~届かない声~8
戦いを終えた漠はゆっくりとした足取りで園田達に手を上げる。
「…漠さん、大丈夫ですか?」
「んー?あー、うん大丈夫。かすり傷程度さー。」
ボロボロになった姿の漠に千奈美は心配するが、別段気にしていない漠は肩を回して腰をひねった。
「…く、くくく…そんな…に…のんびりしてい…られるのも…い、今の内…ですよ…。」
大の字になって倒れるかまいたちは息も絶え絶えの様子で漠に話しかける。
「…わ、私を倒し、ても…『あの人』が…いずれ…あ、あな、たを…人、間を…滅ぼ、すさ…。ふ、ふは、はははは…。」
意味深な発言を残したまま、かまいたちは一方的にそう言うと姿は徐々に代わり、そしてその姿は人魂へと変化した。
「…あの人って…誰の事なんでしょう?」
「…。」
かまいたちの言葉に千奈美は首を傾げるが、漠はまた険しい表情を浮かべる。
「…ば、漠さん?」
「…ん?あぁ、うん、気にしないでー?それより、そのっちも『フェアリーロンド』やってたんだー。」
顎に手を当て考え込む姿の漠に千奈美が声を掛けると、ハッとしていつもの漠に戻ると、あからさまに話を逸らして園田に話しかける。
(…私…そういえば漠さんの事…よく知らないかもしれない…。)
千奈美は漠の横顔を見てそう思った。漠が睡魔だという事、どうやって生まれたのか、何故、悪夢から人を助けるのか…漠の表の顔は知ってはいても、漠の裏の顔はよく知らない。そんな時、漠が戦いの最中で千奈美に向けた顔を、その言葉をふと思い出した。
『その話は、また詳しく話すから…今は僕を信じて?』
(…そうよ…どんな話でも…たとえどんな漠さんであっても、私は漠さんを信じる。話してくれるのを待つ…。)
千奈美はぎゅっと両手を握って園田と談笑する漠を見た。その様子を元の姿に戻った有村は、複雑そうな表情で見ているのであった。
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「……!……な……も……!」
「…ってー………も…」
「……と……つい……い…」
(…騒がしい…。)
園田は定まらない意識の中、周りの声に少しだけ眉間の皺を寄せる。その声は近くに聞こえていて、聞き覚えのある声であった。
「…からー!…の…ょくは……高……ン…ル…んです!!」
「……言わ…もなー……にはさ……り…んだもん。」
「うるさい!!いい加減にしろ!!」
「うひゃあ!!ご、ごめんなさい!!!」
怒鳴り声が耳元でした瞬間、園田はビックリし、そして慌てて椅子から転げ落ちた。見える景色は木製の天井に、おびただしい数の本棚…。
「大丈夫ですか…?」
「うわわわわ?!だ、だだ、大丈夫です!!大丈夫ですよ!!」
そして、倒れた園田を心配して顔を覗き込む有村に更に慌てる。至近距離で見つめられた園田は耳まで真っ赤にして急いで起き上がった。ぐるりと周りを見渡すと、そこは紛れもなく眠る前にいた場所、『~夢占い亭 霞の館~』であった。
「も…戻ってきた?」
「んー、まぁ現実世界に戻ってきたのは確かだねー。」
目をパチパチさせながら意識をはっきりさせようとする園田に対して頬杖をついてニヤける漠、心配そうにする有村、腕を組んで怖い顔をするソムリュ、携帯型音楽プレイヤーを片手に立ち止まる奇妙な状態の千奈美が一斉に園田を見ていた。
「…あ、あのー、千奈美ちゃんは、何してるの?」
「あ、いや、これは、そのー。」
千奈美は手にしていた音楽プレイヤーを急いで鞄にしまうと、その様子に漠は更にニヤニヤした顔をしている。
「いやねー、ちーちゃんが何かぐ、ぐろ…なんだっけ?」
「Gloriaです!!…ってそうじゃなくて!!」
「そうそう、その曲は絶対に聴くべきだーって騒いでねー。」
「漠さん!!もーーー!!」
そう説明している漠に怒った千奈美は、ぽかぽかと漠を叩いた。
「…ありがとう、千奈美ちゃん。」
園田は俯きながら礼を言うと、思わず千奈美も叩いた手を止めた。
「お…俺ね、実はさ、友達がいなくて…。緊張しやすくて、人見知りで、その、自分にも自信なくて…暗いイメージっていうか、まぁ…よく誤解されるんだ。」
小さな声でそう言うと、園田は顔を上げて話し出した。
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