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第二十四章:見えない真実

警視庁本部、取調室。


真秀は、テーブルを挟んで芹沢幸次郎と向かい合っていた。


芹沢は、手錠をかけられたまま、椅子に座っている。


その顔は、穏やかだった。まるで、すべてを受け入れたかのように。


「芹沢さん」


真秀が口を開いた。


「今回の事件に、共犯者はいませんでしたか?」


芹沢は、黙っていた。


「エイリアンを作るには、高度な技術が必要です。あなた一人では、不可能だったはず」


真秀が続けた。


「協力者がいたんじゃないですか?」


芹沢が、ゆっくりと顔を上げた。


「協力者……」


芹沢が、小さく笑った。


「いませんよ。すべて、私一人でやりました」


「嘘ですね」


真秀が即座に言った。


「PASの装甲を手に入れるには、内部の協力者が必要です。それに、エイリアンの制御技術も――」


「真田刑事」


芹沢が、真秀の言葉を遮った。


「あなたは、何が聞きたいんですか?」


芹沢の目が、真秀を見た。


「私が罪を犯したことは、認めています。裁判でも、すべて話すつもりです」


芹沢が続けた。


「でも、協力者のことは話せません」


「なぜ?」


「それが、約束だからです」


芹沢が答えた。真秀は、芹沢を見つめた。


この男は、何かを隠している。


「では、エイリアンの居場所は?」


真秀が尋ねた。


「まだ、一体残っています。最強の個体が」


芹沢は、首を振った。


「知りません」


「知らないはずがない。あなたが作ったんでしょう」


「作りました」


芹沢が認めた。


「でも、もうあの子は私の元を離れました」


「離れた?」


真秀が眉をひそめた。


芹沢が、窓の外を見た。


「真田刑事、世の中には罪を犯しても償っていない悪人がいます」


芹沢の声が、静かに響いた。


「北条たちのように。親の権力で、法を逃れる者たちが」


芹沢が真秀を見た。


「警察では、どうしようもできない悪がある」


「それは……」


真秀が言いかけた。


「だから、必要なんです」


芹沢が続けた。


「悪を裁く者が。法では裁けない悪を、排除する存在が」


芹沢の目が、光った。


「エイリアンは、そのために私の元から離れました」


真秀は、言葉を失った。この男は、本気でそう信じている。エイリアンが、悪を裁く存在だと。


「芹沢さん、それは間違っています」


真秀が言った。


「私的な復讐は、正義ではありません」


「正義……」


芹沢が、小さく笑った。


「正義とは何ですか、真田刑事?」


芹沢が真秀を見た。


「法が守れない命は、守る価値がないのですか?」


真秀は、答えられなかった。


芹沢の言葉には、痛烈な真実があった。


「……取り調べは、これで終わります」


真秀が立ち上がった。


「また、後日」


芹沢は、黙って頷いた。


真秀は、取調室を出た。


廊下で、深く息を吐いた。

芹沢からは、何も聞き出せなかった。協力者の正体も、エイリアンの居場所も。すべてが、闇の中だった。


数日後。


榎本重工の研究所。


真秀は、花山と夢見とともに、研究所を訪れていた。


PASの装甲がどのようにエイリアンに渡ったのか、その経緯を調べるためだ。


「こちらです」


案内されたのは、地下三階の研究区画。そこで、二人の男性が待っていた。


一人は、六十代の白髪の男性。痩せた体躯に、眼鏡。学者然とした風貌。


「初めまして。榎本重工の主任研究員、大道寺と申します」


大道寺が頭を下げた。


もう一人は、三十代の小太りの男性。額に汗を浮かべ、頼りなさそうな顔つき。


「技術者の甲本です」


甲本が、ぎこちなく挨拶した。


真秀は、二人の顔を見た。


その瞬間――


何かが、引っかかった。


既視感。


この顔を、どこかで見たことがある。だが、思い出せない。


「どうかされましたか?」


大道寺が尋ねた。


「いえ……何でもありません」


真秀は、首を振った。


「PASについて、お聞きしたいのですが」


「ああ、はい」


大道寺が頷いた。


「どうぞ、こちらへ」


真秀たちは、研究室に案内された。そこには、PASの設計図や資料が並んでいる。


「PASは、榎本大輝様のために開発されました」


大道寺が説明した。


「エイリアンに襲われた後、復讐のために」


「その開発に、外部の協力者はいませんでしたか?」


真秀が尋ねた。


「外部?」


大道寺が首を傾げた。


「いえ、すべて社内の人間だけで開発しました」


「本当ですか?」


真秀が、甲本を見た。甲本は、目を逸らした。


「は、はい……社内だけです……」


その態度に、真秀は違和感を覚えた。


だが、証拠はない。


「分かりました。ご協力ありがとうございました」


真秀たちは、研究所を後にした。


警視庁本部。


真秀は、休憩室に一人で座っていた。自動販売機から買った缶コーヒーを、両手で包み込むように持っている。


だが、飲む気にはなれなかった。


芹沢の取り調べ。榎本重工の調査。すべてが、壁にぶつかっている。


協力者の正体は分からない。


エイリアンの居場所も分からない。


そして――


衛藤ミキの死。あの現場の違和感。すべてが、パズルのように繋がりそうで、繋がらない。


「くそ……」


真秀が、眉間にシワを寄せた。


その時――


「よう、真田」


声がかかった。


振り返ると、桃源が立っていた。


手には、缶コーヒーを二つ持っている。


「差し入れだ」


桃源が、一つを真秀に渡した。


「ありがとう……」


真秀が受け取る。


桃源は、真秀の隣に座った。


「難航してるみたいだな」


「ええ……」


真秀が溜息をついた。


「何も進展しないの。協力者も、エイリアンの居場所も」


「そうか……」


桃源が、缶コーヒーを開けた。


「でも、お前なら必ず見つけ出すさ」


桃源が真秀を見た。


「お前は、諦めない女だからな」


真秀は、小さく笑った。


「買いかぶりすぎよ」


「いや、事実だ」


桃源が笑った。


「ただ――」


桃源が、真秀の顔を覗き込んだ。


「そんな眉間にシワ寄せてると、誰も男近寄って来ないぞ」


真秀の表情が、一変した。


「はぁ?」


「いや、だから――」


「あんたねぇ!!」


真秀が、桃源を睨んだ。


「私が結婚できないのは眉間のシワのせいだって言いたいわけ!?大体あんたみたいな無神経な男ばっかり周りにいるから私の目が可笑しくなって普通の男じゃ物足りなくなってるのよ!!しかも眉間のシワなんて気にしてたら刑事なんてやってられないわ!!それにあんたこそ何なのよその脳筋体質!!少しは繊細さってもんを身につけなさいよこのゴリラ!!キングオブゴリラ!!ゴリラ・ザ・グレート!!」


真秀が、一気にまくし立てた。


桃源の目が、潤んでいる。


「ひ、酷いじゃないか……ゴリラは言い過ぎだろ……」


「言い過ぎじゃないわよ!あんたはゴリラよ!脳筋ゴリラ!」


真秀が、さらに畳みかけた。桃源は、半泣きになっている。


「うう……真田の暴言、いつもより三割増しだ……」


だが――


真秀の怒りは、すぐに収まった。


「……ごめん」


真秀が、小さく謝った。


「ちょっと、イライラしてたわ」


「ああ、分かってる」


桃源が、タオルで目を拭った。


「お前、疲れてるんだろ」


真秀は、頷いた。


「ありがとう、桃源」


真秀が、桃源を見た。


「励ましてくれて」


「気にするな」


桃源が笑った。


「それが、友達ってもんだろ」


真秀は、缶コーヒーを飲んだ。温かい液体が、体に染み渡る。


「そうね……」


真秀が小さく笑った。


二人は、しばらく黙って缶コーヒーを飲んでいた。休憩室の窓から、冬の陽射しが差し込んでいる。


「真田」


桃源が口を開いた。


「何?」


「お前、年末は実家に帰るんだろ?」


「ええ。久しぶりにゆっくりするつもり」


「そうか」


桃源が頷いた。


「それまでに、この事件に片をつけような」


真秀は、桃源を見た。その目には、強い決意があった。


「ええ。必ず」


真秀も、決意を新たにした。


二人は、缶コーヒーを飲み干した。


そして――


それぞれの持ち場に戻っていった。


真秀は、自分のデスクに戻った。机の上には、事件の資料が山積みになっている。


被害者の写真。


エイリアンの画像。


芹沢幸次郎の経歴。


そして――


芹沢の研究室で見つけた、古い写真。


真秀は、その写真を手に取った。


大学時代の集合写真。芹沢幸次郎と、その友人たち。


真秀は、一人ずつ顔を確認した。


芹沢。


その妻、ゆり子。


そして――


何人かの男性。


真秀の目が、一人の男性で止まった。


小太りの体格。


若い頃の顔だが――


「これは……」


真秀の目が、見開かれた。だが、その瞬間、花山が駆け込んできた。


「係長!緊急です!」


真秀が顔を上げる。


「何?」


「エイリアンの目撃情報です!今度は、渋谷で!」


真秀は、写真をデスクに置いた。


「すぐに向かうわ!」


真秀が立ち上がった。


真秀は、花山とともに駆け出した。


デスクに残された写真。


真相は、すぐそこにあった。

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