第四十四話
リヴ視点です。
「《嫉妬の炎》……!」
蒼い炎が、巨大なワームを包み込む。
しかしそれだけじゃあワームの勢いは止まらず、巨大な口腔を開けてワームは私に――リヴに突っ込んできた。
このままでは喰われる――そう思った瞬間、眼前にセクシーな服を着た痴女もといさっきゅんが私を庇うように歩みでた。
「《セクシー♪バリア》」
おっぱいのような形をしたバリアが、私とさっきゅんを包んで守る。
見た目の割にかなりの耐久値を誇るさっきゅんのバリアだが、巨大ワームはバリアに噛みつくと、咀嚼するようにバリアを食べ始めた。
さっきから地面とか建物とか、あらゆるものを食べているけど……何でも食べられるの? こいつ。
「《明鏡止水》」
怒り状態を保ったまま、冷静となったユニのハンマーが巨大ワームの頭部を穿つ。
流石の超攻撃力だ。頭部が粉々になったワームは、塵となって消えた。
「はぁ……はぁ……つ、強かったぁ……」
思わず愚痴るように呟く。
推奨レベル100は伊達じゃない、今まで戦ったモンスターの中で一番強かったかもしれない。
「ぷぅ……強かったですねぇ……さっきゅんさんビーム何回撃ちました? あと何回撃てます?」
「SPほぼ枯渇するくらい撃ったわよ……回復アイテムを使えばまだ撃てるけど」
ユニが怒り状態を解きながら、問う。
さっきゅんがそれに答えながら、インベントリから青いポーション――SP回復アイテムを取り出して飲み始めた。
「とりあえずマコとの合流をしなきゃね。あの子のスキルを考えると、一人で放置してたら死にかねない」
「ログアウトして逃げてるって線は無いの?」
「オフラインになってないし、それはない。そもそもマコは何があってももう現実に帰るつもりはないよ」
……さっきゅんにそこまで理解されているマコ、いいなぁ妬ましいなぁ。
まあ殺したいほど妬ましいかと言われればNOだが……何だかんだマコも大事な友達だ。
「……! さっきゅんさん! リヴさん!」
「っ……!」
ユニが戦闘態勢を取る。
視線の先には巨大ワームが二匹。おかわりが早すぎる……! しかも二匹……!
《嫉妬のレヴィアタン》は対モンスターでは大して効果を発揮しないのよね……。
ワームは蛇のように器用に民家へ巻き付きながら、こちらを見ている。
目に当たる器官が無いのに、どうやってこちらを補足しているのよ……。
「もーまんたい、さっきの戦闘でレベルが一気に上がったわ。二匹居ても何とかなる筈……」
「あ、本当ですね、レベルが80くらいまで上がってます。新しいスキルも……!」
さっきゅんに言われて確認したら、レベルが102まで上がっていた。
流石に強敵だけあって経験値も美味しいようだ。これなら……!
「あっ」
と、希望を持ったその時。
少し遠いところに三匹目のワームが罅割れから這いずるように出現した。
ワームはゆっくりと、こちらを見据える。
「三匹同時……!?」
「ふぁっく……っ!」
泣き言なんて言ってられない。やるしかないのだ。
包丁を二本生成して、両手に構える。
その瞬間だった。
「《――――》」
「《――――》」
爆発と剣閃が、三匹目のワームを襲った。
半身は爆風で抉れ、半身は細切れに切り刻まれている。
遠くに見えた人影は、二つ。
彼女らはそのまま二手に別れて、民家に巻き付いていた二匹ワームに向けてそれぞれ駆け出していた。
「あれは……!」
片方は、豪華絢爛の宝石を身に纏ったお姉さん。
片方は、生意気そうに笑みを浮かべたツインテールの少女。
アヤとルリが――《強欲》と《傲慢》が、やってきた。
「《宝剣掃射》」
「《我儘宣告》――『アタシは《剣士の極み》が使える』」
アヤの背後から、宝石の付いた無数の短剣がガトリングガンのように射出され、巨大ワームに突き刺さる。
そして、掃射が完了した後突き刺さった短剣が全て爆発し、ワームを塵へと返した。
ルリの手には、黄金の剣が握られている。
彼女がその剣を一振りすると、明らかに剣がワームに届いていないのにワームの身体が真っ二つになった。
強い――――あれが、レベル120越えのトッププレイヤー。
私たちが苦戦した敵をいとも簡単に倒してしまった。
「や! 同胞たちよ、大丈夫だったか?」
二人が私たちの元へ降り立って、ルリがにやりと笑いながらそう言った。
おかげさまで無事である。
正直助かった。
「うむ? 《怠惰》がいないな、別行動中か?」
「マコはイベントが始まる直前に出かけちゃって……今から合流しようとしたとこ」
「ふむ、急いだ方がいいな。このイベント、下手すれば普通に死にかねない」
とりあえずパーティを組もう、と二人に誘われたので、五人でパーティを組む。
マコは確か……商店街の方に行くって言ってたっけ。
「しかしさぁ、このイベント、かなり糞じゃない? 私らは強力なスキルが揃ってるから適正レベル無くても何とか倒せるけど、殆どのプレイヤーがワーム倒せないでしょ。普通に大量の死人が出そうなんだけど」
皆で走りながら、さっきゅんが言った。
確かにその通りだ。魔王軍襲来の時もそうだったが、神様たちはイベントの戦闘バランス調整が下手過ぎる。
廃人ガチプレイヤーに合わせて難易度調整しているんじゃないかと思えてくるほどだ。
「…………『イベント』じゃないんだろうね」
アヤが、ぽつりとそんなことを言った。
「……何か知ってるの?」
「少しだけね」
軽く問いただすと、苦笑を浮かべながらアヤは答えた。
「一つだけ確かなことは――『魔王軍』も、『徘徊者』も、神様が用意したゲームの敵じゃないってことよ」
「「「!?」」」
私とさっきゅんとユニが、驚きの表情を浮かべる。
続けて、ルリが真剣な表情をしながら言葉を紡ぐ。
おそらくは彼女たちがガチでゲームを攻略してきた中で得た、情報を。
「だって、明らかに変な所が多すぎるでしょ。魔王軍は最初喋ってたのに急に喋らなくなるし、徘徊者はデザインが明らかに他の既存の魔物と違うし、推奨攻略レベルもいきなり高すぎる、神様がバランス調整してるにしてはあまりにも稚拙じゃない?」
「そ、それは確かに感じてたけど……」
「そもそも、肉体ごとフルダイブ出来るゲームって何? って話よ。そんなのもうゲームじゃなくてただの現実じゃない」
「で、でもメッセージウィンドウとか……」
「そうね、だからよくあるMMORPGのゲームが基盤にあるのは間違いないわ……けど、それは此処が『ゲームの中である』という証拠にはならない」
スキルのように、ゲームっぽい能力を『付与』されていると考えた方が辻褄が合う、とルリは語る。
「多分、此処は『異世界』よ。神様が造ったのか、それとも元々あったものを神様がリサイクルしてるのかは知らないけどね」
「じゃ、じゃあ魔王軍とかあのワームとかって……何ですか?」
「『侵略者』よ。この世界を滅ぼそうとしてるのか、支配下に置こうとしているのかは分かんないけどね」
異世界からの、侵略者。
ちょ、ちょっと待って、いきなり過ぎて頭が追い付いていない。
確かにイベント開催時のイベント説明で、異世界の魔王が目を付けてきて侵略に来た、とか書いてあったけど。
それはそういう『設定』じゃなくて、『真実』?
「随分と断言するような口調だけど、確たる証拠はあんの?」
「物証は無い、けど」
さっきゅんの問いに、ルリはとても嘘を吐いているとは思えないような顔で、答えた。
「魔王軍が出現する時に使っていた『ゲート』に飛び込んで、奴らの拠点を見た」
「……!」
「巨大な城、荒廃した荒野、魔物たちが闊歩する街のような何か……ただの『設定』とは考えられない程作り込まれた世界が広がっていたわ。そして――向こうの世界では、魔王軍の魔物たちの推奨攻略レベルも残りHPも何もかもゲーム的な要素は見えなかったわ」
もし、魔王軍が神様によってこのゲーム用に作られた存在であるのなら、頭上に表示される筈のステータスウィンドウ。
この世界にいる間は見えていたそれが、ゲートの向こう側では見えなかったってことは――。
「魔王軍は神様が意図して用意した敵じゃあない、そして多分、徘徊者も『異次元から来た』ってことは似たような存在なんでしょうね」
ルリとアヤが足を止めた。
合わせて立ち止まると、巨大ワームたちが私たちを取り囲むように家屋の隙間や地面の下から、這いずるように湧きだしてきた。
「……今の話は、あなた達がこのゲームに『クリア』があると断言する件と、何か関係があるの?」
「ん? あんま無い」
「ええ!?」
てっきりあると思っていた。
そっか、無いのか……。
「こいつらはただの部外者だよ、すぐに撲滅して、緊急クエストとやらを終わらせるわよ」
武器を構える。
何にせよ、話は一旦区切りだ。
戦闘、開始――――しようとした、瞬間だった。
赤いオーラを纏った怠惰の化身が、上空からまるでスーパーヒーローのような着地で私の背後にこっそり迫っていたワームを踏みつぶしたのだ。
「――っ!?」
「お、皆居たね」
マコだ。
彼女は誰かを背負っていた。茶髪ポニーテールの、女の子?
いや、この感じ……この、皆と出会った時と同じような感覚は――。
「《暴食》……!」
ルリが笑った。
本当に心底嬉しそうな顔だった。




