第二十三章:束の間の勝利
「巽、立て!」
桃源の声が、無線に響いた。2号機が、ゆっくりと立ち上がる。
「す、すみません……」
巽の声が、震えていた。
エイリアンは、1号機に攻撃を集中させている。連続した打撃。装甲が、軋む音。
「くそっ……」
桃源が歯を食いしばった。
その時――
「桃源係長、作戦があります!」
巽の声が、無線に響いた。
「作戦?」
「はい。エイリアンは速い。でも、俺たち二機なら――」
巽が続けた。
「挟み撃ちができます。一方が追い込み、もう一方が待ち伏せる」
桃源の目が、光った。
「なるほど……やってみるか」
「お願いします!」
1号機が、エイリアンから距離を取った。
エイリアンが、追ってくる。
「今だ、巽!」
桃源が叫んだ。
2号機が、別の角度から回り込んでいた。エイリアンが追いかける先――
まさにその場所に、2号機が待ち構えていた。
「捕まえた!」
巽の叫び。2号機の腕が、エイリアンを掴んだ。
「よし!」
桃源が、1号機を前進させる。1号機も、エイリアンを掴む。
二機で、完全に拘束した。
「今度こそ、逃がさない!」
桃源が叫んだ。
エイリアンが、暴れる。だが、二機の力には抗えない。
「ショットガン、同時発射だ!」
桃源が指示を出した。
「了解!」
巽が応える。
1号機と2号機の肩部に装着された大口径ショットガンが、展開される。二つの銃口が、エイリアンの頭部に向けられる。
「撃て!」
二人の声が、揃った。
轟音。
ドォン!ドォン!
二発の大口径散弾が、同時にエイリアンの頭部に命中した。
凄まじい衝撃。エイリアンの頭部が、大きく損壊する。装甲が割れ、内部の肉が露出する。
「動きが鈍った!今だ!」
桃源が叫んだ。
1号機の腕が、エイリアンの頭部を掴んだ。
2号機の腕が、エイリアンの胴体を掴んだ。
そして――
二機が、全力で引っ張った。
メキメキメキ。
エイリアンの首が、軋んだ。
「うおおおおおっ!」
桃源の咆哮。
「はあああああっ!」
巽の叫び。二機のp2hmの油圧シリンダーが、最大出力で作動する。
そして――
ブチィィィッ!
エイリアンの首が、引きちぎられた。
頭部が、1号機の手の中でぐったりとぶら下がる。胴体は、2号機の腕の中で力を失った。
エイリアンが――
動かなくなった。
「やった……」
桃源が、息を吐いた。
「やりました……!」
巽の声が、歓喜に震えた。
地上では――
「やったぁぁぁっ!」
夢見が飛び跳ねた。
花山も、拳を握りしめている。
「勝った……勝ったんですね……」
沖田が、深く息を吐いた。
真秀は、エイリアンの遺体を見つめていた。
本当に、終わったのか。
真秀が近づいていく。
p2hmが、エイリアンの遺体を地面に降ろした。真秀は、その遺体を観察した。PASの装甲。損壊した頭部。
そして――
「これは……」
真秀が、何かに気づいた。
遺体の顔の一部が、まだ原型を留めていた。
その顔は――
「北条隆史……?」
真秀が呟いた。
最初の被害者。
北条隆史がエイリアン化したものに、PASの装甲を装着したもの。
「ということは……」
真秀の背筋に、冷たいものが走った。
華田凛と榎本大輝がPASと融合した、本物のエイリアンは――まだ、どこかにいる。
真秀は、周囲を見回した。
だが、もう一体のエイリアンの姿はない。
「係長……」
花山が、疲れた表情で近づいてきた。
「どうしました?」
「これ、北条のエイリアンよ」
真秀が答えた。
「華田と榎本の融合体じゃない」
花山の顔が、青ざめた。
「ということは……まだ……」
「ええ。本物は、まだ生きてる」
真秀が頷いた。
p2hmから、桃源と巽が降りてきた。二人とも、疲労困憊の様子だった。
「桃源……」
真秀が声をかけた。
「ああ、分かってる」
桃源が、額の汗を拭った。
「まだ、もう一体いるんだろ」
桃源の声には、疲労が滲んでいた。
巽も、壁に寄りかかっている。
「次に戦う時は……勝てるかな……」
巽が、不安そうに呟いた。
真秀は、二人を見た。
疲労。
それが、全員の顔に刻まれていた。
この戦いで、皆限界まで力を使った。
次にもう一体――しかも最強の融合体と戦うことになったら――
真秀は、空を見上げた。灰色の雲。冷たい風が、頬を撫でた。
12月。
もうすぐ、年末だ。
その夜。
真秀は、マンションの駐車場に車を停めた。
エンジンを切り、シートに身を預ける。
疲れた。
ここ数ヶ月、休む暇もなく事件に追われてきた。
真秀は、目を閉じた。
その時――
携帯電話が鳴った。画面を見ると、「母」と表示されている。真秀は、電話に出た。
「もしもし、お母さん?」
「真秀、久しぶりね」
母の声が、優しく響いた。
「元気にしてる?」
「うん、まあ……」
真秀は、曖昧に答えた。
「仕事、忙しいの?」
「ちょっとね」
「そう……」
母が、少し心配そうな声で言った。
「ねえ、真秀。今年の年末年始、実家に帰ってこない?」
真秀は、少し考えた。
年末年始。
正月。
ここ数年、仕事で帰省できていなかった。
「お父さんも、真秀に会いたがってるのよ」
母が続けた。
「たまには、ゆっくり休みなさい。無理しすぎちゃダメよ」
母の優しい声。
真秀の目から、涙が溢れそうになった。
疲れていたのだ。
ずっと、張り詰めていた。
「……うん。帰る」
真秀が答えた。
「今年は、実家でゆっくりするわ」
「本当?よかった!」
母の声が、明るくなった。
「お父さんに伝えておくわね。楽しみに待ってるから」
「うん。ありがとう、お母さん」
「じゃあね、真秀。気をつけてね」
「うん。またね」
電話を切った。
真秀は、携帯を握りしめた。
そして――
小さく笑った。
実家。
温かい家族。
美味しい母の料理。
父との他愛もない会話。
そんな、当たり前の日常。
それが、今の真秀には何よりも必要だった。
「たまには……ゆっくりするのも、いいわね」
真秀が呟いた。車を降り、マンションに向かう。冷たい風が、真秀の髪を揺らした。空には、星が瞬いている。
12月の夜空。
もうすぐ、新しい年が来る。
そして――
この事件も、きっと終わる。真秀は、そう信じていた。
だが、真秀の知らないところで、新たな陰謀が動き始めていた。




