~ねぇ、あなたは誰?~4
「…ん…んー…。」
「あ、タエ婆ちゃん、起きたー?」
タエ婆ちゃんが目を覚ますと、周り一面が花で埋め尽くされていた。
「ここは…あの世かい…?」
「とんでもないブラックジョークだね、タエ婆ちゃん。」
「ご夫人、まだお迎えは来てませんよ?」
タエ婆ちゃんの発言に漠はクックックと笑い、有村は丁寧な口調で返す…が、結局ブラックジョークで返してしまった。
状況が飲み込めないタエ婆ちゃんは目をぱちぱちとする。
「えっと、タエ婆ちゃん、冷静に聞いてね?漠さんと、有村さんは今、タエ婆ちゃんの夢の中にいるの。それで夢を見させる原因を突き止めようとしてるの。」
「おやまぁ…えーっと…よく分からないけど…今、不思議な事が起こってるんだね?」
「うん、最初、私もびっくりしたけど、漠さんは夢を食べる『獏』っていう伝説の生き物なんだって。信じれないかもだけど。」
「へぇー……。あたしも長生きしてるけど、人が夢の中に入ってくるなんて初めてだよ。」
「あの…ナチュラルに会話に入ってますけど…。」
そう言って何とか現状を理解しようとしているタエ婆ちゃんに、有村は割って入ると、素朴な疑問を投げかけた。
「…何で千奈美さんがタエ婆ちゃんの夢の中に?」
「…え?…あ、そういえば…。」
そう、何故かタエ婆ちゃんの夢の中に千奈美も紛れ込んでしまっていたのだった。当の本人である千奈美も首を傾げる。
有村は夢の介入をしている漠を見ると、漠も額に指を当てている。何かを思い出そうとしている素振りだ。
「えーっと…書物に書いてあった事なんだけど…。」
漠は前置きをして説明を始めた。
「たまに人は同じ夢を見るという現象が起こるらしいー。んと、双子とか兄弟とか、身近にいる人がねー。まぁ何故見るか、までは解明されてないんだけどー。」
そう言って区切ると、おそらくだよ?と、また前置きをして言葉を続けた。
「仮説だけど、気持ちのシンクロが原因じゃないかなー?」
「気持ちの…シンクロ?」
「そう、ちーちゃんは、おそらくタエ婆ちゃんの気持ちを考えて、自分に置き換えた、その気持ちと夢がシンクロして、こうやって夢の中に現れた…って事じゃないかなー?」
千奈美は漠の言葉にハッとした。
悪夢を一人で見るのは、辛いと確かに思った。それが原因だとは思っていなかった千奈美はタエ婆ちゃんとは違う意味で驚いた顔をしている。
「まぁつまり、ちーちゃんは人の気持ちに寄り添える優しい子って事さー。」
そう言って漠は千奈美の頭を撫でる。思ったより大きな漠の手に千奈美は頭も気持ちも、くすぐったく感じた。
さて、と漠は呟くと、花畑を歩いていく。その後ろを有村も付いていく。
しゃがみ込んでいたタエ婆ちゃんと千奈美は慌てて立ち上がると、二人の背中に付いていった。
しばらく漠は何も言わずに歩く。その歩みには迷いがない。まるで目的の場所が分かっているかのような足取りだ。
「待って!待ってよ!!あなた!あなたなんでしょ?!」
しばらく歩いていくと、誰かの叫ぶ声が聞こえてきた。
四人は顔を見合わせると、その声がする方へ歩みを進めた。
すると、少女が背広を着た紳士服の青年に話しかけていた。
「あ…あれは…?」
千奈美が声を漏らすと、タエ婆ちゃんは、さも当たり前のような顔をして、疑問に答える。
「あれは若い頃のあたしだよ。」
「えー?!…え?…えー?!」
千奈美は少女とタエ婆ちゃんを見比べて声を上げた。
「ちーちゃん、それはさすがに失礼だよー!」
千奈美の驚く姿に漠は腹を抱えて笑っている。漠さんも失礼です、と有村は漠の頭を小突いた。
「あたしだって若い頃は可愛かったんだからー。」
そう言ってタエ婆ちゃんは懐かしむように少女…若かりし頃の自分を見つめていた。
そんなやり取りをしている間にも夢の中のタエ婆ちゃんと紳士は花畑を進んでいく。
すると、今までで一番大きな声で少女のタエ婆ちゃんが叫ぶと、紳士は歩いていた足をようやく止める。紳士と同じように少女も足を止めると、紳士はゆっくりと振り返ろうとした、その時だった。
「動くな…。」
カチャリ、と金属音が千奈美のそばで聞こえた。
千奈美達が気づかぬ間に有村は『夢装神』と呼ばれる拳銃に変わっていて、その銃口は、あろう事か、紳士の背中に向けられていた。
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