~届かない声~9
「俺には兄弟とかいなくって、親は共働き。家にはいつも一人…。運動神経とかもよくなかったから友達とのサッカーとか野球とかにも混ざれなくて…いつも一人だったんだ。」
とても寂しそうに話す園田に、その場にいた全員が耳を傾けた。
「中学に入っても変わらなくて、いっつも音楽ばっかり聴いていたんだ。イヤホンをしていたら羨ましくなる楽しい声も、掛け声を上げて頑張る部活動の声も、全部聞かなくて済むから。」
ライブや歌詞では想像出来ない園田の素の姿に、千奈美は黙って聞いている。
「そうしたらね、俺のイヤホンを取って話し掛けてくるやつがいたんだ。」
『お前さ、いつも何の音楽聴いてるの?』
思い出すように園田は天井を見上げると、また話し出す。
「それが隼人…あ、千奈美ちゃん以外は知らないですよね。俺のバンドのベースやってるやつなんです。」
いちいち丁寧に説明するところが園田らしい、といえば園田らしい。そんな話し振りを誰も急かす事なく聞き続ける。
「それで、聴いてるアーティストを言ったら隼人も好きだったみたいで。そこから意気投合して友達になれて…。音楽ってこうやって人を繋いでくれるんだーって、すげー感動したんです。」
その頃が大切な思い出なのか、園田はふふふ、と笑うと話を続ける。
「そして中学を卒業したらバンド組もうって話になって、軽音部に入って、メンバーが集まって…そこから色々と脱退とかもあったん ですけど…そのおかげで最高のメンバーに出会えたんです。」
話を聞くと先輩三人が卒業と共に脱退、その後に二歳年下の後輩として入ってきた宗一がギターとしてメンバーに加わり、宗一の知り合いとして紹介された梨花が加入。その後、練習スタジオに張り付けたメンバー募集に連絡してきた慎太郎が最後に入って今の『Black Horn』の形になったようだ。
「メンバーと仲良くなって…ライブハウスでライブするようになって…気付いたら音楽仲間がどんどん増えて…お客さんやファンもゆっくりゆっくり増えていって、今のインディーズレーベルの社長に出会って…全国的に俺らのバンドの知名度も上がって…凄く!…凄く…幸せだったんです。」
嬉しそうに話をしていた園田であったが、話の途中で急に元気がなくなってしまい、また俯いてしまった。
「でも…有名になれば…俺も…やっぱり…歌詞とか…いい加減な事とか言えなくなって…自分が歌いたいって、そう思う言葉って…なんだっけ?…って、そう思い出したら…怖くなって…。」
「…それで…活動休止…ですか?」
躊躇いがちに千奈美は尋ねると、園田は弱々しく頷き、そして項垂れてしまう。
自分の言葉が時として人の心や人生に影響する事はある。それはプラスになる事もあれば、もちろんマイナスになる事だってある。
それが全国、という規模であれば尚更、園田達の肩にプレッシャーがのし掛かるのは間違いない。
昨今、マスメディアの発信は問題視されているが何も新聞やテレビだけではなく、音楽だってそのマスメディアの一部だ。それが園田達の音楽を聴いて何かしらの影響力を及ぼす可能性はゼロではない。
「俺は…俺の言葉が怖い…。だから…ステージで…お客さんの前で…CDで…曲で…伝えるのが…怖い…。」
項垂れた園田の姿は脆く、今にも崩れ落ちそうであった。
そんな園田に誰もがどう声を掛けてあげればいいか分からない状況で園田に声を掛ける人物がいた。
「…別に…そんな事、気にしなくてもいいと思います。」
それは…千奈美であった。
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