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35話 鬼の章其の拾弐

35話です。

よろしくお願いします。


「休ませて頂きありがとうございました。」


「いや。そちらのお兄さんはもう大丈夫かね?」


「っス。お世話になりました。お陰様で大分調子が戻りました。」


 横になって休んだお陰なのか、海堂くんの調子が戻ったようだった。

 それを確認した白木さんも安心したかのような笑みを浮かべた。


「そう言えば、君たちはこれからどうするつもりかな?この村から出るバスはもうない頃だと思うが…?」


「お気遣いありがとうございます。私たちは今晩民宿を取ってあるので大丈夫です。」


「そうか。都会と比べると何にもない所だが、伝承や歴史だけは一丁前にある場所だ。また分からないことがあれば遠慮なく聞いてくれ。」


 そう言って白木さんは私達を見送った。


 神社を出て辺りを見渡すと、夕陽が青々としていた山々を紅く染めていた。

 現在地の木伏神社から、今夜泊まる予定の宿まで少し歩くが、最初に見た青空と生命力に満ちていた草花たちが織りなす爽やかな風景から、どこかもの寂しげな紅く染まった夕方の光景を眺めながら歩くのも悪くないと思った。

 

「悪いな。俺のせいで…。本当なら今日中にじいちゃんの家に行くはずだったのに。」


「いや。気にしなくてもいい。先程の神社で聞いた情報をまとめたいから丁度いい。」


「なんか、分かった事でもあったんですか?」


「断定もできない。関係性の有無も分からない。でも、何かの手掛かりになるかもしれない。」


 そう言う久我さんの横顔は何か深く思案するようなそんな雰囲気だった。


「ところで、海堂くんはあの神社に行った事なかったの?」


「ん?あぁ。まだちびの時だったから、じいちゃんの家の外にはあんまり出なかったな。出ても近所のおばちゃん家や裏山くらいだったな。神社があるのは知っていたけど、こうして行くのは初めてだったぜ?」


「それは、当時の海堂くんのお爺さんとお婆さんから聞いていたのかな?」


「いえ。神社の存在は母ちゃんから聞いたんです。じいちゃんもばあちゃんも神社のことは何にも言っていなかったし、ガキの俺自身も興味なかったもんで。」


「そうか…。」


 海堂くんの話を聞き、また考え込む久我さん。

 

 そうした話をしながら私達はしばらく歩くと、目的の民宿に到着した。

 

 木伏神社がこの村の入り口にあり、今夜泊まる宿は反対側に位置していた。

 ちなみに今回の目的地の海堂くんのかつての祖父母宅は、神社と宿の中間地点くらいの場所にあるらしい。


 私達が泊まる宿の周囲には、他にも何軒か宿泊施設が並んでいた。観光客向けに飲食店や、土産物屋がありどれも鬼や鬼退治を連想する物が置かれていた。


 そんな周りの店と比べると、今夜泊まる宿は昔ながらの木造の日本家屋だった。外観からでもわかるくらいに広く大きく立派な宿だった。


「久我さん。私、民宿だって聞いていたんですけど、これって規模が旅館ですよね?」


「?(たみ)の宿と書いて民宿なのだろう?似たようなもんじゃないのか?」


「多分ですけど、全然違います。何ですかその貴族的発想は。」


 忘れていた。この人、久我製薬という大手製薬会社のボンボンだった。

 全てにおいて、庶民と感覚が違うのだ。


「ところで。ここの支払いどうなってんだ…?俺、手持ちそんなにねぇぞ?」


「心配するな。これも経費で落ちる。」

 そう言って自慢げにクレジットカードを掲げる久我さん。


「経費って言っても、うち、個人経営の事務所ですよね?つまり、明さんに請求が…。」


 この事務所、久我さんと明さんの超身内での事務所だから経理がいないんだ…。

 今から経理と言わずとも、金銭管理についての勉強をしとこうかな…。


 そうこうしているうちに何の躊躇なく、慣れた様子で民宿もとい、旅館に入って行く久我さん。


 ガラガラと引き戸を開けると、こちらに気づいた着物を着た女性が笑顔で近寄り、正座し、三つ指をついて出迎えてくれた。

「ようこそおいで下さいました。お名前をお伺い出来ますか?」


「3名で予約していた久我です。」


「ありがとうございます。本日3名様で予約の久我様ですね。それではお荷物をどうぞ。」


 そういうと、奥から角刈りの体格のいい男性従業員が出てきて三人分の荷物を軽々と運び出した。


「お部屋の方にご案内いたします。」


 そう言って、私達は部屋へ通された。


 旅館のロビー部分は絨毯で覆われており、そこから客室までの廊下はピカピカに磨かれた板張りの床だった。

 館内の装飾も季節の花が所々に生けてあったり、大きな風景画がロビーや廊下に飾られていた。


 あまりにも格式高い雰囲気に、一般の女子高生の私は気後れしてしまった。辺りを見まわしたあと他の二人の様子を見た。

 久我さんは当然のような顔で男性従業員の後をついて行くが、海堂くんも何か落ち着かない様子で辺りをキョロキョロしていた。


「お部屋がこちらになります。女性のお客様はお隣のこちらになります。」


「え!?私だけ個室ですか…!?」


「当たり前だろう。女性が伴侶でもない男二人と共に寝起きするのは不自然だろう。」


「そ、それもそうですが…。」


「支払いは気にしなくてもいい。経費で落ちる。それに何かあればすぐ隣だ。安心してくれ。」


 そう言って、久我さんと海堂くんは客室に入っていった。


「う〜ん。何か申し訳なさがあるけど、仕方がないか。」


 こんな立派な旅館の客室を独り占めするのはあまりにも贅沢だが、せっかく…と思い私も自分の部屋に入った。

 一人部屋という割には広く、内装も落ち着きのある和室だった。部屋の隅には、小型の冷蔵庫、電子ケトルにお茶とお茶菓子があった。テレビも付いており寝起きするだけの部屋にしては十分すぎる部屋だった。

 さらに部屋の奥のガラス張りの引き戸からは旅館の庭園もよく見えた。


「うわぁ…。すっご…。家族旅行でもこんないい部屋泊まったことなんてないや。」

 というか、家族旅行なんて最後に行ったのがいつか思い出せない程、私が幼かった頃の話だ。

 あの頃は兄も学生で予定を合わせやすくて、父と母と兄、私の家族四人で遠出をした事も確かにあった。


「(あの時はただ家族みんなと一緒にいられたことが楽しかったなぁ…。)」


 その時から兄と私の扱いの差はあったが、今程ではなかった。

 幼い私はただ、家族みんなで出掛けて、同じ時間を共有する事が嬉しかったんだ。


 霊が見えて他の子と違う私が、他の子と同じように家族が居て、笑ったり泣いたりできる。みんなと同じ人間なんだと。


 でも、それも長くは続かなかった。

 私が七歳くらいの頃から家族間での不和が目立った。父親の会社の事業縮小。母親の度重なる浪費癖と精神的不安定による暴力。兄の素行不良。

 一つ一つ見れば、どこの家族にもありそうな問題だったかもしれない。それがほぼ同時期に起きたのだった。


 


 それだけじゃない。私自身も何かあったような気がした。



 

「っ!!いった…!!」


 そう自身に起きたことを思い出そうとすると、ズキンと頭に鋭い痛みが走った。

 私は思わずその場にしゃがみ込んだ。


 ズキンッ…ズキンッ…。


 自分の脈と同じタイミングで頭に痛みが走る。

 たまに気圧の変化で偏頭痛が起きるが、その頭痛とは何か違った。


「何だろう…。」


 その瞬間何か脳裏に過った。


 夜空に浮かぶ満月。私を囲むようにして吊るし下げられたいくつもの紙垂。そして寒さと痛み。



「…っはっ…!!」


 自分の意識が戻ったのが分かった。


「何…あれ…。」


 これまで人の過去をいろんな形で見てきた私だが、そのどれもが「人の記憶」という感覚があった。

 しかし、さっきのは見覚えのない光景なのに『誰かの記憶』ではなく『自分の記憶』というのがはっきり分かった。


 そう考えてるうちに頭痛も消えて、倦怠感が残っていた。


「…また、久我さんに相談してみよう…。」


 不可解な頭痛と記憶。

 きっと私の能力に関係するものなのだろう。


 とりあえず、外の暑さによる汗と、ここまでの移動の疲れを取りに行こう。

 私は気持ちを切り替えて、旅館の温泉に浸かりに行くことにした。



 

35話読了ありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。


また、いいねやブクマもよろしくお願いします。

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