↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私のカタチ 2 彼女に関するすべてのことを  作者: tetsuya
第3章 いつか、この冬が終われば
PR
48/50

48 凍傷

 下がアイスバーンなら粉砕骨折だっただろう。ショック症状であっさり死んでいたかもしれない。新雪が積もっていたおかげでそれよりはましな状態だったが、激痛だった。

 怪我があろうとなかろうと、この状態で一晩すごせば確実に凍死する。モービルの下から腕を引き抜こうとしたら、腕がそのまま千切れそうになった。テコの力でモービルを持ち上げられないか。だが、左手の届く範囲には何もない。

 これだけはという思いで止血のために二の腕を縛った。効いているのかどうかわからない。意識も痛みの感覚も鈍ってくる。


 寒い。気がつくと、足の先にむずがゆいような凍傷の感覚が生じている。モービルの荷台にくくりつけたバックパックにツェルトがあるのだが、この状況では取り出す手段がない。ビバークが必要な状況だったが、どう考えても不可能だ。全身から熱が吸い取られていく、その感覚にただ耐えているしかないようだった。

 気がつくと雪はやんでいた。そのかわりに、晴れた空から猛烈な寒気が吹き降ろしてくる。

 これは、死ぬかな。

 つぶやいてみたが実感が無かった。今感じている寒さや痛みほどには、死の観念にはリアリティがない。

 だが、この状況から助かる流れも想像できない。

 じゃあ、やっぱり死ぬのか。

 結局、何もかも未完成のままだ。

 そう考えるとなさけなかった。

 くるみに続いて私も行方不明か。そう思うと少しおかしい。

 捜索隊が出たり、いろいろ迷惑がかかるな。

 そう思ってもあまり申し訳ないという気持ちにならないあたり、私は人として何かが欠けているのかもしれない。


「そうか、死んじゃうのか」

 もう一度口に出してみる。やけに冷静な頭で、ああそうだ、タバコをすっておこう。そう思った。

 左手一本でタバコを取り出して、くわえて火をつけるのは案外大変だった。人生最後の一本かも、そう思いながら深く肺に入れたが、ちっとも美味くは感じなかった。

 くわえたままにしたタバコの火が消えるころ、再び雪が降り始める。

 できることはあまりなかった。

 窒息しないように顔に積もる雪を払いのけ、十分おきに携帯のアンテナが一本でも立っていないか確かめる。カロリーメイトが二箱バックパックに入っているのだが、いつそれを食べるべきが判断がつかない。

 だんだん身体の表面の感覚がなくなってきた。細胞の火が一つ一つ消えて、末梢神経が端からじわじわと死んでいく。痛みも恐怖もどこか遠い。

 たしかなのは心臓の鼓動と、脳への血の供給が薄れていく感覚だけ。のこりの身体はどんどん透明になって消えていく。

 死とはこういうものだろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。