第四十五話
気が付いたら真っ白な空間の中に居た。
「……?」
あれ? 私は今さっき虎子がやられちゃったから《怠惰の極み》を発動させて、虎子を救出してそのまま逃げてたら偶然ギルドメンバーを見つけて、喜び勇んでワームに攻撃しながら着地した筈じゃなかったっけ?
辺りを見渡すと、ギルドメンバーのみんなと、虎子とルリ、アヤ。
七人が、等間隔で間を空けて円になって並んでいた。
「ナニコレ、どうなってんの?」
「やっと七人揃ったか」
地獄の底から這いずりだすような声が響き、前を見る。
いつの間にか――気付いたら、目の前に一人の髪の長い男が居た。
病的にひょろくて、病的に肌が白くて、病的に髪が長い、人間離れした風貌の男だ。
「俺は《怠神》。お前に加護を与えてやってる神様だ」
「あ、それはどうもいつもお世話になっております……」
なんとなく、そんな感じはしてた。
同類の匂いというか、親近感というか。
「面倒くさいから単刀直入に言うな。他の神が七つの大罪をなかったことにしようとしてやがる」
「……?」
「遥か古代、人間に課せられた原罪。それをなかったことにして、新しい世界を運営しようとしてやがんだよ。そうなれば当然、俺たちも消えちまう」
おれたち、という言い方に違和感を覚えて辺りを見渡すと、いつの間にか他の皆の目の前にもなんか神様らしき存在が姿を現していた。
おそらく、この神と似たようなことを言っているのだろう。
「でも、人間の罪っていうのは抽出しても洗い流しても、消えねえもんだ。現にお前らみてえなこそぎ落としてもこそぎ落としても取れねえ大罪ってもんを背負ってる人間はどうしたって現れる」
「…………」
「もう俺たちは見るも無残なほど弱体化してしまった……こうして七人、大罪を背負った人間が集まらねえと顕現できねえほどにな」
「……それで、私たちは何をすればいいの?」
単刀直入に訊ねると、《怠神》は笑った。
「話がはええのは好きだ。ずばり、他の神共に思い知らせてやってほしい」
「思い知らせる……?」
「罪は、消えない」
洗い流しても。
なかったことにしても。
こそぎ落としても。
何をしても。
「罪は消えねえ。そのことを思い知らせてやれ」
言って、《怠神》は球状の何か、エネルギーみたいなものを取り出した。
どす黒く、明らかに邪悪なもので染まっているそれを……どうするつもり?
「これは神共が抽出したこのゲームをプレイしている約六十億人の《怠惰の罪》だ。これをお前に背負わせる」
「いやそれって……大丈夫なの?」
「大丈夫さ、何せこれだけ集めてもお前が元から持ってる罪に比べたら精々お前三人分くらいってもんだ」
つまりそれを受け取ったら、私の罪は四倍になるってことでは?
「大罪の加護は、罪の重さに比例して強くなる。これを受け取ればお前は今の四倍強くなるぜ」
「…………」
「検討しているところ悪いが強制だ。ほれ、背負え」
「はぁ!?」
どす黒いエネルギーが、私の中に入ってくる。
明らかに邪悪なものであるにも関わらず、馴染む、実に馴染む。
他の皆もなんかピンクだったり黄金だったりする色のエネルギーを――いや、罪を入れられているようだ。
「いいか? この世界を『ぶっ壊せ』。それがお前らの『クリア条件』だ」
視界が歪んでいく。
真っ白な空間は隅から崩壊をはじめ、神たちも塵となって消えていく。
「クリアしたら――それはもう心の底から笑える日が来るだろうぜ」
*****
目が、覚めた。
真っ白な空間は消え去り、周囲を見渡すとそこには災禍に飲まれ中のベルの街。
皆で顔を見合わせるも、上手く言葉が出なかった。
あの神たちが言っていたことは、真実なのだろう。
ステータスウィンドウを確認すると、基礎ステータスが大きく上昇していて、かつ新しいスキルを幾つか憶えていた。
邪神の信仰者であったあの中二病が、今私たちのことを見たら何と言うだろう。
さぞかしおぞましいものになり果てたと笑うだろうか。
「きゅあああああああああ!」
空間の罅が割れて、一回りも二回りも大きな巨体のワームが現れた。
おそらく、ボス枠なのだろう。推奨攻略レベルも150を超えていそうだ。
だがそれでも、負ける気がしなかった。
私は、赤いオーラに包まれた瞳で、巨大ワームを見据え、宣告。
「《怠惰のベルフェゴール》」
瞬間、ワームの動きが完全に停止した。
《怠惰のベルフェゴール》、それはおそらく《嫉妬のレヴィアタン》と同じシリーズのスキルなのだろう。
その効果は、自身と相手一体に行動不能(使用者の任意以外で解除不可)を付与するスキル。
行動不能を付与された存在は、『何もしない』しか出来なくなる。
つまりはチーム戦なら最強クラスの拘束力を誇るスキルである。
今の内に、とさっきゅんとユニが跳ぶ。
基礎ステータスが上がっているのか、かなりの速度で二人はワームへ近づいていく。
「《色欲のアスモデウス》」
桃色の煙が、ワームを包み込む。
あれはどういうスキルなんだろう。煙に包まれたワームがドロドロに溶け始めているのを見ると、毒……? いや、多分、防御力ダウン?
「《憤怒のサタン》」
これは分かりやすい。
巨大なワームの、上空に。ワームよりも遥かに巨大な炎の拳が出現した。
ユニはそれを思いっきり振り下ろすと、ワームは何の抵抗もすることが出来ず潰された。
地面が抉れ、建物は四散し、余波で暴風が吹き荒れる。
しかしワームもそれだけでは終わらない。
敵討ちだとばかりにひび割れが三つ現れ、三体のワームが再び現れた。
赤色の個体――おそらく何かが今までの白いワームとは違うのだろう。
「《強欲のマモン》」
何かする暇もなく、赤いワームはアヤによって無数に分解され、無数のコインにされた。
敵をコインにする能力ってこと……? えげつな。
「《傲慢のルシファー》」
ルリに、四枚羽根が生えた。
それはまるで、天を支配する神のような姿だ。
もしかして、傲慢にも、神を模造し、神を名乗ろうというのか?
黄金の砲がルリから放たれ、民家もワームも何もかもを貫いてワームは塵になった。
「《暴食のベルゼブブ》」
いつの間にか起きていた虎子が、その小さなお口を開けて、閉じた。
ただそれだけの動作で、急激にワームと虎子の距離は縮まった。
まさか、自身とワームとの間にあった『空間』を喰らった……!?
そしてもう一度、口を開けて、閉じた。
すると、今度はワームの身体が丸ごと消え去った。
多分、空間ごと喰らったのだろう。
「やべーな、なんか私たち、強くなり過ぎちゃったみたいだ」
さっきゅんが呟く。
六人の新スキルで、あっという間に超巨大ワームも巨大ワーム三匹も大した労なく倒せてしまった。
うん? 六人?
リヴを見る。
彼女は体操座りで分かりやすく卑屈になっていた。
「私の《嫉妬のレヴィアタン》は対人戦特化だから……別にいいもん……」
「いや、まあさっきの神様からのスキル取得イベントをこなす前から取得してたって凄いと思うよ? うん……」
「適材適所ってあるから仕方ないって」
なんだか締まらないが……まあ、これも私たちらしさだろう。
改めて、皆と向き合う。
七人で顔を見合わせて、確信する。心は一つのようだ。
「この七人でギルドを組み直そう」
私は言う。
もう、決心はついた。
「一緒にクリアを目指して――この世界をぶっ壊そう」
「賛成」
「おっしゃ」
「頑張ります!」
「くくく、ようやく決心したか」
「あらあらまあまあ」
「よく分かんねえけど、全部喰っていいんだな?」
全員、笑っていた。
幸せを目指して、世界を壊すことに前向きだ。
「ギルド名は――【ふかふかベッドver.2】!」
「おい馬鹿やめろ!」
「マコを止めろー!」
「おいルリ! 急げ! 今すぐ【七つの大罪】で登録しろ! リーダーはお前でいいから!」
「何でこういう時だけ行動が早いんですかマコさん!」
「あらあらうふふ……」
「別にギルド名なんて何でも良くない?」
「「「良くない!」」」
さっきゅんとルリとユニの協力プレイによって、私の野望は阻止された。
だが忘れるな……私がやられても第二第三の私が……。
「ん?」
空が晴れてきた。
ひび割れだらけだった空間は修復されていき、何事も無かったかのように元に戻っていく。
伝神から、通達が入った。
緊急クエスト終了。やってきた異次元の徘徊者は、全て討伐されたとのことだった。
ちょっと新作書きたくなっちゃったので毎日更新は一旦ここで終わります。
新作のURLはこちら↓です。よかったら読んでやってください。
https://ncode.syosetu.com/n8306im/




