第二十二章:鋼鉄の兄弟
警視庁本部、地下格納庫。巨大な空間に、二体のp2hmが並んでいた。
1号機。桃源信之が操縦する機体。すでに幾度もの実戦を経験し、装甲には傷が刻まれている。
そして――
2号機。
1号機と同じ設計だが、新造されたばかりで、装甲は傷一つない。
真秀は、2号機の前に立っていた。
「これが、2号機……」
真秀が呟いた。
その横に、一人の男性が立っていた。
二十代後半。引き締まった体格に、短く刈り上げた黒髪。精悍な顔立ちで、目には強い意志が宿っている。
「真田係長、初めまして」
男性が敬礼した。
「機動隊特殊制圧班、巽陸と申します」
「巽……」
真秀が、その名を繰り返した。
「2号機のパイロットですね」
「はい」
巽が頷いた。
「桃源係長の下で訓練を受けてきました。実戦経験はありませんが、必ずお役に立ちます」
その目には、自信があった。だが同時に、僅かな緊張も見て取れた。
「頼りにしてるわ」
真秀が、巽の肩を叩いた。
「桃源はどこ?」
「1号機の整備をしています」
巽が、奥の方を指差した。
真秀は、1号機の方に向かった。1号機の脚部で、桃源が作業着姿で整備を行っていた。
「桃源」
真秀が声をかけると、桃源が顔を上げた。
「おう、真田」
桃源がタオルで汗を拭いた。
「2号機、見たか?」
「ええ。巽さんにも会ったわ」
真秀が頷いた。
「あいつ、真面目で優秀だぞ」
桃源が笑った。
「俺みたいな脳筋とは違って、頭も切れる」
「あら、自覚はあったのね」
真秀が皮肉を言った。桃源の目が、潤んだ。
「ひ、酷いじゃないか……」
「冗談よ」
真秀が小さく笑った。だが、すぐに表情を引き締めた。
「桃源、芹沢は逮捕した。でも――」
「エイリアンは、まだいるんだろ」
桃源が真秀の言葉を継いだ。
「ああ。あの化け物を倒さないと、事件は終わらない」
桃源が、1号機を見上げた。
「次に戦う時は、2号機と連携する。二機で挟み撃ちにすれば、あの化け物でも倒せる」
桃源の目に、決意が宿っていた。
「必ず、倒してやる」
真秀は、桃源を見た。
その背中には、強い覚悟があった。
「ところで」
真秀が話題を変えた。
「衛藤ミキの遺体、鑑定結果が出たわ」
「ミキ?ああ、ビーストの最後のメンバーだったな」
桃源が振り返った。
「やっぱり、本人だったのか?」
「……DNA鑑定では、衛藤ミキで間違いないそうよ」
真秀が資料を見た。
「でも、何か引っかかるのよね」
「引っかかる?」
「ええ。現場の状況が、これまでの事件と少し違う気がして」
真秀が眉をひそめた。
「でも、証拠は全部ミキを示してる。私の考えすぎかもしれないけど」
桃源は、真秀の横顔を見た。この女は、いつも鋭い。些細な違和感を見逃さない。
「真田の勘は、いつも当たるからな」
桃源が言った。
「気になるなら、もう一度調べてみろよ」
「そうね……」
真秀が頷いた。
その時――
格納庫の扉が開いた。
花山と夢見が入ってきた。
「係長!」
花山が駆け寄ってきた。
「エイリアンの目撃情報です!」
真秀の表情が、一変した。
「どこ?」
「新宿区です」
夢見が資料を見せた。
「廃ビルの周辺で、異形の生物を見たという通報が複数入っています」
真秀は、資料を見た。
場所は、繁華街から少し外れた場所。人通りは少ないが、完全な無人地帯ではない。
「すぐに向かう」
真秀が決断した。
「桃源、巽さん、p2hm二機で出動できる?」
「ああ、いつでも」
桃源が頷いた。
巽も、2号機の方から駆け寄ってきた。
「準備完了しています!」
真秀は、全員を見渡した。
「これが、最後の戦いになるわ」
真秀の声が、格納庫に響いた。
「エイリアンを倒す。そして、この事件に終止符を打つ」
全員が、頷いた。桃源と巽は、それぞれのp2hmに乗り込んだ。真秀、花山、夢見は、車に向かった。
格納庫の扉が、大きく開いた。
外には、曇り空が広がっている。雨が、降り始めていた。
p2hm二機が、重い足音を響かせながら格納庫から出ていく。
真秀たちの車も、後に続いた。
最後の戦いが、始まろうとしていた。
新宿区。
廃ビルの周辺。
真秀たちは、現場に到着していた。
すでに規制線が張られ、制服警官たちが野次馬を遠ざけている。
「沖さん」
真秀が、現場を仕切る沖田に声をかけた。
「おう、嬢ちゃん」
沖田が振り返った。
「エイリアンは?」
「あの廃ビルの中にいるらしい」
沖田が、五階建ての古いビルを指差した。
「目撃者の証言では、数時間前にあのビルに入っていったそうだ」
真秀は、ビルを見上げた。
窓ガラスは割れ、外壁は崩れかけている。
「中に、人はいないわね?」
「ああ。もう何年も使われてない廃ビルだ」
沖田が答えた。
その時――
地響きが聞こえた。
ドン、ドン、ドン。
重い足音。
p2hm二機が、現場に到着した。
1号機と2号機。二体の巨大ロボットが、廃ビルの前に立つ。
「真田、準備完了だ」
桃源の声が、無線から聞こえた。
「巽も準備完了です」
巽の声も続いた。
真秀は、無線機を手に取った。
「二人とも、慎重に。エイリアンは、予想以上に強い」
「了解」
二人の声が、揃った。
p2hmが、廃ビルに向かって歩き始めた。1号機が先行し、2号機が後方から援護する。連携した動き。
桃源の1号機が、ビルの入口の壁を破壊した。
コンクリートが、崩れ落ちる。
二機が、ビルの中に入っていく。
真秀は、固唾を呑んで見守った。
無線からは、二人の呼吸音だけが聞こえる。
「一階、異常なし」
桃源の声。
「二階も、異常なし」
巽の声。
p2hmは、慎重に階段を登っていく。
「三階――」
桃源の声が、途切れた。
「桃源?」
真秀が無線に呼びかける。
数秒の沈黙。
そして――
「いた!」
桃源の叫び。
同時に――
エイリアンの咆哮が、無線越しに響いた。
「ギャアアアアアアアアッ!」
戦闘が、始まった。
廃ビルが、激しく揺れる。p2hmとエイリアンの戦いが、建物を破壊していく。
真秀は、拳を握りしめた。
「頑張って……」
真秀が呟いた。
花山と夢見も、固唾を呑んで見守っている。
廃ビルの三階から、何かが飛び出してきた。エイリアンだ。PASの装甲を纏った、異形の怪物。
そして――
その後を追って、p2hm二機が飛び出してきた。
桃源の1号機が、エイリアンに向かって拳を振るう。
エイリアンが、素早く回避する。
だが――
そこに、巽の2号機が回り込んでいた。
「今だ!」
巽の叫び。
2号機の腕が、エイリアンの背後から掴みかかる。エイリアンが、拘束される。
「よし!」
桃源が、1号機を前進させた。
そして――
全力で、拳を振るった。
ゴオォン!凄まじい衝撃。エイリアンの体が、吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「やった!」
夢見が歓声を上げた。
だが――
エイリアンは、すぐに立ち上がった。
傷ついた部分が、みるみる再生していく。
「くそっ、やっぱり再生するのか!」
桃源が悪態をついた。
エイリアンが、再び攻撃を仕掛けてくる。その速度は、凄まじい。
1号機と2号機が、それぞれ応戦する。
だが――
エイリアンの動きは、二機を翻弄する。時に1号機を攻撃し、時に2号機を攻撃する。連携を崩そうとしている。
「巽、俺に合わせろ!」
桃源が叫んだ。
「了解!」
巽が応える。
二機のp2hmが、同時にエイリアンに向かった。左右から挟み撃ちにする。エイリアンが、身を翻す。
だが――
1号機の腕が、エイリアンの右腕を掴んだ。
同時に、2号機の腕が、エイリアンの左腕を掴んだ。
「今度こそ、逃がさない!」
桃源が叫んだ。
二機のp2hmが、全力でエイリアンの腕を引っ張る。エイリアンが、暴れる。だが、二機の力には抗えない。
メキメキメキ。
エイリアンの腕が、軋んだ。
そして――
ブチィッ!
両腕が、引きちぎられた。血が、飛び散る。
エイリアンが、叫び声を上げた。
だが――
「まだだ!頭を狙え!」
桃源が叫んだ。
1号機が、エイリアンの頭部を掴もうとする。
だが――
その瞬間。エイリアンの両腕が、再生し始めた。
そして――
再生した腕が、1号機の腕を掴み返した。
「くそっ!」
桃源が驚いた。
エイリアンの力が、凄まじい。1号機の腕が、押し返される。
「桃源係長!」
巽が、2号機を前進させた。
だが――
エイリアンが、2号機を蹴り飛ばした。2号機が、バランスを崩す。
「うわっ!」
巽の悲鳴。2号機が、倒れた。
エイリアンが、1号機に全力で攻撃を仕掛ける。
連続した打撃。1号機の装甲が、歪む。
「くそっ、このままじゃ……!」
桃源が歯を食いしばった。
真秀は、その光景を見ていた。二機でも、勝てない。
エイリアンは、あまりにも強すぎる。
「このままじゃ……」
真秀が呟いた。
その時――
真秀の携帯が鳴った。
「真田です」
「係長、弓山です!」
弓山の声が聞こえた。
「衛藤ミキの遺体、DNA鑑定の結果が出ました!」
「それで?」
「衛藤ミキ本人で間違いありません。完全に一致しました」
真秀は、僅かに眉をひそめた。
「そう……分かったわ」
電話を切る。やはり、衛藤ミキは死んだのだ。DNA鑑定で確定した。
これで、ビーストのメンバーは全員――
だが。
真秀の胸の違和感は、消えなかった。
何かが、おかしい。
現場の状況。
あの惨殺の仕方。
そして――
芹沢の協力者、あの男性の存在。
すべてが、パズルのピースのように繋がりそうで、繋がらない。
真秀は、戦闘を見た。今は、それを考えている場合ではない。p2hmが、押されている。
このままでは――
真秀の拳が、握られた。まだ、事件は終わっていない。
真相は、まだ隠されている。
そして――
最後の敵は、まだ姿を現していない。真秀はそう思えてならなかった。




