47 墜落
冬の森は動きにも色彩にも乏しいが、むしろそれゆえに生命の気配にあふれている。
せわしげに樹間を駆け抜けるウサギの足跡、それを追うキツネの足跡。トドマツの根元には、樹皮をかじりにきたエゾシカたちがころころとした糞を残し、針葉がスプレーしたみたいに薄く散らばっている。
三時間ほどかけてゆっくり走りながら、冬の森の様子を観察していたのだが、ふと衝動にかられてモービルを降りた。
トドマツの根方にしゃがみこんで雪を掘り返す。
地面を見たかった。地面に触りたかった。いっとき隠されてはいても、すべては何も変わらずにそこにあることを確かめたかった。いつか時がたてば、何もかもがもとどおりによみがえるのだと。
だが、私の足下には高さ一メートル近い潅木がまるまる埋もれているはずなのだ。すべてを掘り返すよりも早く、私の頭上に新たな雪が降り始めた。見上げると分厚い雲が、樹冠を隠すほどの近さまで垂れ込めて、青空はどこにも見えない。
あきらめるほかないのだと悟った。
「くるみ……」
ためいきとともに、意味のない独り言が口を付いて出る。
シートの雪を払い、モービルにまたがり、キーをまわし、エンジンを温める。
むなしさがきざして、襟元に落ちた雪のように心を冷やす。寂しさや不安や後悔は、きっといつまでだって後から追いかけてくるのだ。
だから、前に進むしかない。
私は深く上体をかがめ、アクセルを入れた。
マチネシリに向かったあの娘はそのときすでに下山を果たしていた。その連絡を受けられなかったのは、私のほうがペンケトー・パンケトーの山中で低気圧につかまっていたからだ。
風はなかった。ただ湿雪が視界をふさぎ、体に張り付いて体温を奪っていった。パンケトーの岸を北に回れば国道に出るはずだったが、私は近道をしようとして沢を南に越える道を選んだ。針葉樹の密生する斜面は思ったよりも進みづらく、樹間を縫って進むうちに気づかぬくらい少しずつ、進路は東へとずれていった。
雪はいっこうにやむ気配がなく、やがてモービルで進むには危険なほどの密度で視界を閉ざし始めた。
私は待つべきだった。永遠に雪が降り続けるわけはない。私はそのとき、ただ待てばよかったのだ。
だが、すぐ目と鼻の先に国道があるはずだという思いが判断を狂わせた。鉄柵のように並んでいたトドマツのおぼろな陰が消えたとき、森を抜けたと思った私はモービルを加速させた。
ハンドルが下に引っ張られた。体がシートから離れ、モービルを飛び越えて空中に浮かび上がった。
モービルは雪庇を突き抜けて落下し、空中で半回転した私は肩から雪面にたたきつけられさらに数メートルを滑落し、ブナの巨木に激突する寸前で止まった。
大慌てで新雪の中から這い出し、空が見えてほっと息をついた直後、重く冷たいものが私の右腕にのしかかってきた。
遅れて落ちてきたスノーモービルが、律儀にも私の腕の上で止まったのだった。




