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第三十二章:友情の代償

機動隊バス、車内。


重機関銃の轟音が止んだ後――


静寂が落ちた。花山と夢見、そして弓山は、モニターを凝視していた。先ほど、確かに聞こえた。


エイリアンの中から、芹沢幸次郎の声が。


「係長……」


花山が、真秀の方を見た。夢見も、弓山も、同じように真秀を見つめている。


真秀は、モニターから目を離さずに答えた。


「ああ、私も聞こえた」


真秀の声は、静かだった。だが、その目には困惑の色があった。


「芹沢の声……でも、芹沢は留置場にいるはずです」


花山が言った。


「ここにいるはずがない」


「だとしたら、あの声は……」


夢見が呟いた。


真秀は、腕を組んで考え込んだ。


そして――


一つの推論に辿り着いた。


「エイリアンには、ビーストのメンバーを殺害してもらわなければならなかった」


真秀が口を開いた。


「え?」


花山が振り返る。


「芹沢の復讐を遂行するために、エイリアンには芹沢の怨念が必要だったはず」


真秀が続けた。


「だから……あのエイリアンには、芹沢の細胞も移植されているんじゃないか?」


「細胞……」


弓山が呟いた。


「そうよ。華田と榎本の肉体だけじゃない。芹沢の細胞も、エイリアンの一部になっている」


真秀が推論を展開する。


「だから、親友の甲本を見た時――」


真秀の目が、モニターのPASに向けられた。


「芹沢の細胞が反応したんだわ。今回のことが間違っていると、芹沢の意識が目覚め始めた」


「なら……」


花山が希望を込めて言った。


「エイリアンを止められるかもしれない」


真秀は、頷きかけた。


だが――


その時。


モニターの中で、異変が起きた。エイリアンの体が、再び激しく動き出した。


「ギャアアアアアアアアッ!」


凄まじい咆哮。


先ほどとは違う、純粋な殺意に満ちた叫び。


「くそっ、また暴れ出した!」


桃源の声が、無線から響いた。エイリアンの生存本能が、再び呼び覚まされたのだ。芹沢の意識など、一瞬のこと。


今、エイリアンを支配しているのは――


ただ、生き延びようとする本能だけ。


両腕は、PASとp2hmに押さえられている。


だが――


エイリアンには、まだ武器があった。


その顔。


鋭い牙。


エイリアンが、首を伸ばした。


そして――


PASのコックピット部分に、噛みついた。


ガリガリガリッ!


鋭い牙が、装甲を削る。


「うわああああっ!」


甲本の悲鳴が、響いた。PASの装甲が、徐々に破られていく。牙が、コックピットに食い込んでくる。


「甲本さん!」


桃源が叫んだ。


「今、引き剥がす!」


1号機が、エイリアンを引っ張ろうとする。


だが――


「待ってください!」


甲本の声が、制した。


「え?」


桃源が驚いた。


「引き剥がさないでください……!」


甲本の声が、苦痛に歪んでいた。


「今のうちに……私の命が尽きる前に……」


甲本が続けた。


「エイリアンに、トドメを刺してください……!」


PASのコックピットから、血が滴り始めた。エイリアンの牙が、甲本の体を傷つけている。


「甲本さん、無茶だ!」


桃源が叫んだ。


「お願いします……」


甲本の声が、弱々しくなっていく。


「これが……私にできる……最後のこと……」


甲本が、必死に訴えた。


「芹沢を……止めるために……」


桃源は、歯を食いしばった。


甲本の執念。


友を救うための、最後の行動。それを、無駄にはできない。


「……分かった」


桃源が、決意した。


「すまない、甲本さん」


1号機の腕が、エイリアンの頭部に伸びた。巨大な手が、エイリアンの顔を掴む。エイリアンが、暴れる。だが、PASが腕を押さえ、p2hmが頭部を掴んでいる。


もう、逃げられない。


「桃源係長……ありがとう……」


甲本の声が、か細く響いた。


「芹沢……お前との友情は……俺の誇りだった……」


甲本が、最後の言葉を紡ぐ。


「だから……最後まで……お前を見捨てない……」


涙が、甲本の頬を伝った。


「一緒に……終わろう……」


桃源の手が、エイリアンの頭部を強く握りしめた。


機動隊バスの中。


真秀は、拳を握りしめていた。


「甲本さん……」


真秀の目から、涙が溢れた。


花山も、夢見も、弓山も――


皆、涙を流していた。


甲本隆。


芹沢幸次郎の友人。


最後まで、友を救おうとした男。


その命が、今――


消えようとしていた。


桃源は、コックピットの中で叫んだ。


「うおおおおおっ!」


1号機の油圧シリンダーが、最大出力で作動する。エイリアンの頭部を掴む力が、さらに強まる。エイリアンの頭蓋骨が、軋み始めた。


メキメキメキ。


ヒビが入る。


割れ始める。


そして――


桃源の手の中で、エイリアンの頭部が――


砕かれようとしていた。

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