第三十八話
結局。
さっきゅんの新スキルとやらをどうしようかというアイデアは全く浮かばなかった(というか面倒くさくなって考えるのをやめた)ので、普通にギルドハウスに戻ってきた私であった。
《淫神》の新スキル、さっきゅんのあのテンションからして相当エロいスキルの筈。
処女の一つや二つ失うかもしれ……いや、待てよ? よく考えたらもう既にさっきゅんに処女奪われてたじゃん。(※第一話参照)
……あれ? さらによくよく考えてみるとリヴはまず間違いなくさっきゅんに処女奪われていて、ユニだってよだれを垂らしながら放心してしまう程度のことはされていた(※第十四話参照)……多分処女はもう奪われていると見て間違いないだろう。
「なんてことだ……このギルド非処女しかいねえ……」
しかも四人中三人が同じやつに奪われてやがる……さっきゅん、ハーレム系主人公も真っ青なことしてんなぁ。
うーむ。
あの時は眠くて頭回って無かったからなぁ……まあ? 別に自分の処女に価値が無いことなんて分かってるし? 全然気にしてないんだけどさぁ。
「……………………」
あー……。なんか嫌だなぁ。
気が付いたら自分が非処女だったということに結構ショックを受けてる自分が嫌だなぁ……。
こういうの気にするキャラじゃないだろ、私。
……よし、男性経験は無いからまだ処女ってことにしとこう。
同性に指挿れられたくらいじゃノーカンノーカン。
さて、何時までもギルドハウスの前で立ち止まってるわけにもいかない。
覚悟を決めて、私は扉をこっそり開けた。
ギルドハウス内には見たことの無いイケメンが三人居た。
ホスト風の、凄まじい色気を放つセクシーイケメン。
蒼髪の気弱そうなショタイケメン。
そして眼鏡をかけたヤンデレ鬼畜眼鏡っぽいイケメンの三人。
その三人が、一斉に私の方へ向いた。
「…………は?」
思わず間の抜けた声をあげてしまう。
ギルドを間違えた? いや、ベルの町にギルドハウスを構えているのは今私たちだけの筈だ。
嫌な予感が、頬を伝う。
私は即座に回れ右しようとしたが、ホスト風のイケメンに肩を掴まれ阻止された。
「うぇるかむほーむ。おかえり、マコちゃん」
「……さっきゅん?」
「いえすいえすいえす」
こくこくと頷くさっきゅん(♂)。
嫌な予感は完全に的中したようだ。
「《セクシャル♂♀チェンジ》。対象の性別を反転させる《淫神》の新スキルだよ、どう? 凄く面白くない?」
そう言って、セクシーな笑みを浮かべるさっきゅん。
ということは、ショタはユニで眼鏡はリヴなのだろう。ユニが怒り狂って色々とうやむやにしてくれていないかなぁっという期待が無かったこともないのだが、結構満更じゃなさそうな顔をしているのは何故だろう。
「と、いうわけで……」
ゆらり、とさっきゅんの手がこちらに伸びる。
……この後の展開は予想できる。
早速男性経験が無いから処女と言い張ることもできなくなりそうだなぁ、チクショウ。
…………足掻いてみるか。
「リヴ、さっきゅんが浮気してるけどいいの? 嫉妬しないの?」
「マコなら別にそこまで……それにほら、さっきゅんの性欲は果てないから少しくらいの浮気は正妻として許容しないとあたしが死んじゃうし……」
リヴはそう言って、不甲斐なさそうに俯いた。
確かにさっきゅんの性欲を人間一人で受け止めることは不可能だろう。
とは言っても嫉妬の化身たるリヴが浮気を許容するような発言をしたことは、結構意外だった。
「じゃ、じゃあユニ。そんな姿にされてなんとも思わないの? 怒り狂って暴れたりしないの?」
「え? まあ元に戻せるらしいですし、普通に面白いスキルだと思いますけど……」
男の子の身体ってこうなってるんですねーっ等と呑気なことを言うユニ。
……ん? ていうかさっきゅんの性格……性欲からしたら、私が戻るまでの間にリヴとユニと男側の情事を楽しんでいると思っていたのだが、その様子は無さそうだ。
何でだ? リヴとユニをうっかり先に男にしちゃったから?
いや、この性欲の化身はそうなったらホ○セックスを楽しもうとするだろうし……一体何故……。
「ふふふ……何故私が男体化してリヴやユニと《ズッキュン!》《バッキュン!》して《ズドドドド!》してないのか気になってるようね?」
私の思考を読んでいたかのように、さっきゅんが私の耳元で囁いた。
右手と腰を捕まれて、身体ごと引き寄せられ、彼女(彼?)の唇が私の耳たぶに軽く触れる。
「……ナチュラルに人の心の中を読むのをやめて。そして耳元で喋るのやめて」
こそばゆい。
だが、確かに気になる。
一体、どんな壮大な理由があってこの性欲魔神が我慢なんてしていたのか――。
「貴方の疑問に答えてあげるわ。私ね、いつか、ずっと、万が一、こういうことが起きたら――童貞はマコちゃんに貰って欲しいなって思ってたの」
「想像の百倍気持ち悪い理由だった」
「えー? 気持ち悪くないわよ純愛よ純愛」
「それリヴの前で大声で言ってみろよ」
ていうか愛とか、さっきゅんに最も似合わない台詞じゃないだろうか。
頼まれれば誰とでもヤるくせに。
「……ん? ということは私で童貞捨てたらその後は……」
「リヴもユニもマコ全員孕ます」
「キック!」
怠惰の神の信仰者としてあるまじき速度で蹴りを放ってしまった。
完全に油断していたのか、はたまたそこが急所であるという意思が薄かったからなのか。
それは分からないが、ステータス最弱の私の蹴りは見事さっきゅんの股間を撃ちぬいた。
「おぐっふぅ!?」
股間を強打された時の痛みなんて私は知らないが、相当なものだとネットで見たことがある。
妙な喘ぎ声をあげて、さっきゅんは前かがみに倒れた。
目は大きく見開いて、口からだらしなく涎を垂らして悶絶している。
……そんなに強く蹴ってないし、何より私のステータス滅茶苦茶低いよ? ちょっと痛がり方大袈裟じゃない?
「だ、大丈夫?」
「……ふっぐぅ……む、むか……」
額に大きな脂汗を浮かべながら、さっきゅんは痛みを軽減しようとしたのか女の子の姿に戻った。
しかしダメージは消えなかったようで、下腹部をいたわるように手で押さえながら、口を開く。
「……むかし、金蹴りかましちゃ、った男の子たち、ごめ、ん……」
これ、マジで洒落にならないくらい痛ぇ、と。
そう言い残してさっきゅんは地に伏した。
「……そんなに?」
リアクションが大袈裟すぎないか? ……いやでも、本当に気絶してるなこれ。
まあこれからさっきゅんが男になって襲ってきても同じ方法で撃退できそうで何よりだ。
そんなことを考えながら、私はリヴとユニが気絶したさっきゅんをソファに運んでいく様子を尻目に、二度寝のため自室のベッドへ向かっていくのであった。




