第十九章:墓標への道
翌日。警視庁本部、三階。捜査本部が置かれている会議室。
長いテーブルに、真秀たちが座っていた。
真田真秀、花山七之助、夢見桜花、弓山美怜。
そして――
桃源信之も、椅子に座っていた。
機動隊からの参加だ。
会議室の壁には、ホワイトボードが設置されている。そこには、事件の概要が書かれていた。
被害者の名前。
北条隆史、森田健太、榊原真、華田凛、榎本大輝。
そして、エイリアンの写真。
防犯カメラから抽出された、不鮮明な画像。
真秀は、立ち上がった。
「昨夜の突入について、検証します」
真秀が、ホワイトボードを指差した。
「芹沢幸次郎の研究施設を発見しましたが、本人は逃走。そして――」
真秀が、続けた。
「新たなエイリアンが出現。PASと融合した、最強の個体です」
会議室に、重い空気が流れた。
「係長」
花山が手を挙げた。
「このエイリアン、これまでのものとは明らかに格が違います。機動力、パワー、装甲。すべてが強化されています」
「ええ」
真秀が頷いた。
「桃源のp2hmでも、苦戦した」
桃源が、腕を組んだ。
「正直に言うと、次に戦ったら負けるかもしれない」
桃源の言葉に、全員が息を呑んだ。
「桃源さんが、そんなこと言うなんて……」
夢見が呟いた。
「それだけ、強いってことよ」
真秀が言った。
「だが」
桃源が、前を向いた。
「諦めたわけじゃない」
桃源が続けた。
「p2hmの2号機が、間もなくロールアウトする。俺の部下が搭乗する予定だ」
「2号機?」
弓山が目を輝かせた。
「はい。1号機と同じ性能です。二機で連携すれば、あのエイリアンにも対抗できる」
桃源の目に、決意が宿っていた。
「必ず、倒す。あの化け物を」
真秀は、桃源を見た。その目には、強い意志があった。
「ありがとう。頼りにしてるわ」
真秀が微笑んだ。
「おう」
桃源が頷いた。
「ところで」
真秀が、話題を変えた。
「芹沢幸次郎の所在だけど、まだ掴めていない。花山、周辺への聞き込みは?」
「はい」
花山が資料を開いた。
「芹沢の元同僚や知人に話を聞きました。皆、口を揃えて言うのは――」
花山が続けた。
「芹沢は、妻子をとても愛していた、ということです」
「愛していた……」
真秀が繰り返した。
「ええ。妻のゆり子さん、息子の優太くん。二人のことを、いつも話していたそうです」
花山が資料を閉じた。
「事故の後、芹沢は人が変わったように無口になったそうです。でも、時々、二人の写真を見つめていたと」
会議室に、静寂が落ちた。弓山が、手を挙げた。
「あの、係長」
「何?」
「そんなに好きなら、今ごろ墓参りしてるんじゃないですか?」
弓山の言葉に、全員が顔を上げた。
「墓参り……」
真秀が呟いた。
「そういえば」
夢見が思い出したように言った。
「聞き込みで聞いたんですけど、芹沢さんの妻子のお墓、妻の出身地に建てられてるそうです」
「出身地?」
「ええ。海がよく見える、田舎の町だって」
夢見が続けた。
「ゆり子さんが、生前好きだった場所だそうです」
真秀は、立ち上がった。
「弓山、その町の場所、特定できる?」
「はい!すぐに調べます」
弓山が、ノートパソコンを開いた。キーボードを叩く音が、会議室に響く。
数分後――
「ありました!」
弓山が画面を見せた。
「静岡県の小さな町です。海沿いの、人口三千人ほどの場所です」
真秀は、地図を見た。
東京から、車で三時間ほど。
「芹沢は、そこにいるかもしれない」
真秀が言った。
「墓前に、今回の復讐を報告している可能性がある」
花山が頷いた。
「確かに。妻子を愛していたなら、報告したいはずです」
「行くわ」
真秀が決断した。
「花山、夢見、準備して。今日中に出発する」
「了解です!」
二人が立ち上がった。
桃源も、立ち上がった。
「真田、俺も行く」
「でも、桃源はp2hmの――」
「2号機のロールアウトは、明日だ。それまでは時間がある」
桃源が真秀を見た。
「お前を、一人で危険な目に遭わせるわけにはいかない」
真秀は、桃源を見た。
そして――
「……ありがとう」
真秀が微笑んだ。
「じゃあ、一緒に行きましょう」
「おう」
桃源が頷いた。
弓山が手を挙げた。
「私も行きます!」
「弓山は、ここで情報収集を」
真秀が言った。
「もしエイリアンが現れたら、すぐに連絡して」
「分かりました……」
弓山が、残念そうに座った。
真秀は、窓の外を見た。
青い空。
穏やかな日差し。
だが、この平和は、もう長くは続かない。
芹沢幸次郎を捕まえなければ。
そして、エイリアンを止めなければ。
「行くわよ。準備して」
真秀が、全員を見渡した。
「これが、最後のチャンスかもしれない」
全員が、頷いた。真秀たちは、出発の準備を始めた。
だが――
ここ数日の緊張と疲労が、全員の体を蝕んでいた。
「係長、少し休憩しませんか」
花山が、疲れた表情で言った。
「そうね……」
真秀も、椅子に座り直した。夢見は、デスクに突っ伏している。桃源も、壁に寄りかかって目を閉じていた。
弓山が、自動販売機から缶コーヒーを買ってきた。
「皆さん、どうぞ」
弓山が、全員にコーヒーを配る。
「ありがとう……」
真秀が、缶を受け取った。
会議室に、静寂が落ちた。緊張の糸が、一時的に緩む。
真秀は、缶コーヒーを飲みながら、窓の外を見た。
もうすぐ、最後の戦いが始まる。芹沢幸次郎との、決着の時が。
真秀は、深く息を吐いた。
そして、束の間の休息を取った。
戦いの前の、静寂だった。




