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33話鬼の章 其の拾

大変お待たせしました。

前回の続きです。


 明さんに言われるがまま久我さん、海堂くん、私は、隣県の海堂くんの祖父母の家に向かった。

 今の海堂くんの家は亡き両親と幼少の頃から住んでいる家に、祖父母が引っ越してきたとの事。今から向かうのはその祖父母が引き払った家の方だ。


 新幹線から、私鉄やバス乗り継いでおおよそ数時間。私達三人はタクシーで目的地に向かった。

 目的地に向かうにつれて周囲の民家の数が減っていき、山の色が濃くなっていった。

 道路も道は狭く、車同士がすれ違うのにギリギリな道幅。その周りには山の斜面に沿って、光を通しづらい背の高い木々がひしめき合っていた。


「結構山奥に入って来たね。」

 後部座席の車窓から見える景色をぼんやりと眺めて私は言った。

 

「まぁな。親が死ぬ前に一回か二回くらい来た事あるんだけどよ、その頃もこの道を通ったんだけどよ、何故か怖いと思ったんだ。」

 私の隣に座る海堂くんは、路肩に広がる暗い森を見つめて何かを思い出すかのようにそう言った。


「山は古代から神聖視をされる事が多い。この山も例外じゃないんだろう。」

 久我さんはタクシーの助手席で、スマホを片手にそう言った。後部座席から見るとどやらこの辺の地図を見ていたようだ。


「お兄さん物知りだね〜。この辺の山も大昔、鬼が住んでいたって話があるんだよって、おじさんのおじいさんから聞いたことあるんだよ〜。」

 そう言ったのは、私たちが乗っているタクシーの運転手のおじさんだった。


「…運転手さん。その話を詳しく。」


 運転手さんの一言を聞いて久我さんの様子が変わった。


「いいよ〜。って言ってもおじさんが子供の頃に聞いた話だからうろ覚えだけど、大昔、この辺の山に悪さをする鬼が住んでいて、この辺の村の人たちは困り果てていたらしい。その時に偶然村に立ち寄った若い侍がいたんだとさ。侍は年若いながらも腕が立つらしく、その話を聞いた村長はその侍に助けを求めた。侍も困っている村の人達を放って置けずに鬼退治を引き受け、見事鬼を退治したって御伽話だよ。あ、丁度ほら。」


 そう言って走らせていたタクシーを止めて運転手は外を指を刺した。

 そこには先程までの鬱蒼とした森の景色が一変して、燦々とした太陽に照らされ、遠目から見るとまるで芝生のような青々とした田園風景が広がっていた。そよ風がまだ青い稲の苗を揺らしているのどかな田園の中にまるで、お茶碗をひっくり返したかのような丸く小ぶりな山あった。その麓のが朱色の鳥居がぽつんと建っていた。

 

 「あの鳥居が見えるかい?あの鳥居の先にはは鬼退治を成し遂げたお侍さんを祀った神社があるんだよ。」


 古くなった鳥居の上部中央には「木伏神社」と神社の名前を掲げていた。


「キフク…?」

「そう。木伏神社。元々の『木』は『鬼』の字だったんだけど、ここらは林業が盛んだったから、時代を経て『木』の字になったんだよ。」


「…。」

「すみません。ここら辺で大丈夫です。」

「お?そうかい?ならお代は…。」


 タクシー代を支払う久我さんを横目に、先にタクシーを降り何かを思うように神社を見つめる海堂くん。


「海堂くん…?」

「…いや…。久我さん達は、俺にあるのは鬼の加護って言ってくれたけど、さっきのタクシーのおっさんの話を聞いてさ、本当は退治された鬼の怨念が…。」

「それはない。」


 海堂くんの言葉を遮ったのは久我さんだった。


「なんでそう言い切れるんですか?」

「霊力のない俺ならまだしも、霊力を通して見たおじさんが俺と同じことを言ってるんだ。君に宿るのが呪いではなく、加護なのはほぼ間違いないだろう。問題は()()()()()()()()()()()()()()という事なんだ。」


「じゃぁ、その何かを調べる為に…。」


「あぁ。少しでも手掛かりが欲しい。鬼にまつわる伝説があるあの神社を調べてみよう。」


 久我さんのその一言で私達三人は木伏神社へと向かった。


 木伏神社の鳥居は、管理が悪いのかところどころ塗装が剥げていた。その鳥居をくぐった先には、石畳や玉砂利などなく、ただ人が歩くのに不便しない程度の平にならされた参道があり、その先には本殿が小さく見えた。周りの山々と比べるとこの神社の山はかなり小ぶりに見えていたが、人が本殿まで歩くとなると軽いハイキングをするような山だった。

 本殿までの参道は緩やかな坂道となって伸びていた。


 今の季節は初夏。天気も良く、周りが青々とした木々で囲まれており、緩やかな坂道となっている参道には木陰ができていた。そこに時折吹くそよ風が歩いて汗ばんだ体には心地よかった。


「なんか、妙に心地良いですね。」


「そう思うのは、君がこの神社の神様に歓迎されている証拠だよ。まぁ、君の場合なら大抵の神社に歓迎されるだろうさ。」


「そう…なんですか?」

 理由は何となく分かった。私が神様のお気に入り。神嫁だからだろう。


「あぁ。鳥居を潜ってから君の顔つきが生き生きとしてる気がする。…それに対して…。」


 そう言って立ち止まり久我さんは後ろを振り替えて私の方を見た。否、私の後ろの方を見ていた。

 私も久我さんに釣られて振り返ると、そこには顔色悪く、息を切らしている海堂くんがいた。


「…っふ…はぁ…。」

「海堂くん!?大丈夫!?」


 体調の悪そうな海堂くんの様子を見に、彼に近づき肩に軽く触れた。

 その瞬間。私の視界がふっと暗くなり、何かの映像が視界に広がった。


 それは、先程まで私たちが歩いていた参道だったが、夜の闇に包めれており、暗闇の中に列をなして燃える火が煌々とあたりを照らしていた。その中に微かに見える多くの人々。まるで祭りのような光景に見えたが、楽しげな雰囲気はなく、何か物々しく、仰々しい雰囲気だった。

 そして、私が触れたはずの海堂くんが違っていた。

 今の体調が悪そうに頭を下に項垂れているその様子は、先程見たままの姿だが、服はボロボロの着物に体のあちこちを怪我しており、よく見ると身動きが取れないように縄で縛られていた。

 そして、真っ先に視線がそれを捉えて離さなかった。


 額のあたりから天に向かってまっすぐに、鋭く伸びるモノ。

 常人なら絶対にないモノ。鬼の角。



「雪平さん!」


 鋭い声で名前を呼ばれて私は意識を戻した。


「えっ…。あっ…。」

「おい、俺よりアンタの方が大丈夫かよ?」


 私より体調が悪そうな海堂くんに心配されてしまった。


「…うん。突然ごめんね…大丈夫だよ。」


「雪平さん。何か見えたのか?」


 久我さんの問いに私は直ぐには答えられなかった。

 先程の映像見てまだ頭が混乱しているんだろう。


「はい。でも、まだ混乱してるみたいなので、頭の中整理してから話しますね。」

「そうか…。」


 私の答えに短く返事をして、再び本殿へ歩みを進めた。


 参道を登りきった私たちは本殿にたどり着いた。


 本殿は大きさは小ぶりながらも、細部の彫刻までしっかりと作り込まれており、建物としての作りはしっかりしているように見えた。

 入り口の鳥居と比べると細かいとこまで人の手が入っているのがわかった。


「まずは、手水で清めてから参拝しよう。調査はそれからだ。」


 私と海堂くんは久我さんに従い、手水で清めて、一礼二拍手し本殿に手を合わせ参拝した。


「(海堂くんの依頼が無事完遂しますように。そしてみんなで無事帰れますように。)」


 私は今回の依頼と調査の安全を祈願した。


 祈願した後、本殿に一礼して隣にいる海堂くんを横目に見た。

 本殿の前に手を合わせる彼は、眉間に皺よ寄せて微かに脂汗をかいていた。


「海堂くん…??」


「…!…あぁ。大丈夫だ…。」


 私が『大丈夫』かと尋ねる前に、海堂くんはそう答えて本殿に一礼し、そそくさとその場から少し離れた。


「彼、大分辛そうだね。」

「久我さんから見てもそう思いますか?」

「あぁ。ここでの調査はなるべく手早く済ませよう。」


 久我さんはそう言って、敷地内にある立て看板や、先程使った手水や、本殿の柱や、本殿から少し離れた神楽殿もくまなく見て回った。


「…っ。」

「海堂くん、少し座って休もうか。顔色ひどいよ?」


「…あぁ。そうだな…ワリィな。」


 海堂くんは申し訳なさそにそう一言言って、その場に座り込んだ。

 辛そうにしている海堂くんを見て私は、せめて何か冷たいもがあれば…とあたりを見回す。すると。


「おやおや。大丈夫かい?」


 そこには白い着物に浅葱色の袴といった格好のお爺さんがいた。


「もし良かったら、直ぐそこに社務所があるから来なさい。」


 そう言って指差した先に小さい平屋の建物があった。


「ありがとうございます。海堂くん立てれる?」

「…あぁ。」


 そう弱々しく答えながら、両手を膝につきながら、海堂くんはゆっくり立ち上がった。


「どうしたんだい?」


 そこに周辺を探索していた久我さんが戻ってきた。


「海堂くんの体調が悪化してしまったので、今から社務所で休ませて貰うところです。」

「成程。海堂くん、肩を貸すよ。」


 事情を聞いた久我さんは、素早く海堂くんに駆け寄り、彼を支えて社務所に向かった。



 先程のお爺さんはこの神社の神主さんで、社務所に通された私たちは冷房の効いた和室に通された。


「ほれ、ここで横になってなさい。」


 そう言って、神主さんは和室の隅に積まれていた数枚座布団を渡してきた。

 それらを繋げて、簡易的な敷布団を作り、海堂くんを横たわらせた。


「冷たい麦茶がある。お二人もどうかね?」


「ありがとうございます。いただきます。」


「はいはい。なら、少し待ていなさい。」


 そう言って、神主は部屋から出ていき、数分後に四人分のコップと大きなペットボトル麦茶をお盆に乗せて戻ってきた。


「はい。どうぞ。」

「ありがとうございます。」

「いただきます。」


 出された麦茶はひんやり冷えていて、先程まで外で熱っていた体を優しく冷ましていった。


「そちらの方は大丈夫かね?」


 そう言って、部屋の隅で横になっている海堂くんを見た。


「はい。連れを助けていただきありがとうございます。」


 そう言って、久我さんは正座の状態で深々と頭を下げた。私もそれを見て正座に座り直して頭を下げた。


「良いんだよ。困った時はお互い様だからね。」


 人の良さそうな柔らかな笑みを浮かべ神主さんも麦茶を飲んだ。


「ここまで、お世話になった上で、大変図々しのは承知の上のお願いなのですが、こちらの神社についてお尋ねしたいのですが、よろしいでしょうか?」


 久我さんは頭を下げた状態で、神主に尋ねた。


「うちの神社についてかい?あぁ。勿論良いとも。」


「ありがとうございます。」


 そう言い、久我さんは頭を上げた。


「さて…何から話そうか…?」


「実は、ここに来る途中まで乗っていたタクシーの運転手から、ここの神社には鬼にまつわる話があると聞いて、興味が湧きまして。」


「あぁ!その話か。勿論良いとも。少し長くなるから、楽な姿勢になりなさい。」


 そう言われ、私達は正座を崩し、神主からの話を聞くことにした。

鬼の章 其の拾読了ありがとうございました。


更新が遅くなり申し訳ありません。

またしばらく更新が遅くなりますが、少しずつ進めていこうと思いますのでよろしくお願いします。


また、いいねやブックマークの方もよろしくお願いします。今後の創作の糧にさせていただきます。

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