第三十九話
久しぶり
「そういやさっきゅん、久しぶりの現実はどうだった?」
「んー? 別にこれといって変わってなかったわよ。のーまるに七日七晩《ばっきゅーん!》して過ごしてたわ」
あっちの人口ってかなり減ってると思ってたけど、案外可愛い子いたわ~、などとほざきながら極太ピンクビームを放つ痴女と共に、《モンキーフォレスト》を歩く。
今日はさっきゅんと二人でクエスト中である。
ユニとリヴは生活用品の買い出し
「ボスゴリラ猿も軽く倒せるようになったわねー」
「レベル結構上がったしね」
確か、今の私達のレベルは……。
私が55、さっきゅんが57、ユニが48でリヴが98だったっけな。
こう見るとリヴの飛びぬけ具合が凄い。
モンキーフォレストの最深部も、リヴが居ればもしかして攻略できるんじゃないかな……。
「あの二人は大丈夫かな?」
「あの二人? ……ああ、ユニとリヴのこと? まあ、これから先一緒に行動していくんだから大丈夫になってくれないと困るわよ」
さっきゅんの問いかけに、指を顎に当てながら答える。
ユニはまだリヴのことを警戒している節があるし、リヴは怒れ狂うユニに多大なトラウマを抱いているようなのだが……。
単なる勘だけど、なんとなくあの二人は仲良くなれそうな気がするんだよね。
「なんとなく……ね。まあ、分からなくは無いわ」
共感するように、頷くさっきゅん。
きっとそれは、私達にしか分からない感覚。
私も、さっきゅんも、ユニも、リヴも、同じような『何か』を感じているだろう。
お互いに生まれながらの大罪を背負っていることから来る、共感? なのだろうか。
言語化は難しいが、兎も角。
同じように、仲良くなれそうなのが、あと三人。
「クエストついでに会えたらって思ってたけど、入れ違いになっちゃったかねぇ」
「そうみたいね、一旦戻る?」
「いや……」
ベルの町の方から、五人分。
ユニとリヴと、あと誰かと誰かと誰か。
おそらくは『強欲』の化身と、『傲慢』の化身と、『暴食』の化身が、ベルの町に辿りついたようだ。
「めんどいし、クエスト終わってからでいいや」
わざわざそんなことしなくても、私達はきっと出会うでしょう。
*****
「必要なものは大体揃いましたか? リヴさん」
「え、ええ。大体」
一方その頃。
私ことユニは、新しい仲間であるリヴさんとベルの町の繁華街を歩いていました。
生活用品の買い物帰りですが、買い物袋に類するものは持っていません。
リヴさんの持っていた、『アイテムポーチ』と呼ばれる消耗品持ち歩き用のポーチのおかげです。
亜空間にアイテムを仕舞っておけるという、便利なポーチであり、一定以上難易度の高いダンジョンを攻略すると報酬としてくれるNPCが一つの町につき一人いるらしいです。
ネットの一部ではメンバー募集の際にアイテムポーチを所持済みかどうかで実力の判別に使う人たちもいるとかなんとか。
閑話休題。
ぎくしゃくとした、微妙な雰囲気が私達の間には流れています。
何故なら私達は同じギルドの仲間でありながら殺されて殺しかけて殺されかけた仲という、どうして今こんな風に隣を歩いていられるのか説明しづらいことこの上ない関係なのです。
どうしてこうなったのかはあの怠惰の化身じゃなくても説明が面倒くさい事情があるので省略するとして、
私としては殺されたことに関する恨みはあれど、それは十二分な形でやり返したのでもう気にしてません。まあ向こうはそのやり返した時の私の怒り状態形態がトラウマらしいのだけれど……。
そんなに怒った時の私って怖いんですかね。
自分じゃよく分かりません。
ただまあ折角仲間になったのだし、こんな風にいつまでもギスギスしているのはちょっと避けたいのが人情というもの。
何か話題を振りましょう。
小粋な女子トークの一つや二つでもすれば警戒も解けてくれるかもしれませんし。
現実で友達いなかったのにそんなことできるのかって?
甘く見ないでください、女子トークスキルは女子ならば誰でも標準装備です。
「そういえばリヴさんってさ、さっきゅんのどういうところが好きになったんですか?」
「え? ええっと、そうねぇ……」
これぞ女子トークという話題を振ってみる。
少し照れくさそうに、リヴさんは視線をこちらから逸らしながら答えてくれました。
「やっぱ、死にかけているところを颯爽と助けてくれたところに運命を感じちゃったから……かしら。その時ファーストキスも奪われちゃったし……」
「…………」
殺しかけた張本人である私は何となくコメントしづらくて、苦笑いを浮かべながら視線を逸らしました。
「あとやっぱ、格好いいわよね」
「格好いい?」
意外な言葉が出た、と眼を丸くする。
あの痴女に格好いい要素なんてありましたっけ、マコさんならまだボーイッシュだから分からなくも無いのですが……。
「マコみたいな、男性らしい格好良さじゃなくて……こう、格好いい女性って言うの? スタイル良くて、背が高くて、笑顔がとても眩しいの」
「あー……」
何となく理解できました。
エロさが前面に出すぎていて今まで意識していなかったけど、確かにそういう一面はありますね。
セクシービームを連射しているあのエロい背中は、確かに頼もしく格好いい。
「何となく理解できますけど、やっぱどうしてもエロいお姉さんって印象が強いんですよね……」
「エロ格好いいってことでいいと思うわ」
「エロ格好いい……」
成る程、そういうのもあるんですね。
また一つ知見を得ました。
「あっ」
ふと、リヴさんが足を止めました。
視線の先には一軒の宝石店。
綺麗な石がショーケース一杯に並んでいてとても綺麗です。
「宝石? 買うんですか?」
「宝石じゃなくて、『探知石』がそういえば無くなりそうだったなって」
「『探知石』?」
首を傾げたら、知らないの!? と驚いた顔をされた。
名前からして生活に役立つものではなく、戦闘や探索などで使用するアイテムでしょうか。
「『探知石』知らないって……ああでもそっか、ユニたちってこの町で『生活』することが目的で、ダンジョンの攻略とかを進めたりはしてないんだっけ」
「そうですね、クエスト消化のためにモンキーフォレストに時々行くくらいです」
「成る程ね、それなら『探知石』のことを知らなくても納得だわ」
宝石店に入りながら、リヴさんは『探知石』についての説明をしてくれました。
探知石は、高レベルのダンジョン攻略には必須アイテムとも言われている消耗品。
普段は透明な石なのだが、敵エネミーや罠や毒ガスなどの有害物質が近づくと黄色く光るとのことです。
特に薄暗い洞窟系のダンジョンでは大量のエネミー、罠は基本的に絶対配置されているからこの石が無いと不便でしょうがないみたいです。
ちなみに一見消耗品に見えないですが、お祭りで売っている光る玩具みたいに、光らせすぎるとその内光らなくなるそうです。
うちのギルドでそんな洞窟には行かないと思うのですが(特にマコさんが嫌がりそう)、敵探知の機能はモンキーフォレストでも使えそうだし私も一つ買っておきましょうか。
「う。五千円って結構高いですね……」
「高レベルダンジョン向けだから……」
やめておきましょう。
不要な出費は避けるべきです。
こんなの無くてもさっきゅんのセクシービームとリヴさんのレベルの暴力でモンキーフォレストの猿程度余裕で蹴散らせるのですから。
リヴさんはどうやら買うようです。
もしかしたらギルドの方針とか関係無しにダンジョンへ挑戦とかするつもりなのですかね。
別にダンジョン攻略を禁止しているわけではないので、別にいいとは思いますが。
「すいません店員さ……」
「店員さん」
リヴさんが店員に声をかけようとした、瞬間。
割り込むように、一人の女性が店員に声をかけた。
「ここから」
女性は、そのごてごてした指輪が二つ付いている人差し指で宝石棚の隅っこを指差して、
「ここまで」
さらに宝石棚の反対側の隅っこまでなぞるように指を差し、言った。
「くださいな」
「は、はい! ありがとうございます!」
ほ、ほぼ全部の宝石を!?
一体全体どんな大富豪ですか!?
惜しげもなくその女性は大量の札束をアイテムポーチから取り出して支払うと、店員が纏めて渡してくれた宝石を無造作にアイテムポーチに放り込んでいきます。
何なんですか、この人。
大枚はたいて買ったはずの宝石を、『もう手に入ったものには興味ない』といわんばかりの無関心な黒い瞳で見ています。
そしてその黒い瞳が、私達にも向けられました。
「……このゲーム内世界って、神様が作ったゲームだけあって現実よりも遥かに便利で素敵なアイテムが沢山あるけれど――」
「……?」
「アイテムポーチこそ、最も神がかっているアイテムだと思わない? 手に入れた物が全部入って、しかも場所を取らないなんて」
「はあ……」
宝石を買い占めたお姉さんは宝石箱のようなデコレーションが施されたアイテムポーチを愛おしそうに撫でながら、いきなりそう声をかけてきました。
改めてお姉さんの風貌を確認します。
黒と紫を基調としたシックなドレスのような服に、大量のアクセサリーを全身にじゃらじゃらと着けている、背の高いお姉さんです。
年齢は二十代半ばくらいでしょうか、紫のメッシュがかかった黒髪は艶があり、大量に装着されているヘアアクセサリーに負けないくらい綺麗です。
……何というか、凄いです。
宝石が散りばめられているアクセサリーを全身にこれだけ着けているのに、全く下品さを感じさせません。
雅といいますか、高貴といいますか、お姉さんの雰囲気に大量のアクセサリーがマッチしているというか、むしろ大量のアクセサリーが無い方が違和感がありそうです。
(というか……)
このお姉さんから、妙な親近感を覚えます。
マコさんと初めて会ったときのような、リヴさんと初めて会ったときのような、
仲良くなれそうな、予感。
『同類』の匂い。
「ちょっとちょっと」
「ん?」
「探知石。買おうとしていたのだけれど、横から割って入って全部買占めは酷いんじゃないかしら? 一つ売ってくれたら、これ以上特に何も言わないのだけれど」
リヴさんがご尤もなことを言って、お姉さんを睨みつけました。
お姉さんは「ああ、ごめんなさいね」と言って、アイテムポーチから探知石らしき透明な石を取り出してリヴさんに向けて軽く放り投げました。
「! っと」
「御代はいいわ、お詫びと、お近づきの印よ」
「…………意外と素直なのね」
「そうでもないわ、こんなに素直に自分の所有物を渡したのなんて人生で二度目よ」
「……?」
不思議な物言いをする人です。
まあ、兎も角リヴさんがヤる気を抑えてくれたようで何より。
「あなた達、プレイヤーよね? この街に住んでるの?」
「そうですよ。お姉さんは?」
「ああ、私の名前は文、『入間文』よ、アヤって呼んで頂戴」
「イリマ……アヤ、さん」
イリマが苗字で、アヤが名前ですかね?
名前の感じからして、さっきゅんと同じ日本人っぽい? いや、プレイヤーの名前はハンドルネームのことがあるから名前からその辺の判断は出来ないってマコさんが言ってたっけ。
「あ、私はユニと言います」
「アタシはリヴです。よろしくアヤさん」
「ええよろしく。私は仲間と旅の途中だけど、しばらくこの街に居るつもりだから――」
「《強欲》! まだ買い物は終わらないの!?」
突如、店内に甲高い少女の声が響いた。
何事かと声の主の方向に振り向くと、
店の入り口に、少女が一人仁王立ちしていました。
逆光で人相はよく分かりませんが、アヤさんよりは随分と背が低い、ツインテールの女の子のようです。
さっき言ってた、アヤさんの仲間でしょうか。アヤさんはため息を一つ吐くと、その子に近づいていきます。
「アヤ、と呼びなさいといつも言っているでしょう、ルリ」
「アタシのことは《傲慢》と呼びなさいといつも言っているでしょう、《強欲》」
いいから買い物終わったんなら行くわよ、とアヤを急かす少女。
アヤさんは「またね」とこちらに軽く手を振ると、少女と共に店を出て行きました。
その後姿を見送った後、リヴさんがポツリと呟く。
「……あの二人、何だかマコとさっきゅんに似てたわね」
「外見と中身は逆みたいでしたけどね」
大きい方が大人しくて、小さい方が騒がしい。
マコさんとさっきゅんはその逆です。
*****
ベルの町。繁華街。
アヤと、ツインテールの少女――ルリはキョロキョロと何かを探しながら歩いていた。
ルリのお腹がぐうぐうと鳴いているところを見るに、飯屋を探しているようだ。
「はー、お腹空いたわ。全く、このアタシがお腹を空かせてるっていうのに何で悠長にお喋りとかしてんのよ」
「ごめんなさいね、思いがけず『同類』と出会ったから、つい嬉しくなっちゃって」
「ふーん、……は?」
アヤの言葉に、ルリは物凄い形相でアヤを睨みつけた。
「ちょ……! 『同類』って、マジ!?」
「ええ、やっぱしこの街に居たみたいね、感じた通りだわ。しかも二人」
「何よー! 早く言いなさいよー! ああもう、さっきの店にまだいるかなぁ!?」
「さあ? 誰かさんがご飯ご飯って急かすからとりあえず挨拶までに留めて置いたのよ」
「せめて連絡先くらい交換しときなさいよ!」
「しようとしたら貴方が乱入してきたんでしょう」
「知らないわよそんなこと!」
ぎゃーすか騒ぐ瑠璃の甲高い声から耳を守るように、両手で耳を塞ぐアヤ。
しかしやがて諦めたのか、はたまた空腹が勝ったのかルリは「仕方ないわね」と一息吐くと、一転して無表情になり、アヤに問う。
「それで、どうだった?」
「最高ね、とっても仲良くなれそう。可愛い女の子だったし、片方は多分私より強い、片方はとっても礼儀正しい、そして何より……」
「…………」
「二人とも、人殺しの眼をしていた」
にぃい、っとルリは満足げに笑みを浮かべた。
「それは重畳。じゃあその子達は――アタシのギルド、【七つの大罪】のメンバーに相応しいかもしれないわね!」
ご飯食べたら早速スカウトしに行くわよ! と、
ルリは高笑いをしながら、アヤは「そうね」と同意しながら、繁華街を歩いていくのであった。




