存在だった。


「で、何だよその顔」


信之が真秀の隣に座った。自販機で缶コーヒーを買い、プルタブを開ける。


「仕事か?」


真秀は少し迷ったが、話すことにした。


「連続殺人事件。被害者は政治家と企業の息子たち」


「ああ、聞いてる。北条議員の息子が殺されたってやつだろ」


「それだけじゃない。今朝、二件目が起きた」


真秀は声を落とした。


「しかも、犯行の手口が……異常なんだ」


「異常?」


信之の表情が、僅かに真剣になった。


「心臓と脳が持ち去られてる。それに……」


真秀は周囲を見回した。他に誰もいないことを確認して、続けた。


「防犯カメラに、何か得体の知れない生物が映ってた」


信之は眉をひそめた。


「生物?」


「最初は犬みたいに見えたんだけど、突然変化して……人間じゃない、何か別のものになった」


真秀の声には、僅かに震えがあった。


信之は黙って、真秀を見つめた。


「マジか」


「本当よ。私も信じられないけど、映像ははっきり映ってる」


信之は缶コーヒーを一口飲んだ。


「この事件危険だぞ。色んな意味で」


「え?」


真秀は桃源の顔を見返した。


「勘だよ。俺の」


信之が真秀の目を見た。


「お前、無理すんなよ。その事件、ただの殺人じゃない気がする」


真秀は頷いた。


「分かってる。でも、犯人を捕まえなきゃいけない」


真秀は一拍置いて、続けた。


「でもあなたの言う意味もわかってるつもり。犯人も危ない奴だし、その背景も危険な匂いがする」


「そうだな」


信之は立ち上がった。


「まあ、もし何かあったら言えよ。俺の今やってる仕事、そのうち役に立つかもしれないからな」


「仕事?」


「ああ。まあ、見ててくれよ。そのうち分かるから」


信之が笑った。


「じゃあな、真田。気をつけろよ」


「あんたもね」


信之は手を振って、休憩室を出て行った。


真秀は、その背中を見送った。


あの男は、一体今何をやっているんだろう。


警視庁本部から車で三十分。


都内の外れにある、警察庁の特別訓練施設。


高い塀に囲まれた広大な敷地の中に、巨大な格納庫が建っている。


信之は、その格納庫の前で車を降りた。


警備員に身分証を見せ、ゲートを通過する。


格納庫の扉が、ゆっくりと開いた。


そして――


その中に、それはあった。


巨大な人型ロボット。通称p2hm――police humanoid heavy machinery(警察用人型重機)。


全高約四メートル。重機を思わせる武骨なデザインだが、明らかに戦闘を意識した造形だ。厚い装甲に覆われた胴体。脚部は重機のように重厚で、油圧シリンダーが剥き出しになっている。その安定感は、まさに重機そのものだ。


対照的に、両腕のマニピュレーターは、その重厚な脚部に比べて華奢な印象を受ける。細身の機械式アームだが、精密な動作が可能なように設計されているのだろう。頭部には、複数のセンサーとカメラが装備されている。


「桃源係長、お待ちしておりました」


技術者の一人が近づいてきた。白衣を着た、四十代の男性だ。


「今日は、p2hmの格闘システムのテストを行います」


「了解」


信之は、ロボットを見上げた。


これが、警察庁が極秘で開発している新兵器。p2hm――police humanoid heavy machinery。


元々は2hm(humanoid heavy machinery)という、災害救助や重量物の運搬のために開発された作業用ロボットだった。だが近年、テロや凶悪犯罪の増加に伴い、より強力な制圧手段が求められるようになった。


そこで、この2hmに戦闘能力を付加し、警察用に改良したものがp2hmだった。


そして、そのパイロットとして選ばれたのが、信之だった。


「乗りますか」


技術者が操縦席への梯子を指差した。


信之は頷き、梯子を登った。


ロボットの背部にあるハッチを開け、中に入る。


狭いコックピット。計器類とモニターに囲まれた空間。中央に、パイロットシートがある。


信之はシートに座り、ハーネスを締めた。


「起動します」


信之がスイッチを入れる。


p2hmのシステムが、次々と立ち上がっていく。


モニターに、外部カメラの映像が映し出される。


「動力、正常。油圧システム、正常。センサー、オールグリーン」


信之が手元のコントロールスティックを握る。


p2hmの腕が、信之の動きに合わせて動いた。


「よし」


信之の目が、鋭く光った。


これが、俺の今度手に入れる力だ。


このp2hmがあれば、どんな凶悪犯でも制圧できる。


人質を取った立てこもり犯も、重武装したテロリストも。


そして――


もし、真田が言っていた「生物」が本当に存在するなら。


このp2hmが、役に立つ日が来るかもしれない。


「桃源係長、準備はいいですか?」


技術者の声が、通信機から聞こえた。


「ああ、いつでも」


信之が答えた。


「では、格闘テストを開始します」


格納庫の奥から、人型のダミーターゲットが運ばれてきた。


信之は深く息を吸った。


そして、コントロールスティックを操作する。


p2hmが、動き出した。


重い足音を響かせながら、ダミーに接近する。


腕を振り上げ――


打撃。


ダミーが、衝撃で吹き飛んだ。


「パワー出力、良好。衝撃吸収システム、正常」


技術者たちが、データを記録していく。


信之は、次のダミーに向かった。


今度は、掴んで投げる動作。


p2hmの巨大な手が、ダミーを掴み上げる。そして、遠くへ投げ飛ばした。


「よし、次」


信之の声は、冷静だった。


だが内心では、このp2hmの力に、確信を持ち始めていた。


これなら、戦える。


どんな敵が来ても――


「桃源係長、素晴らしい操縦技術です」


技術者が感心した声を上げた。


「まだ訓練開始から二週間なのに、もう実戦レベルの動きができている」


信之は答えなかった。


ただ、モニターの向こうを見つめていた。


真田の言っていた、あの生物。


もしそれが、本当に人を襲うなら。


俺が、止めてやる。


このp2hmで――


信之の目に、静かな決意が宿っていた。


そして、内なる闘争心が次の瞬間、口からあふれ出た。


「行くぞ!ケイカイザー!!!」


「え?」


p2hmから聞こえてきた叫び声に、格納庫内のスタッフは全員固まった。

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