~飛べない鳥~2
「あと一点で決勝よ!!皆、気合いを入れ直すよー!!」
「おーー!!」
ここは、とある体育館。県内の中学生がバレーボールの全国大会の切符を掛けて熾烈な争いを繰り広げている。
千奈美の通う中学校は去年までは全国大会なんて夢のまた夢、といった実力ではあったが、今年から監督が代わり、大幅な練習改善のおかげもあり準決勝まで駒を進めた。
しかし、やはり準決勝まで来ると強豪校ばかりが残る。千奈美達の対戦相手は去年準優勝した中学で、そう簡単には勝たせてはくれない。
それでも第一セットは千奈美達が、第二セットは相手チーム、迎える第三セットは二十四対二十二と千奈美達が王手を掛けていた。
「最後は千奈美にボールを上げる、必ず一点をもぎ取って!」
「任せて、皆で決勝、そして全国に行こう!」
「頼りにしてるわよ、エース!」
セッターであり、千奈美の一番の友人であるリカの表情は真剣そのものであった。
千奈美はそのリカの気合いに応えると、メンバーは定位置についた。
(あと一点…あと一点で決勝…!!)
そう自分に言い聞かせて千奈美は気持ちを高ぶらせていた。
審判のホイッスルが鳴り、相手チームのサーブがネットを越える。
リベロがそのボールを優しい手つきで打ち上げると、綺麗な放物線を描きリカの手元へ。
もう何度も何度も練習を重ねた連携。打ち合わせ通り、ボールはリカから千奈美へとパスされる。
まさに理想的なパスは千奈美が一番スパイクの打ちやすい高さへと上がった。
(このエリアなら、絶対に取られないコース!私が決めるんだ!!)
飛び上がった千奈美は渾身の力を込めて相手チームコートのアウトラインのギリギリへ打ち込む。
審判は厳しい顔をした後、力強くインを示す旗を高々と上げた。
(やった…勝った!)
千奈美は着地の最中、自分達の勝利に安堵していた。次の決勝で優勝間近である喜びと緊張からの解放で笑顔に満ちていた。その時である。
(ぐきっ!)
「あっ!あぁぁぁぁぁっ!!!」
着地に失敗した千奈美は足を抱えて、その場にうずくまってしまった。
その尋常じゃない叫びにリカは振り返り、急いで千奈美の元に駆け寄る。
「千奈美?…千奈美!!!」
続いてチームメイトも千奈美を囲むように駆け寄るが、痛みに苦しむ千奈美は自分で立ち上がれず、その場にうずくまったままであった。
駆けつけた監督が千奈美の足を見ると、担架を用意するよう指示する。そんな心配の声が体育館を包む中、疲労と痛みの中で千奈美の意識はゆっくりと暗闇へと誘ったのだった。
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「それで…起きた時は病院で…。」
そう言って千奈美は俯き、悔しい表情をいっぱいに広げていた。
「足は捻挫で大事には至らなかったんですけど、腫れが酷くて決勝までには治せなかったんです…。」
そして、千奈美のチームはエース抜きで決勝の試合に挑み、一セットも取れず惨敗。全国進出を前にして敗退してしまったのだ。
「そっかー。んで、ケガは?もう大丈夫なの?」
「はい、もうケガは。元々、大した事はなかったんで大丈夫なんですが…。」
心配したような様子があまり感じられない口調で尋ねる漠に、千奈美も答えるが、千奈美の表情は変わらず浮かない顔であった。
「……飛べないんです。」
「…飛べない?」
オウム返しで尋ねる有村に千奈美は頷いた。
「はい…ケガをした日から、あの日の夢をよく見るようになって…怖くて飛べないんです…。」
「ふむ…。」
神妙な顔つきで聞いている漠だが、何故か様にならない。やはり口調だけではなく、身なりの不格好さがそうさせるのだろうか?
一方の隣で聞いている有村は顎に手を当てて何かを考えている。その姿は謝っている姿とは全く違い、まるでモデルと勘違いしてしまうほどに美しく見える。
「…あ、あのー…これって占いでどうにか原因が分かるん…でしょうか…?」
二人の沈黙に耐え切れず千奈美が尋ねると、漠は何も言わず立ち上がると、無言でゆっくりとした動きで店の奥へと進む。
「あ、あの?」
「準備を致します。こちらで少々お待ちください。」
慌てて立ち上がる千奈美に対して、有村が手で制すと千奈美もおずおずと椅子に座り直した。
しばらくの沈黙の後、またゆっくりとした動きで漠が戻ってきた。
「お待たせー。今からちーちゃんのお悩みを解決したいと思いまーす。」
「え…と、は、はい。…って今から何をするんですか?」
戻ってきた漠の言葉と急な展開に千奈美も着いていけずに何とも言えない顔をするが、依然マイペースな漠は占いの準備らしい事をしている。
「んー?ちーちゃんは、別に何もしないよー?ただリラーックスしてくれたらいいからー。」
「は、はぁ…。」
リラックスしてくれと言われても、どうしていいか分からない千奈美は、曖昧な返事をするほかなかった。
そんな中、漠は小さな受け皿に何か小さな山型の固形物を置いた。
形とサイズからして、何かのお香であろう物にポケットから取り出したライターで火をつけると、ゆっくりと煙が上がった。
「あの…これは?」
「あー、これ?これは怪しい物じゃないよー?身体に何の毒もない、んー、アロマ?みたいなやつ。まぁリラックスさせる物だよー。」
漠の何ともざっくりな説明に、訝しげな顔をすると、有村も優しい顔で頷いていた。
「え…っと…麻薬…とかじゃないですよね?」
「違う違うー。そんな危ない物なんか使ってたら僕、捕まっちゃーう。」
漠はおどけた顔をして手錠を掛けられるポーズを取ると、有村に冷たい目で一蹴された。
そんなやり取りをぼんやりと見ている内に、千奈美の様子がおかしくなる。
「それ…なら…いい…で…す…あれ…?何だ…か…眠…い?…お…かしいな…。」
そうしている内に千奈美の眠気は更に増していく。そして、ついには座っていられなくなるなり、身体をゆっくりと机に預けた。
「おやすみー…。」
遠のいていく意識の中、漠の能天気な声が聞こえ、やはり怪しいものを使われたんだ…と思ったのを最後に、千奈美の意識はそこで途絶えた。
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