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夢占い亭 霞の館  作者: ゆう
第二夢
7/37

~ねぇ、あなたは誰?~3

「あら?あなたが占い師さん?なんとも…まぁ…。」


漠達の自己紹介を終えると、老婦人はやんわり口に手を当てて何とも言えない顔をしていた。それもそうだ、漠の姿は正直言って占い師には全く見えない。


「おばあちゃんの名前はー?」


「漠さん!お客様になんて?!すみません!」


婦人のリアクションなんかお構いなしに漠は尋ね、その様子に慌てて有村は謝る。

いいんですよ、と言って手を振る夫人は微笑んでいた。


「おばあちゃんって言われるくらいに年寄りになりましたからねぇ…。あたしの名前は吉岡タエって言います。タエ婆ちゃんって呼んでくださいな?」


とても優しい笑顔の夫人…タエ婆ちゃんは、そう自分を自己紹介した。


(まぁ…正確には、二人の方が年上なんだよなー…。)


そんなやり取りを千奈美は横目で眺めていた。客人が来たというのに居座っている千奈美だが、なんて事はない、帰るタイミングを失ったのだ。


「じゃあ、タエ婆ちゃん、今日はどんなご用件ー?」


どんな人でも緩い口調は変わらない漠は、タエ婆ちゃんに尋ねる。


「最近ね、よく同じ夢を見るようになったの…。花畑に紳士、そして私が紳士に話しかける夢を見るの。それの意味は何なのか…どうしても知りたくてねぇ…。」


少し困り顔で説明するタエ婆ちゃんに、漠はふむ、とだけ言って考え込んだ。


「タエ婆ちゃん、その夢は、あまり見たくない夢なの?」


千奈美は、そう尋ねるとタエ婆ちゃんは滅相もない!と言って驚いた顔をして続けた。


「とっても幸せな夢…なの。紳士…って言ったけど…あれは多分、主人だと思うのよ。」


途中から、段々とタエ婆ちゃんは俯くと自信がないのか、浮かない表情をしていた。


「あたしはねぇ…戦争の終戦直前に生まれたのよ。お嬢ちゃんは、歳はいくつ?」


「お嬢ちゃんって…柄じゃないんでやめてよ。千奈美って呼んで?えと、私は十四歳です。」


「そう…じゃあ千奈美ちゃんのおばあちゃんより、あたしの方が年上かもね。」


ふふふっと笑うと、タエ婆ちゃんは話を続けた。


「その当時、終戦したからって国が元通りに戻った訳ではなかったわ。食べ物も、服も、住む場所も、街もみーんな、戦争で無くなったのよ。」


昔の光景を思い出しながら語るタエ婆ちゃんは、何だか寂しそうな顔をしていた。


「街がどんどん綺麗になっていった頃には、あたしも、もう一人前の女性になってたわぁ。今の千奈美ちゃんより、少し年上くらいの、十六、七歳くらいかなぁ?」


「え?それってまだ子供じゃあ…。」


「その当時では、女性は立派な大人扱いだったんですよ?」


タエ婆ちゃんを代弁して有村が答える。あら、物知りねぇ、とタエ婆ちゃんは感心すると、そうそうと言って話を続ける。


「それでね、あたし…背広を着た紳士服の似合う男性を…好きになったの。一目惚れでねぇ。それで、向こうも、あたしを一目見て結婚したいって思ったらしいの。それが、主人だったの。」


わぁ、と言って千奈美は顔を輝かせる。やはり年頃の女性は色恋沙汰の話が好きなようだ。


「周りの反対を押し切って、あたし達は結婚して、子供が出来て、孫も出来て…何不自由なく、とまではいかなかったけど、幸せに暮らしてたんだけど…。」


そう言ってタエ婆ちゃんは話を区切ると、悲しい顔をして俯き、話すのが辛いのか、涙を溜めている。

有村はそっとティッシュ箱を差し出すと、タエ婆ちゃんはありがとう…と小さく会釈すると涙を拭いた。


「主人が一年前に亡くなって…家にあたし一人になっちゃってねぇ。あたしの子供達は一緒に暮らそうって言ってくれるのよ。…でも主人と過ごした思い出の家から離れるのは…やっぱりねぇ…。」


そう言って区切ると、タエ婆ちゃんは夢の話をし始めた。


「それでね、主人が亡くなってからというもの、何だか知らないけど悪い夢をよく見るようになっちゃって。辛かった思い出とか、戦時中とかねぇ。」


一人になってしまってから、悪夢を見るのは確かに辛い。千奈美はタエ婆ちゃんの気持ちになって考えると、そう思った。

しかし、タエ婆ちゃんはでも、と言って話を続けた。


「主人の一周忌が近づくにつれてピタっと見なくなって。」


それで、あの夢を見るのよと言ってタエ婆ちゃんは漠を見た。


「主人は、あたしに何か言いたい事があるんじゃないかって思うんです。あたしも、夢でいいから、主人と話したい。何か…何か分かりませんかね…?」


まるで懇願するように、タエ婆ちゃんは漠に尋ねると、漠はゆっくり立ち上がり、店の奥へと入っていった。

キョトン…とするタエ婆ちゃんに、しばらくお待ちください、と有村が言うと、やはりゆっくりした動作で漠は帰ってきた。


「タエ婆ちゃん、このお香にはリラックス効果があるのー。ちょっとだけ焚かせてねー?」


手には小皿、その上にはお香らしいものが乗っている。

はぁ…と困惑気味なタエ婆ちゃんの事なんかお構いなしに、漠はお香に火をつけた。

細い煙が上がると、お香独特の良い匂いが部屋全体を包み込む。


それと同時に、タエ婆ちゃんは、頭をゆらゆらさせながら眠そうな顔をしている。


「おかしいねぇ…たっぷり寝たはず…なのにねぇ…。」


その言葉を最後に、タエ婆ちゃんは意識を失った。



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